第10話 デートの準備

凛と好葉が泊まりから帰った今日、祝日だが、何も予定がない。


時間を持て余しそうだったので、カフェにでも行き、読書でもしようと考えていた矢先、1通のメールが届く。


『帰る時少し取り乱しちゃったから言えなかったんだけど、明日一緒に出かけない?』


いきなりのことだったので少し戸惑った。女の子と出かけるなんて経験が無いに等しいからだ。あるにはあるが、あれは嘘告された時の嫌な過去だ。


どこへ行くのかと聞くと、

『色んな場所を一緒に回ってお互いのことをもっと知りたい』

という返信が来た。


お互いのことを知りたいというのは、もちろん太陽も同じだ。


『わかった、俺も橋岡さんのこと知りたいから明日どこかに行こう』


ぎこちない文章で返信した。


だが、ここで問題が生じる。女の子どころか友人と遊びに行く時に着るような服を持ち合わせていない。さらに、髪をセットする技量もない。


こういう時に頼りになる人。太陽の中でパッと思いついたのは好葉だ。好葉は兄とは対照的で明るい性格だ。アイツには少し前まで彼氏がいたので、少しばかり頼りにはなるだろうと考えた。


太陽は妹に助けを乞うため、メールを送った。

どんな洋服を着るべきか、どんなプランを考えるべきか、など。


返信は一瞬で来た。


『もう一度家に向かうから出かける準備しといて』


好葉は今朝帰ったばかりだというのに、また家に来るらしい。


(そこまでしてくれるのか…流石は俺の妹、いい子すぎるな)


太陽は身支度を終え、妹の到着を待つことにした。



◆◆◆◆◆


そういうわけで、妹と繁華街に来た。 

ショッピングモールなんて来るのは久々なので、慣れない人混みの中をかき分けながら、好葉と共に様々な店を回っている。


モール内に比較的安く、名前の知れた店があったので、そこに入る。


「で、まずは洋服だね。おにい、普段どんな服着てるの?」

「高校生になってからは適当に着てる。着れれば何でもいいと思って…」

「ダメだよそれじゃあ。高校生なんだからもっと身だしなみに気を遣わなくちゃ」 


(なぜ一つ年下の高校生に親みたいなことを言われなきゃいけないんだ…)


「あ、でもシンプルな無地のシャツとか…」

「どうせそれしか持ってないんでしょ!」

「い、忙しかったんだから仕方ないだろ」

「忙しかったって…それはおにいがちゃんと家の中を片付けないからでしょ!手伝ってくれた凛さんにも感謝の意を込めて、せめてちゃんとした私服でデートに行きなよね」


妹が母親似のせいか、自分がまるで母親から説教を受けているような感じがして、少しムッとなってしまった。


「あっ今嫌そうな顔した!」

「してない」

「してた!」

「気のせいだよ気のせい。それより、俺に似合う服を教えてくれ」

「むぅ…」


好葉は少し不満気のある顔を見せつつも、俺の服を選んでくれた。


「んーと…これなんかどう?」


好葉が選んでくれたのは、濃い緑色のカーディガンだ。


「おにい、無地のシャツ持ってるって言ってたよね?何色?」

「白と黒のシャツがあるけど」

「それってロンT?」

「うん」

「じゃあ、このカーディガンと…このズボンだね」


好葉がもう一つ選んだのは黒のテーパードパンツ。


「じゃあ、それ会計に持ってくか」

「あ、おにいは外で待ってて」

「え、なんで?」

「いいから!」


なぜ好葉に店の外に出るように言われたのかよく分かっていないが、とりあえず言われた通り店を出た。3分ほど経って妹が商品袋と思わしき物を持ちながら俺のところへ来た。


「いくらだった?今渡すから__」

「いいよお金は。ここは出してあげる」

「え、いいのか?こんなに買ってもらって。お金は大丈夫?」

「いいのいいの。おにいがせっかくデートするっていうんだからこれくらい買わせて!」

「あ、ありがとう…!」


なんていい子なんだ、この借りは絶対倍にして返そうと心に誓った太陽であった。


◆◆◆◆◆


「ところでさ」

「どーしたの?」

「その…デートのプランってどういう感じで決めればいいのかなって」

「あぁ、なるほどね」


ここ最近で遊んだ友人といえば西山くらいしかいないが、あいつと遊びに行くってなったら映画に行くか書店をぐるぐる回って漫画や小説をジャケ買いしてお互いに感想を言い合う、なんてことくらいしかしない。だから女の子と遊ぶ時、どういうプランを立てればいいか分からなかった。


「そんなおにいの為にデートのプランを紙に書いて持ってきたから渡すね…って言いたいところだけど」

「え?」

「プランくらいはさ、自分で考えて決めるべきだよ、おにい」

「それは正論だけどさ…橋岡が俺の考えたらプランで楽しんでくれるか分からないし」

「そういう自信のないところも治さないとね」

「それは分かってるよ」

「あ、これは言っておくけど、凛って呼んであげなよ?」

「まぁ、それは頑張るよ」

「まぁ…しょうがないから、どうしてもプランに困った時の為にこの紙を見てね。困ってないなら紙の内容はダメだから」


好葉から二つ折りになっている紙切れを渡された。


「分かった。まぁ、俺も頑張ってみるよ」


確かにこういうのは自分で考えるべきだ。せっかく妹にまで洋服を買ってもらったんだから、あとは自分で頑張らなきゃな。  


「じゃあ明日、頑張ってね」

「ああ、ありがとうな、好葉。何か困ったときはいつでも俺の家に来てくれ」


好葉と解散し、明日のデートをどうするか自分なりに考えることにした。

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