第9話 妹からのお願い

おにいなんかのどこを好きになったの?」

「っ?!」


◆◆◆◆◆


察しのいい好葉は凛が太陽に思いを寄せていることには気づいている。いたずらっ子のように笑いながら、凛が太陽のことを好きになった経緯を聞く。


「す、好きっていうか」

「ほらほら、誤魔化さないの」


恋バナとはいえ、相手は思いを寄せている人の妹だ。凛は分かりやすいほどあたふたしてしまう。



「実はね、私も似たような経験してるからさ、高宮くんの痛みは分かるし、放っておけないんだよね」

「あー…確かにあの事件以来、まるで人が変わったかのように暗くなっちゃったよ」


太陽は中学時代に好きだった女から嘘告をされて以来、女性が苦手だ。


「それでもね、私のことを信じて昔のことを打ち明けてくれたことが嬉しいの」

「そっか」

「だから、高宮くんとなら、私も乗り越えられるかなって」


小っ恥ずかしそうにしている凛とは対照的に、好葉は真剣な顔で話を聞いている。


「私が悪いんだけど、勢いで告白しちゃった」


凛の言葉を聞いて好葉は目を丸くする。


「え、おにいにもう告ってたの?」

「う、うん」

「でもさっき彼女じゃないって…」

「流石に振られちゃったよ」

「なっ…」


好葉は疑問に思う。普通、振られた相手に手料理を振る舞ってもらえるものだろうか。


「理由とかって聞いた?」

「えっとね、まだ出会って2日でお互いのことあまり知らない状態でいきなり付き合うのは早いって…」

「んもう、おにいのヘタレ!」

「ちょ、好葉ちゃん声が大きいよ〜!」

「でもね」


好葉は再び真剣な顔で凛を見る。


「凛さんがおにいと仲良くなってくれたこと、本当に嬉しいんだ。おにいが女の子を苦手になってから、しばらくは妹の私のことすら避けるほどだったもん」


今でこそ平気だが、太陽が女性を苦手になって以来、妹である好葉でさえまともに目を合わせて会話することも出来なかった時期がある。


「だから、凛さんがおにいと仲良くしてくれてるのがすごく嬉しいんだ。あんな元気そうにしてるとこ、久々に見たし」

「そうだったんだね…」

「これからも、おにいのことよろしくね、凛さん」

「もちろんだよ、私は何があっても高宮くんの味方」


凛がそう言うと、好葉は安心したような笑顔を見せる。


「そろそろ寝よっか」

「あ、ちょっと待って凛さん。一つお願いがあるの」

「お願い?」


好葉は凛に何かを告げた。


◆◆◆◆◆


「高宮くん、高宮くん!」

「…ん?橋岡さん?」


起きると目の前に立っていたのは凛だった。


「えっと…好葉は?」


太陽は眠い目を擦りながら凛に尋ねる。


「好葉ちゃんは帰ったよ〜。私もそろそろ家に戻ろうと思うけど、朝食作っておいたから後で食べてね」

「朝食まで作ってもらうなんて…ありがとう」


まだ恋仲ではないとはいえ、美人に朝食まで作ってもらえるのだから思春期にとっては内心嬉しいものだ。だが太陽はなるべく嬉しさを見せないようにしている。照れくさいからだ。


「じゃあまた学校で」

「うん、じゃあね、太陽」


(……ん?)


凛はそそくさと玄関を開けて帰っていってしまった。


「急に名前で呼ばれるなんて…」


そう思っていた時、好葉からメールが来た。


『おにいも凛さんのこと名前で呼びなよ!』


「好葉のやつ、余計なお世話だっての…」


だが、下の名前で呼ばれたことを内心嬉しく思っている太陽であった。

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