第4話 過去のトラウマ ②

4時限目が終わり、昼休憩に入った。


これから橋岡に過去の話しをするわけだが、やはり不安ではある。俺の過去を知っているのは西山だけだ。実は西山は中学から同じだから俺の事情は知っている。あいつの事は信用できるからいいが、それ以外の人間を信用するのはまだ怖い。


それでも、橋岡と過去のトラウマを共有する事が、俺の女性に対する苦手意識を克服する鍵になるのなら、橋岡を信用する価値はあると思う。


「太陽、食堂行くか?」


左斜め前の席に座っていた西山が昼のお誘いをしてきた。


「悪い、今日の昼はちょっと用事があるんだ」

「お前が用事って珍しいな。女か?」

「なっ…」

「おっもしかして図星か?」


図星といえば図星だが、俺は人としてトラウマを克服する一歩を踏み出しに行くだけだ。決して色恋沙汰があるわけではない。


「何でもいいだろ…今度話すよ」

「まあ無理に聞こうとは思わないからな。俺は食堂にでも行ってくるわ」


そういうと西山はすぐに食堂へ行った。あいつは何でも見透かしてくるからな、恐ろしいやつだ。だが唯一の理解者でもある。これ以上は聞かないでおこうと思ったのか、空気を読んでくれた。


そして俺も昼ごはんを片手に屋上へと向かった。



―――――――――


屋上へ上がると、先に橋岡が待機していた。


「あ、高宮くん。こっちこっち」


右手に見えるベンチに橋岡が座っていた。俺も橋岡の隣へ座る。


「とりあえず、昔のことを話してもいいでしょうか」

「うん」



あれは中学2年生の頃の話だ_____


自分に自信が持てず、内気な性格である今と違い、中学2年生の頃はまだ性格も明るい方だった。部活はサッカー部に所属していた、部活での友人もそれなりにいた。間違いなく充実していた。この時までは。


別のクラスに、いわゆる学校のマドンナ的存在である、川井遥という、校内ナンバーワンと言っていいほどの人気を誇る女子がいた。


教師からも一目置かれるほど、彼女は誰にでも親切にし、成績も良いから沢山の人に頼られていた優等生である。これが表での顔だと誰も気づかないほどに。


ある日の部活での練習で、俺は足を挫いた。その時、たまたま見ていた川井が俺のところへ駆け寄ってくる。


「君、大丈夫?」

「あぁうん、大丈夫。ちょっと足首を捻っただけだから」

「大丈夫じゃないじゃん!保健室連れて行ってあげるから肩に手置いて、ほら!」


川井に強引に保健室へ連れて行かれたが、美少女に連れて行ってもらえるんだから悪い気はしなかった。




俺はその日から川井に惹かれ始めていくようになり、勇気を出して夏祭りに誘うことにした。


「あの、川井さん!俺のこと覚えてるかな」

「もちろん覚えてるよ。サッカー部の…高宮くんだよね?」

「うん。よかったらさ、今度の夏祭り、一緒に行ってほしい」


県大会でpkを蹴ったあの瞬間に並ぶほどの緊張を感じた。


「私なんかでいいの?」

「その…川井さんと行きたいから」

「ほんとに?嬉しいな。私も高宮くんと一緒に行くなら楽しみかも!」

「ほ、本当?!」


勇気を出してよかったと思えた。こうして川井さんと夏祭りに行けることになったが、天国から一気にどん底に突き落とされるとは、この時は微塵も思っていなかった。


俺が人との関わりを減らし、尚且つ女性を苦手になったきっかけとなる出来事が起こる。

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