第8話 防衛出動

西暦2024(令和6)年4月27日 日本国東京都 首相官邸地下


 国家安全保障会議の場にて、川田首相らは報告を受けていた。


「海上自衛隊護衛艦隊司令部より入電。第1任務群は無事に中国海軍潜水艦の警戒網を突破し、沖縄本島より南東に200キロメートル沖合の地点に到達したとの事です。続けて第4護衛隊群も現場海域に到達し、海上警備行動を開始したとの事です」


「おお…」


 富川統合幕僚長の説明を聞き、閣僚一同の顔が明るくなる。川田も安堵の息をつく。


「一先ず、海自は準備が整った様ですね。陸自と空自はどうですか?」


「まず陸自ですが、水陸機動団第1連隊は輸送艦4隻とともに沖縄本島に到着。第一空挺団第1大隊も輸送機で先行する形で展開しております。特殊作戦群も1個中隊を輸送機による空挺降下で与那国島に先行して突入させ、現地の警備隊を救出する予定です」


 離島防衛に対する陸上自衛隊のアンサーの一つに、特殊部隊の増強があった。宣戦布告をかましてきた上で堂々と上陸作戦を仕掛けてきた敵艦隊に対しては、地対艦ミサイルのつるべ撃ちで海底へ叩き落とすのみであるが、奇襲を経て占領された後となると、どうしても陸上での戦闘で雌雄を決する事が求められる。


 よって、水陸両用作戦を専門とする水陸機動団の編制と、ハーケイ歩兵機動車の配備による第一空挺団の質的向上、そして特殊作戦群の戦力強化によって、万が一後手に回った時の対策を講じていた。さらに沖縄本島では、公安委員会の特別執行部隊が自衛隊の作戦行動に邪魔をしてくるであろう市民活動団体の監視と、明らかに中国の息がかかっている者達の『テロ等準備罪違反の容疑に基づく検挙』が実行され、中国の世論工作による妨害を事前に阻止していた。


「航空自衛隊も、第9航空団はすでに臨戦態勢に移行し、本州からは第8航空団隷下の第9飛行隊が展開。反撃体制を整えております。これによって第1任務群及び第4護衛隊群の負担は減らせる筈です」


 尖閣諸島危機以降、航空自衛隊は質及び数の両面での戦力向上を目指し、第9航空団の戦闘機を全てF-35A〈ライトニングⅡ〉に更新。続いて第8航空団隷下の新部隊として、F-15E〈ストライクイーグル〉戦闘爆撃機を日本独自のアレンジを加えてライセンス生産し、新規編制された第9飛行隊に配備していた。〈F-15EJ〉の名で呼ばれるそれは、〈ストライクイーグル〉の機体に〈F-2〉戦闘攻撃機のアビオニクスを組み込んだもので、国産の火器管制レーダーやミサイル指令装置を有している。これによって国産の空対空ミサイルや空対艦ミサイルも運用可能となり、戦闘攻撃機として遜色のない性能を得たのである。


「…矢野やの外務大臣、中国側の動向はどうでしょうか?」


「はっ…相手は本来あるべき行動を果たしたに過ぎないとの一点張りであり、尖閣諸島を中国領として認めない限りは占領を続けると主張しております」


 相も変わらず相手は姑息である。相手は間違いなくその間に既成事実を固めてくるであろう。遥か遠く東欧の地で繰り広げられた戦争を俯瞰する立場にいたからこそ、その厄介さは身に染みていた。


 とその時、富川の手元の電話が鳴り、即座に応じる。数分後、受話器を降ろした富川は川田に視線を向ける。


「総理、緊急事態が起きました。先島諸島を調査していた空自の無人偵察機が、中国海軍の戦闘機に迎撃され、撃墜されました」


 富川の報告に、その場がざわめく。今度は矢野の電話が鳴り、数分後に口を開く。


「…中国大使館より通知です。無人機撃墜を受けて、『沖縄本島からの自衛隊の完全撤収』を、捕虜及び島民解放の条件に追加すると通告してきました」


「…相手はついに、賽を投げて来たか。そこまでして我らをルビコン川の向こうへ渡らせたいか…」


 夜明け、日本政府は記者会見の場にて、閣議にて防衛出動の発令を決定した事を公表。日本と中国は交戦状態に突入したのである。

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空母ほうしょう~21世紀海戦録~ 広瀬妟子 @hm80

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