第7話 水面下より
西暦2024(令和6)年4月26日 補陀落諸島北部沖合
「艦長、補給艦「とわだ」です」
「ほうしょう」の艦橋にて、外を監視していた乗組員が今津艦長に報告を上げる。その彼の隣で、共に報告を受けた高野は、直ちに指示を出す。
「補給受け取り用意。並走始め」
命令を受け、「ほうしょう」は呉よりやってきた補給艦「とわだ」と並走し始める。索発射銃でワイヤーを投げ飛ばし、それを用いて給油ホースを手繰り寄せていく。そして
「こういう時こそアメリカの原子力空母が羨ましいですね。こうやって補給の手間がいらないんですから」
「随伴艦はどうするんだ。全てが燃料要らずで航行できるわけじゃないんだぞ」
そんな会話が交わされている中、高野と今津は海図を見つめながら話し合う。
「さて、ここで補給を受け次第、そのまま沖縄近海へ直進する訳ですが、問題は幾つかあります。先ず中国海軍は侵攻以前より複数隻の潜水艦を展開している事です。沖縄本島の第5航空群が血眼になって捜索を実施しておりますが、忍び込んだ全てを発見出来た訳ではありません。それに…」
『CICより艦橋、「あきづき」より入電。対潜哨戒ヘリが目前の海域にて潜水艦の反応を探知!本艦隊を待ち伏せしている模様!』
・・・
「艦長、「ほうしょう」艦隊はこのまま西進を続けるつもりの様です」
人民解放海軍に所属する093型原子力潜水艦「長征1号」の発令所にて、艦長の
「そうか…ここで待ち伏せされている事を理解していながら、そのまま前へ進むか…何とも勇ましい事だ」
093型原子力潜水艦は、商級の二つ名を持つ第二世代攻撃原潜であり、習作の意味合いが強かった第一世代に比して、全ての性能において圧倒していた。付近には元級の異名を持つ039C型潜水艦2隻も展開しており、この3隻で水面下より圧力を仕掛けていた。
その中でも「長征1号」は、原子力機関を採用しているだけに水中での航行能力が高く、伊豆大島沖合より第1任務群に張り付き、追跡。そして25日に離れたのだが、今こうやって僚艦とともに先回りして待ち伏せる形となったのである。
「さて艦長、ここからどう動くか?」
政治委員の問いに対し、王は答える。
「先ずは相手さんの覚悟を確かめる。このまま我らに臆せずに進むか、それとも安全策を取って迂回の道を取るか…先島はすでに軍が上陸と占領を果たしているが、当の日本はまだ事実上の宣戦布告たる『防衛出動』を出していない」
中南海は理想で言えば、相手艦隊が義憤に駆られて先制攻撃を仕掛け、日本政府に『真珠湾の時と同じ過ちを犯した』と不名誉なレッテルを貼りつける状況を望むだろうが、自分達の『支援者』が求めるのは正当な手段で進められる戦争である。その手の偽旗作戦で展開をしくじり、泥沼の長期戦争に突入したロシアの轍を踏まぬためにも、現代としては珍しい正当な手続きを踏んだ戦争を行い、小説や漫画でよく見る様な古典的な出来事となるべきなのだ。
「それに、最終的に損をするのは日本ではない。中南海は膨大な利益を得られると思っている様だが、最後に全てを掻っ攫うのは―」
と、王はそこで失言だという風に口を噤む。だが本来乗り込むべき政治委員は『急病』で離れ、代わりの者が乗艦している。それでも、乗組員の中に匿名の中南海からの『目』がいる可能性もあるため、全てを語らない様に配慮していた。
「艦長、日本艦隊はこのまま直進する模様です。ソノブイの数も増えております」
「そうか…恐らく、十中八九、日本の
王はそう指示を出し、テーブルに敷いた海図を見る。彼の視線が向かう先は、尖閣諸島より北の海域。
「現在、「福建」を旗艦とした南海機動艦隊が「海南」艦隊と合流する形で先島諸島に向かっている。本艦はそこで空母直衛として動く事となるが、他の2隻は遊撃として「ほうしょう」にまとわりつく事となるだろう…そろそろ、忙しくなるぞ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます