第3話 太平洋に五紅星旗ははためく

西暦2023(令和5)年4月2日 沖縄県より南に500キロメートル洋上


「ふむ、今日も晴天、絶好の航海日和だな」


 艦橋にて、人民解放海軍政治委員のジャン大校は、そう呟きながら窓の外を見やる。その視線の先には、広大な甲板。


 冷戦終結後、中国はムレア帝国との貿易もあって経済が急成長し、第三国や非合法機関を介して西側の技術を会得。技術水準をも発展させていた。その中でロシアを経済的に支援する見返りとして多数の兵器も獲得しており、人民解放海軍はその恩恵を一番受ける形となった。


 その中でも最たる例が、ウリヤノフスク級空母の設計図をベースに開発し、2019(令和元)年に就役した002型空母「福建」であろう。グズネツォフ級空母のコピー版たる001型の建造で得られたノウハウも用いて建造されたこの艦は、アメリカのキティホーク級に匹敵するサイズを有している。


 艦首に2基、アングルドデッキに1基装備した電磁カタパルトと、右舷側に装備する2基のデッキサイド式エレベータ。カタパルトの数以外は「ほうしょう」に似ているものの、甲板の広さとそのカタパルトの数が、艦載機の運用効率を向上させていた。


 その傍で波を砕きながら進むのは、012型原子力ミサイル巡洋艦の一番艦「北京」。巡航時は原子力発電だけでモーターを回し、全力航行時にはガスタービンで追加発電を行って出力を上げる方式を採用した本艦は、その発電能力を活かして、最新鋭の50ミリレールガンや対空レーザー砲、そして新型のレーダーを稼働させている。そのため本国では『電磁戦艦』の異称でも呼ばれている。


 そしてその2隻を守るのは、ここ20年の間に量産された、駆逐艦とフリゲート艦群。国産の艦対空ミサイルや対艦巡航ミサイルを装備した052D型駆逐艦に、同様の武装を持つ054B型フリゲート艦。まさに今の人民解放軍のワークホースと読んでも差し支えのない大兵力であった。


「張大校。確かに我が艦隊は規模こそ日本を凌駕しており、この様な航行にも慣れております。ですが…」


「分かっている。全く、相手も忙しいものだ」


 艦長のリョウ上校の言葉に、張はため息をつきながら、別方向を見やる。そこには1隻の護衛艦の姿。

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