第2話 最初の航海

西暦2023(令和5)年1月10日


 就役から年を越して2週間が経ち、「ほうしょう」は第1任務群旗艦としての最初の航海と訓練航海のために横須賀を出航。浦賀水道から相模湾を通り、小笠原諸島を沿う形で南下を開始していた。


 「ほうしょう」を中心に据え、最新鋭のミサイル護衛艦「まや」と「やましろ」を両側に配置。汎用護衛艦「あきづき」を先頭に立たせ、後方には「たかなみ」を配置。さらにその後方には補給艦「ましゅう」とそれを護衛する護衛艦「もがみ」と「くまの」が付き、海中には潜水艦「じんりゅう」が潜む。「ほうしょう」率いるこの8隻の僚艦が、海上自衛隊最初の空母機動部隊の構成艦であった。


「司令、間もなく各艦の艦長がこちらに来ます」


 その「ほうしょう」の旗艦用司令部作戦室FICにて、第1任務群司令の高野曜一たかの よういち海将補は、船務長より報告を受ける。艦橋構造物の真下に位置するこの空間は、艦単体の行動・戦闘に専念する戦闘指揮所CICよりも広く、離島防衛のための陸海空三自衛隊を統合的に運用する作戦では、100名程の人員を集めて洋上の作戦司令部として用いる事が考えられている。


 だが、いずも型以上の巨大な船体である以上に、日本の新たな防衛戦略を成し得るための機能の追加は、防衛費に多大な負担をかける事となった。いずも型の建造費が1200億円であるのに対し、「ほうしょう」は倍以上の3000億円を要し、その分僚艦を建造する金銭的余裕がなくなってしまったのである。奇しくもやましろ型護衛艦の建造も開始された時期に計画が開始されたため、増数は非常に厳しいものとなった。


 よって、旧ソ連海軍の重航空巡洋艦よろしく、艦自身の武装は増加する事となった。いずも型が必要最低限の自衛装備に留めて艦隊旗艦と艦載ヘリコプター運用に能力を振ったのに対し、「ほうしょう」は32基のミサイル垂直発射装置VLSRAMラム対空ミサイル発射機、そしてファランクス近接防御火器CIWSを装備。短魚雷発射管も装備し、ひゅうが型に並ぶ能力を有していた。言い換えれば汎用護衛艦2隻分の護衛を用意できなかったがために、「ほうしょう」にその分の自衛装備を積んだという事であるが。


 さて甲板上には、数機の〈SH-60K〉対潜哨戒ヘリコプターが駐機している。海上自衛隊はアメリカのSH-60B〈シーホーク〉対潜哨戒ヘリコプターをライセンス生産し、〈SH-60J〉として配備してきたが、装備するべきセンサーが増えた事や海難救助任務も艦載ヘリコプターに求められる様になった事を受けて、機体の拡大発展と改良を実施。2005年に独自改良機として完成させたのが本機である。その機体からは次々と護衛艦の艦長が降り立ち、「ほうしょう」艦内の会議室に向かっていた。


 さて、艦隊は硫黄島沖合に展開。最初の艦載機発艦訓練を行っていた。

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