第37話 パーティー集結

 レイナによって通気性が良くなった家にパーティーメンバー(仮)が集結する。


 ソフィアの家には元々椅子が2つしかなかったが、俺とアレックスが座っている椅子が追加されていた。その椅子は即興で作ったかのような雑な作りをしていて、縁の方は研磨されていなくてトゲトゲしている。そんな危ない椅子をよく観察してみると、その椅子は壊された扉の残骸で出来ているのが分かった。

 そんな危なくてクリーンな椅子に座ってテーブルを囲む。


 「俺はアレックス・ハワード! 【剣鬼】エルザの弟子にして、水猿流の使い手! そしてこのパーティーのタンクだ!」


 パーティーになるのはまだ決まってないだろ。


 「私はレイナ・クラウンです。まだ見習いですけど、このパーティの魔法使いです。」


 レイナはアレックスの急なテンションに動揺すること無く、ペコリと頭を下げて綺麗に挨拶をしている。さすがは村長の孫娘。そう言えば、俺と初めて会った時も挨拶をしなかった村長に指摘していたくらいだ、そこら辺はしっかりしているのだろう。


 「俺はバティル・オルドレッド! 【剣鬼】エルザの1番弟子にして息子! そしてこのパーティのアタッカーだ!」


 折角なので俺も挨拶をしてみる。

 柄ではない挨拶だがレイナが冷静に挨拶をしたので、ここは緩急を付けるためにテンションを上げて挨拶をした方が良いだろうと思いこの挨拶してみた。文章はアレックスのを丸パクリだ。


 「うえぇぇ!? バティルってエルザの息子だったのか!?」


 アレックスは真似された事に対して気にも留めず、俺がエルザの息子という所に驚いた。

 そう言えばアレックスには言ってなかったな。アレックスは俺の事をただの弟子だと思っていたのだろう。だが、俺たちの関係はそんなレベルをとうに超え、一緒に寝る仲になっている。しかし、これ以上は子供には刺激が強すぎて言えないな。下手をしたらアレックスの性癖を破壊してしまう可能性だってある。


 「血は繋がってないですけどね。」


 「そうなのか?」


 「ええ、森で彷徨っていた所をエルザさんに拾って貰ったんです。」


 「なんか………大変だったんだな。」


 「森で彷徨っていた」という所が引っ掛かったのだろう。アレックスは同情をする眼差しで俺を見ている。まあ、実際大変だったので否定はしない。


 「それで、その、パーティのタンクって言うのは………?」


 「あ、そうそう。この人、俺たちとパーティを組みたいらしくてさ。だけど俺だけの判断で決めちゃダメだと思ってたから、レイナに聞いてからにしようってなったんだよね。」


 「あ、そうなんだ。………うーん、バティル君は賛成なの?」


 「反対です。」


 即答だった。

 俺の楽園に男はいらない。ゲームキャラを選ぶ時だって、むさ苦しい男を視界に入れたくないという理由で毎回女性キャラを選んでいる人間だ。断固反対に決まっている。


 「うえぇぇぇ!? 来てくれると助かるって言ってたじゃん!」


 アレックスは俺が「来てくれると助かる」と言うと思ったのだろう、俺が答える前に鼻を鳴らして腰に手を当ててドヤ顔をしていたのだが、予想とは違う返答に目を丸くして驚いていた。

 まあ冗談なんだが、何だかアレックスの反応が面白くてついイタズラをしてしまう。ソフィアの気持ちが何となく理解出来てしまうのが悔しい。俺はやりすぎないようにしたい。


 「冗談です。………実際一緒にクエストをやってみて、やりやすかったから僕は賛成だよ。」


 「そうなんだ。………うん、じゃあ私も賛成かな。それに悪い人では無さそうだし。」


 それは確かにそう。


 「マジか、やったー!」


 アレックスはパァッと笑顔になり喜んでいる。

 さっきは悲しい顔をしていたのに今度は笑顔になっている。恐らくこれがイジりたくなる要因な気がする。コロコロと表情が変わるのが見ていて楽しく、ついついイジってしまうのだ。


 「俺たち絶対最強のパーティーになれるぜ!」


 「それは流石に判断が早すぎません?」


 「い〜や、早くないね! バティルの腕前はさっき見たし、レイナの魔法もすごいのはさっきので分かった!」


 「え、レイナの魔法ってそこまで凄いんですか………?」


 アレックスはレイナの魔法がすごいと言っているが、俺は魔法使いをソフィア以外知らない状態なので、そこが良くわからないんだよな。現状のレイナがどのレベルに達しているのかが分からないが、魔力総力を調べる時に適性があると判断されたので「魔法の才能があるんだな〜」くらいにしか思っていなかった。


 「凄いよ!? この歳であんな量の水を出せるなんて普通いないぜ!」


 「え、そうなの!?」


 マジかよ。この子って才能の塊なのか!?


 「そうだよ! まずあんな量を出せる魔力量もすごいし、そもそもこの歳で魔力を水に変えてる時点で凄いんだぞ。」


 「え、水に変えるのってそんなに凄いことなの………?」


 知らなかった。俺の周りはいとも簡単そうに水や氷を出しているので、それが普通なんだと思っていた。


 「俺たちで言ったら、何もない所に武気で剣を作るみたいな感じだよ。武気を剣に纏うのは実物を持っているからやりやすいけど、何もない手にイメージで剣を作って攻撃するとしたら難しいと思わないか? 魔法使いはそれを様々な物に変化させなきゃいけない。さっきので言ったら、自分の魔力が水に変わるイメージをしなきゃいけない。魔力量が多くてもイメージが出来ない人はこの世界には沢山いるんだぜ。」


 「……………………………。」


 「……………………………。」


 レイナの顔を見る。

 レイナは恥ずかしそうに顔を赤らめてモジモジとしていた。アレックスに盛大に褒められて嬉しさと恥ずかしさでむず痒いのだろう。


 言われてみたら確かに凄いような気がしてくる。


 俺は魔法が完全に使えないし、ソフィア曰く使ったら死ぬ可能性があるらしいので使わないのだが、魔力と言う自分の目に見えない物をイメージで形作るというのは難しいように感じる。


 アレックスが言うように、俺は剣に武気を纏わせる時は、纏う箇所を延長する感覚でやっている。手に持っている物に武気を流す感覚だ。だが、手に何も持っていなかったら? 剣の柄くらいならイメージ出来るだろうが刀身はどうなる。どのくらいの長さで、どれくらいの強度なんだ? 恐らくだが強度を上げればそれだけ魔力を使う事になるだろう。なので、魔力残量の事も考えなくてはいけなくなる。

 そう考えると、魔法使いという存在は本当に器用な事をしている事が理解できてくる。


 「それをこの短時間でやったの………? 武気も習得して………?」


 レイナはコクリッと無言で頷く。


 「短時間? まさか1年とかじゃないよな………?」


 アレックスは俺と同じく驚愕の顔でレイナを見る。この世界で生きてきたアレックスが瞬時に考えた、魔法使いの短時間と言うのが「1年」という事からして、それぐらいがこの世界では速いに分類されるのだろう。しかし、俺はそれよりも速い事を知っている。


 「………2ヶ月くらいです。」


 「2ヶ月!? 嘘だろ!」


 「本当よぉ〜。」


 机から立ち上がって驚くアレックスに、少し離れた台所で静かに見守っていたソフィアが会話に入ってくる。


 「バティルもずっと見てたから分かるでしょ?」


 「はい、でも、そんなに凄い事をしているとは思ってませんでした。」


 「まあ、バティルは私の魔法しか見てないもんね〜。それが普通って思っちゃうわよ。」


 よくよく考えれば俺以外の村人は俺よりも魔力は持っている筈で、俺よりも魔法を出せるはずなのだが、村人は誰一人扱っていなかった。さっきアレックスが言っていたように、魔力があっても形にするのは難しいのだ。


 紅茶を入れるソフィアを見る。


 そして、結構前に「楽しみね〜」とご満悦だったソフィアを思い出す。あの時は単純に魔法使い仲間が出来て嬉しいのだと思っていたが、レイナの才能の高さに期待もしていたから出た言葉だったのだろう。


 「ソフィアさんが何であんなに嬉しそうだったのか、ようやくわかりました。」


 「才能だけ見て言ってた訳じゃないけどね〜、魔法に興味を持ってくれるのも嬉しいわよ。―――はい、どうぞ。」


 そう言って紅茶が入ったティーカップを目の前に置いてくれる。


 そんな穏やかな雰囲気に押されたのか、立ち上がって信じられないという表情で驚いていたアレックスは、静かに椅子にもたれ掛かって天井を見上げる。


 「………流石は『双翼そうよく狩人かりうど』。どっちの弟子も化け物だな…………。」


 アレックスは独り言のつもりだったのだろうが、椅子にもたれ掛かったのを静かに見ていた俺たちには普通に聞こえていた。


 「ふふ、でもその弟子にあなたもなったんでしょ?」


 「―――っ! 確かに! て事は俺も天才って事で良いですね!」


 「良いと思うわよ。実際、水猿流を実戦であんなに綺麗に扱えてるんだもん、才能はあるわよ。」


 ソフィアの言葉に気分を良くしたのか、先程の神妙な顔から一変していつもの笑顔が見える。

 それにしても、なぜか俺の事もその天才の世界に入っているかの様な物言いなのだが、俺としては爪先すら入っていないように感じてしまっている。他の人がどのくらいのペースで剣術を学んでいるのかが分からないので比べようが無いのだが、少なくともアレックスとレイナの才能に比べたら俺なんて陳腐なレベルなのではないだろうか。


 特にレイナは本当の天才なんだろう。


 魔力を扱い、具現化し、武気を纏う。これを2ヶ月ほどで習得するのは、アレックスやソフィアの反応からして異常な事なのは理解できた。だが、それは簡単に習得している訳でもない事を知っている。毎日ソフィアの家へと足を運び、魔力切れスレスレの所まで出し切って学んでいる所を毎日見ていた。


 天才も努力をしているのだ。


 今までは、その天才の努力をこの目で見る機会が無かった。近くにエルザがいるのだが、エルザはもう既に完成された状態だ。エルザの「生きるために剣を振るった」という姿をこの目で見る事はもう出来ない。なので、恐らくそうなのだろうと脳内で勝手に納得していたが、レイナを見てやはりそうなのだと確信を持てた。

 生まれが良かったとか、遺伝子が良いからとかは勿論関係あるだろう。レイナと俺の才能の違いが良い例だ。


 だが、だからと言って苦労して無い訳じゃない。


 レイナと言う天才もきっと壁にぶつかるだろう。そしてその壁を超えていった人がエルザの様に輝くのだ。才能の違いはあれど、そこは変わらない。


 比べて悲観はしない。俺は俺の歩幅で努力し、壁を超えていく。


――――――――――


 「もうこんな時間か〜。」


 夕日で赤く染まる空を、窓の内側から覗くように見てアレックスは呟く。

 軽い自己紹介が終わってから、アレックスは俺たちの身の上話を聞いてきた。

 なので俺は森で目を覚ました事や、レイナを守るために単身でシャドウウルフに挑んでボコボコにされた事などを武勇伝のように語ってみせた。


 「宿舎に泊まるって言ってたけど、予約とかはしなくて大丈夫なの?」


 夕日を見るアレックスに聞いてみる。アレックスがビエッツ村に来てから、真っ直ぐソフィアの家に向かったので、予約なんかはしていないと思うのだが問題ないのだろうか。


 「あっ! そうじゃん、忘れてた!」


 と思ったら、やはり大丈夫じゃなかったようだ。


 「都会じゃないし問題ないわよ。あそこはいつもスッカラカンよ!」


 田舎の辛い現実を意気揚々と話す。確かにこの村に外のハンターが来る所は見た事が無い。と言うか来る理由が無いのだろう。恐らくだが、この村は外にクエストを依頼していない。


 理由は簡単で、エルザとソフィアがいるからだ。


 大型モンスターが出ても、特殊クエストを発行してエルザ達に処理して貰っているのだろう。なぜエルザ達がCランクで留まっているのかは分からないが、俺が見たエルザ達は間違い無くAランクは行っているはずた。

 大金を叩いて外から呼ぶより、村の中にいる最強達に仕事を頼んだ方が良いに決まっている。だから宿舎には人が居ないのだろう。


 「そんな事より! このまま皆で集会所の方に行くわよ!」


 ソフィアは椅子から立ち上がり、自慢の胸を揺らして俺たちを見る。


 「え、またクエストやるんですか………?」


 いや、まあ出来るけど。別に今日じゃなくても良くない? 今日はラントウルスと戦ったばっかりなんだけど…………。


 「違うわ! パーティー結成祝いよ!」

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