第38話 結成祝い

 「パーティー結成を祝って、乾杯!」


 『かんぱぁぁぁぁい!』


 各々がジョッキを持ち、高らかに持ち上げる。その数はパーティーメンバーだけで無く、無関係な人間達も一緒に上げている。娯楽の少ない小さな村には、祝いの席があったら迷わず参加して一緒に盛り上がるのだそうだ。飲んだくれのサイモンが何故か自慢げに言っていた。


 「で? そこの男が入ったのか〜?」


 いつも昼間からビールを飲んでいるサイモンが聞いてくる。


 「そうですよ。じゃあ、折角だから皆に自己紹介でもしたら。」


 豪勢な料理が置かれている中心人物に視線を向けると、待ってましたと言わんばかりに席から立ち上がり、元気に自己紹介を始める。


 「そうだな! 俺はアレックス・ハワード! 【剣鬼】エルザの弟子にしてこのパーティーのタンク! いつか龍神を討伐して歴史に名を残す男だ!」


 なんか最後に変なのが付け足されている。

 アレックスが龍神を討伐するという事は、パーティーである俺達もそれに参加している事になるんじゃないのか。

 そんなアレックスの宣言に周囲は笑い始める。


 「若いっていうのは良いね〜!」

 「まあ、バティルがメンバーにいるからな!」

 「龍殺しくらいしないといけないわな! ガハハハハッ!!」


 そう言えば、俺の名前は龍殺しの英雄の名前だった。

 古代の時代。龍神の眷属である古代龍種が跋扈ばっこしていた時代に活躍した英雄。数々の古代龍種を殺し、絶滅の一歩手前まで追いやったと記録には短く残っていたらしい。

 そんな名前の奴がパーティーメンバーにいるから、アレックスは周囲に宣言したのだろう。

 ただ、俺の目標は龍殺しでは無くエルザのようなハンターになりたいという目標なので、アレックスが龍神を討伐して歴史に名を残す時に俺は居ない可能性がある。今の俺はCランクの小型モンスターにすら四苦八苦している状態なのだ。龍を狩るイメージなんて全く湧かない。


 「笑ってるのも今のうちだぜ! 前のバティルが出来なかった偉業を成すのが俺達だ!」


 清々しいまでの真っ直ぐな宣言に、周囲はからかうのを止め、一変して称賛の言葉を投げかける。


 「良いぞ! 若いってのはこうでなくちゃあな!」

 「エルザの弟子なんだ、それだけの才能があるんだろ。頑張れよ!」

 「それにレイナとバティルがいる。成長を考えると可能性は高いと思うぞ!」


 ただ笑ってバカにしないのがこの村のハンターの良い所だろう。

 アレックスはそんな応援に驚いて意表を突かれた様な顔になったが、素直な村のハンターの言葉だと理解したアレックスは笑顔で会話をしていた。


――――――――――


 レイナがいると聞いて集会所に来た村長と両親も参加し、人数も増えて盛り上がっている中、エルザは仏頂面でお酒を飲んでいる。

 と言うのも、エルザは夕食を外でするとは聞いていなかったので、普段通り手料理を準備していた。息子が帰ってくるなり「外で食べる」と言った事で拗ねているのだ。


 「やっぱり、エルz―――お母さんのシチューは最高だな〜!」


 外食にも関わらず、俺の目の前にはエルザのシチューが置かれている。普段、エルザの表情はあまり動かないので分かりにくいのだが、ずっと一緒にいるので少しは理解できる様になってきている。

 なので、俺が帰ってきた時に「外で食べる」と言った時に少し不機嫌になったのを見逃さなかった。そこで「それでもお母さんの手料理も一緒に食べたいな〜」と言った事で、俺だけお椀も一緒に入店したのだった。


 「―――っ! そうか、おかわりが欲しかったら持ってくるからな!」


 「あっ、はい。その時はお願いします………。」


 「ああ!」


 内心では「そこまでしなくても大丈夫です。」と言いたかったが、嬉しそうなエルザを見て喉の奥で押し留まった。料理を作る手間を考えたら、やっぱり先に言って欲しいと感じてしまうものだろう。その溜飲を下げる為にも俺はエルザのご機嫌を取るつもりだ。嫌われたくないからな。


 「おいバティル! ラントウルスを狩ったらしいな!」


 今日は夜でも調子の良さそうなサイモンが声を掛けてくる。コイツは朝から飲んでいるので夜にはグロッキー状態なのが、先程も元気そうに話しかけて来ていたし、もしかしたら何かいけない物でも接種したのかも知れない。


 「耳が速いですね。」


 狩ったのは今日の日中の出来事だ。まあ、いつもの「田舎なら当然よ!」と言うのだろうが。


 「おう! もうアレックスが武勇伝にしてるぞ!」


 そう言われアレックスを見ると、気分良さげに今日の出来事を話していた。


 「集会所に入って来た時からビビッと来たね! コイツはやるって! 模擬戦をやった時なんか―――――」


 恐らく、今アレックスの話を聞いているのは第二陣なのだろう。俺達の出会いから流暢に話している。身振り手振りを加えながら少し誇張して語り聞かしている。……………てか、なんかレイナも熱心に聞いている。え、もしかしてレイナ………アレックスの事………嘘だよな………?


 「俺がラントウルスを狩ったのは18の頃だったな〜! タフな奴でさ〜、俺はついていけてたんだけどな? そん時パーティー組んでたシェーンって言う奴なんだけどな? そいつが付いて行けなくてバテちゃってさ〜。俺はついていけてたんだけどな? それから―――」


 おっさんの自慢話が頭に入ってこない。

 ただ「俺はついていけてたんだけどな?」が初めの方から間に2回も挟まっているのを聞くに、恐らくサイモンもついていけていなかったのだろう。俺がラントウルス戦で危惧していたスタミナ切れを起こし、泥沼の戦闘をして狩ったのだと予想する。


 (いや、そんな事はどうだって良い。問題なのは、レイナが何故あんなに熱心にアレックスの武勇伝を聞いているのかだ!)


 俺のハーレムは全員顔が良く、それでいてスタイルも良い。だからアレックスが彼女たちに好意を持ち、言い寄って来るのを危惧していた。しかし、翌々考えたらアレックスも顔が整っていてイケメンなのだ。女性の方から言い寄るという可能性を完全に見落としていた。

 それにアレックスのコミュ力は高く、実際に皆の前で武勇伝を自慢気に語っている所からして、メンタルも丈夫と来た。それに比べて俺はと言うと、人前で話す機会なんて前世から無かったし、なにか面白い話が出来るかと言われるとそんな事は出来ない。


 レイナを再び見てみる。


 やはりレイナの視線が少し違う気がする。話をただ聞いている様な視線じゃない。一言も聞き逃さないという意思を感じさせる目をしている。


 それを見た俺は、現実逃避をするかのようにトイレに逃げ込んだ。


――――――――――


 トイレに入ったは良いものの、ここで考え事をしているとトイレを使いたい人が困ってしまうと気が付き、用を足して外へ出る。

 ただ、もう一度あの光景を見たくは無いという気持ちがあったので、集会所の外に置いてあるベンチに腰を掛ける。


 (パーティーに異性は問題だったぁぁぁぁぁ……………!!!!)


 正直、俺自身はレイナという少女を恋愛の対象には出来なかった。俺の体は子供でも心は大人で、恋愛対象も大人の人間なので、レイナの事は子供を見守っている感覚に近かった。


 だから、レイナが俺の事が好きじゃなかった事にショックは感じていない。


 しかし男として、異性に好意を向けられているのには嫉妬してしまう。前世では一度も異性とお付き合いする事が出来なかったからこそ、その思いは人一倍ある。


 (これから、あの2人のイチャイチャをずっと見せられるのか!?)


 そんな事をされては俺が憤死してしまう。

 何か良い案はないかと試行錯誤している中、集会所の扉の方から声がする。


 「大丈夫………? 気持ち悪いの………?」


 声を掛けてくれたのはレイナだった。


 「え? ああ! いや、大丈夫だよ。」


 「そっか。」


 俺の動揺丸出しの返答に対して、レイナはそれ以上追求はせずに俺の隣に座る。


 (なんでレイナが俺の方に来たんだ? ………ってか今二人きりだしアレックスの事どう思うか聞いてみるか? いや、でもあからさますぎるか………? いや、う〜ん。ええい、聞いちゃえ!)


 「そう言えば、アレックスの武勇伝を熱心に聞いてたみたいだけど、面白かった?」


 「うん! 面白かったよ!」


 元気に肯定されると普通に凹む。

 やはり、これからはレイナがアレックスにアタックするのを見守るしか無いのか。


 「やっぱりバティル君は凄いね!」


 「………え、俺?」


 「うん!」


 唐突な俺への称賛に困惑する。


 話の流れ的に「アレックスは話がうまいね!」「アレックスは凄いんだね!」「アレックスは頼りになるね!」みたいな話に向かうのかと思ったが、何故か俺の方に照準が向いている。


 「「このままじゃジリ貧だ」って言ってたんでしょ? あそこで攻撃主体に切り替えたからなんとか倒せたって言ってたよ! アレックス君もあの判断が無かったらやばかったって思ってたらしいよ。」


 「あ、そうなんだ。」


 「うん。アレックス君もどうしようか悩んでたみたいだけど、自分より先に危機を察知して判断したのが凄いって言ってたよ。それに、状況判断が早くて正確だから頼もしいって。」


 うぐっ………。アレックスの純粋さが胸に刺さる。嫉妬で敵対心がフツフツと湧いている俺の小ささを比べてしまう。


 「すぐに剣を覚えるし、まだ討伐系はそんなにやってないはずなのに判断能力もあるし………………やっぱり凄いよ。」


 レイナは顔を上げ、夜空を見上げる。

 しかし、その目は星では無く、もっと遠くを見ている様に感じる。


 「レイナだって十分凄いでしょ。俺は知らなかったけど、すごい速さで魔法を習得してるんでしょ?」


 レイナは俺の事を「凄い」と褒めてくれるが、俺自身は自分の事をそれほど凄いとは思えていない。

 今日だってアレックスと模擬戦をやったが、完全に封殺された形で終わっていたし、ラントウルス戦も俺一人では討伐出来なかっただろう。冷静に状況判断できたのも、アレックスがラントウルスの攻撃を捌いて時間を稼いでくれたからだ。


 「………うん。でも、それだけじゃ駄目だと思う。」


 夜空を見上げていたレイナの顔は地面へと落ちていく。


 「やっぱり早く実戦がしたいな〜。………早くバティル君達とクエストやりたいよ。」


 「ソフィアさんはどれくらいで良いよって言ってくれたの?」


 「どの種類の魔法でも良いから、魔法を連射出来るくらいじゃないと許可しないって言われてるんだ。」


 魔法の連射。と言われてもそれがどのくらい難しいのかが分からない。剣士で言ったら何なのだろう。武気の習得だろうか。いや、武気を纏って剣を振り続けるくらいの事かも知れない。


 「それってやっぱり難しいの?」


 「うん………難しい。魔法を出し続けるのであればそこまで難しく無いんだけど、生成して発射して、また生成して発射してってなると、なんて言えば良いのかな………頭がこんがらがって来るんだよね。生成したけど発射出来なかったり、発射し続けちゃったりで暴発が多くなっちゃう。」


 「はえ〜、それは難しそう。」


 まず魔力で魔法を顕現させる事が難しいのはさっき聞いている。魔力があってもイメージが出来なくて魔法使いになれない人がいるって話だ。そしてそれを乗り越えたら、今度は魔法で何度も生成し連射出来るようにならないといけない。


 そして、実戦となったら相手は動くし攻撃もしてくる。


 だから武気も纏って攻撃を避けたりしないといけなくなる。連射が出来るようになってもそれが出来なければ戦闘にならない。だが、そこは俺達パーティーメンバーがいるから、ソフィアは最低限の連射が出来るようになるまでと言っているのだろう。


 「ただ、まあ、焦らなくて良いよ。レイナが天才魔法使いなのはアレックスの反応から分かったし、これからが凄い楽しみではあるよ。」


 「天才では無いと思うけど………でも、うん………ありがとう。」


 「………。」


 「………。」


 会話が途切れる。

 レイナは少し落ち込んでいる様子で、何か落ち込ませてしまう事を言ってしまったのかと焦り、話題を変えようと口を開く。 


 「話が変わるけどさ! アレックスの事どう思ってるの?」


 「え………!? ど、ど、どうって!?」


 いい機会だと思い、話題を変える先をアレックスの事について聞いてみたのだが、レイナの反応は予想外にテンパっていた。………ま、まさか。


 「いやさ、アレックスってイケメンじゃん? それにアレックスの話を熱心に聞いてたみたいだしぃ〜? もしかして脈アリなのかなぁ〜?」


 内心の動揺をなんとか隠し切りながら、イジるようにレイナを攻める。


 「そ、それは無い! 絶対に無いよ!!!」


 聞いた事が無いくらいの大きな声での否定だった。

 レイナがここまで食い気味に否定するとは思って無かった俺は、少したじろぐ。


 「お、おう、そうなんだ。」


 「う、うん………。」


 レイナも大きな声を出してしまった事が恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしながら下を向く。


 「アレックス君は元気だし、話しやすくて良い人だけど………わ、私的には、その、なんて言うか、そういうのは、ちょっと違うかなって…………。」


 もじもじとしながらレイナは言う。

 こう見ていると、もしかして逆なんじゃないかと思えてくる。

 好きだけど言い当てられてしまった事で動揺し、否定したんだけど本当は好きみたいな………。ぐぉぉ………そう考えるとそうにしか見えなくなる………止めてくれ………そういう青春は俺に効く。


 「誤解が無いように言っておくけど、アレックス君に恋愛感情は絶対に無い! アレックス君は良い人だけど、わ、私的にああいうのは無い!」


 おうふ………。

 レイナのこの反応はどうなんだろう。

 「ああいうの」という所を聞くに、もしかしらた本当に好みでは無いのでは無いだろうか。


 「俺がどうかしたのか〜?」


 おっさんと少女が恋話をしていると渦中のアレックスが顔を出してきた。その顔はとても純粋な疑問の顔をしていて、俺達のドロドロとした探り合いなんて気にしないような顔だった。


 「きゃあ!?」


 「うおっ!? どうしたっ!?」


 レイナから見て背後からの声だった為だろう、レイナは背中がピンッと真っ直ぐになり、飛び跳ねて背後のアレックスを確認する。そんなレイナの反応にアレックスも驚き、反射的に仰け反って守りの姿勢になっている。


 「な、なんでも無い! なんでも無いから!」


 「なんだよ〜俺達パーティーだろ〜? もう仲間ハズレになるのは流石に悲しいぞ〜。」


 「なんでも無いって言ったらなんでもありません!」


 「はい、すいません………。」


 ピシャリッとレイナはアレックスに一喝し、眉を吊り上げてアレックスを睨むと、アレックスは怯えたように縮こまった。そんな縮こまったアレックスを見ても、レイナの反応は変わらずプンプンと怒っている。

 その反応を見るに、レイナは本当にアレックスがタイプと言う訳では無さそうだ。


 そう考えると何も分からずに怒られて震えているアレックスが可哀想に思えて来たので、なんとかフォローして3人で集会所に戻った。

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