第36話 帰還
森の一本道を4人で歩く。
「いや~、連携って難しいんだな~。」
ラントウルスを無事討伐して、デンゼア町に向かっている道中にアレックス口を開いた。
今回の狩りは初めての連携という事もあり、ぎこちなくなって動きにくい場面などもあったが、ヘイトが自分にだけに向けられた時と、2人に分散された時の戦闘のやりやすさの違いがはっきりと分かる戦闘だった。
「そうですね。僕は今までエルザさんに合わせて貰ってたんだって痛感しました。」
「でも、最後の方は良かったよな! 俺が攻撃を受け止めてバティルが決める。完璧な流れで鳥肌が立ったぜ!」
「そうですね。あの流れが出来てから大分やりやすかったですね。」
「それな! でさ、俺達やっぱりパーティー組んだ方が良いと思うんだけどさ、どう?」
横を歩いているアレックスは、その言葉に対して俺がどんな表情をするのかをチラリと覗き込む。
「そうですね………僕的にはパーティーに来てくれると助かりますね。」
あれだけ攻撃を流す技術を持っているのは、俺的には本当にやりやすかった。
それにバランスも良い気がする。タンク、アタッカー、サブアタッカー兼ヒーラー。この世界ではどのくらい役割を分けてパーティーを組んでいるのか分からないが、この組み合わせはとても基本的であり、必要な組み合わせだろう。
それに、アレックス自身も良い奴なのが伝わってくる。
皮肉を言ってくる訳でも無く、ミスをしたらごめんとすぐに謝罪する姿からして、接していてスッキリする性格の持ち主だ。この性格なら俺のハーレムを破壊するような策略はしないのではないだろうか。
「―――マジか! やったぁ!!!」
「でも、レイナがダメだって言ったら駄目ですよ。」
「その時はバティルが説得してくれよ!」
「嫌です。」
「何でだよぉ!」
アレックスと話しているとついイジりたくなるのは何故だろう。本当に接しやすく、トゲのない性格を見ると無性にイジりたくなる。
そんな他愛もない会話をしながら帰路に着いた。
――――――――――
【 ラントウルスの討伐 】 【Cランク】 【済】
「クエスト完了です。お疲れさまでした。」
ビエッツ村とは違うタイプの受付嬢がクエストの報酬を渡してくれる。
(やっぱり、受付嬢のレベルは高いな…………。)
デンゼア町の受付嬢はそこまでお胸は無いが、エルザの様にキリッとしていて、いかにも仕事が出来そうな感じだった。
休憩時間になったのかは分からないが、受付の場所から離れる姿をたまたま遭遇し、彼女のお尻に視線が動いてしまい確認したのだが、彼女のお尻は素晴らしい曲線を描いていた。顔良し、尻良し、真面目系。刺さる人には刺さりそうなタイプだった。
クエストの報酬を受け取り、集会所から出て行こうと玄関に向かう途中に横から話しかけられる。
「―――エルザ!」
その声の方向に振り返ると、午前中の時のゴタゴタの前に唯一エルザに声を掛けて来た女性が立っていた。
「………ナンシー。」
エルザに名前を呼ばれたナンシーという女性は結構厳つい恰好をしていた。鼻や目尻にピアスがあり、入れ墨なんかも入っている。
そんな厳つい恰好をしている女性も、今は申し訳なさそうに縮こまっている。
「さっきはゴメン………。」
さっきと言うのはあのゴタゴタの事か。名前を読んだ瞬間に隣りに座っていたゴリラが立ち上がったのを見るに、恐らくナンシーの連れなのだろう。
「別に気にしてない。それにお前から何かされた訳じゃないしな。」
「でも、私のパーティーメンバーだし、私がやったもんだと思うし………。あなたが辛い思いをしてたのは聞いてたから………だからゴメン。」
「…………。」
アレックスとの模擬戦やラントウルスとの戦いで忘れそうになっていたが、今日は気になる単語がたくさん出ていた。それに1番気になるのはエルザに対して発言された「犯罪者」という単語だ。聞く機会が無いからエルザに聞けないのだが、正直聞きたい。
(・・・でも、言われたエルザがキレないでソフィアが怒ってたんだよなぁ。エルザと2人の時に聞いたほうが良いんだろうな。)
「まあ、気にしないでくれ。また来るかもしれないから、その時は久しぶりに飲もう。」
重い空気が流れている中、エルザは気にしていないと軽い感じで流した。そんな軽い感じに救われたのか、ナンシーも暗い顔から切り替わり、「私が奢るから、絶対飲もうね。」と明るい顔になった。
「ああ、それと、お前の男を見る目は今も最悪だぞ。」
別れ際に、からかう様にエルザがナンシーに言う。エルザのこのようなイジるコミュニケーションは意外だったので驚いた。
「ちょっと、しょうがないでしょ! ああいうのが良いんだもん。」
お決まりの流れなのか、ナンシーも文句を言っているがその顔は怒ってはいなかった。2人は笑顔になり別れの挨拶をする。
「じゃあ、またな。」
「うん! ソフィアもまたね!」
「ふんっ! あのゴリラと別れたら会ってあげるわ!」
どんよりとした会話から始まったが、最終的には笑顔で別れた。
――――――――――
再び馬車に1時間ほど乗って村に帰ってくる。
「ここが【剣鬼】エルザの活動拠点!」
「………そんな大層な物じゃない。」
興奮するアレックスに対して、エルザは冷静にツッコミを入れる。そんな冷めた返答とは対照的にソフィアはアレックスをもっと盛り上げようとする。
「そうよ、ここであなたが良く知る数々の伝説が生まれたのよ! あの木を見てみなさい、傷があるでしょ。あの傷はエルザがこの距離から剣を振って、斬撃を飛ばして付けた傷なのよ!」
「な、なんだってぇぇぇぇぇ!?」
「………そんな事、出来る訳ないだろ。」
ホラ吹きソフィアにより、エルザの在りもしない伝説を植え付けられているアレックスの前に村長が顔を出す。
「おや、見ない顔だね。私はこの村の村長をさせて貰っているレイロンだ。ゆっくりして行ってくれ。」
「アレックスです、よろしくお願いいたします! 【剣鬼】エルザの弟子にして頂きました!」
「おお、そうなのかい? じゃあ長期の滞在になるだろうね。家を貸そうか? それともエルザ君の家に泊まるのかな?」
(え、それは嫌だ。)
あの家は俺たちの聖域なんだぞ、例え子供であろうと他の男が泊まるなんて絶対に嫌だ。
「いいえ、ハンター宿舎で生活しようと思っています!」
もし俺達の家に泊まろうとしてたら全力で止めようと思ったが、そうはならなかった。命拾いしたな………もしエルザと添い寝なんてする事があれば、アレックスは次の朝日を見る事は無かっただろう。
「あの、レイナは家にいますか? アレックスを紹介したいと思っているんですけど。」
「レイナならソフィア君の家に居るんじゃないかな。1度帰って来て、自主練習をすると言ってまた向かったはずだよ。」
「あ、そうなんですね。分かりました、ありがとうございます。」
どうやらレイナは真面目に練習をしている様だ。頑張り過ぎているとソフィアが言っていたし、今日ぐらいは休んでも誰も文句を言う事はないだろうが、彼女はそれくらい本気なのだろう。
――――――――――
村長と別れ、ソフィアの家が見え始める。
テアンは外出中の様で、犬小屋には俺がつい先日あげた骨の玩具が置かれていた。最近は犬に対する恐怖心も下がっていて、俺の方からテアンに向かっていくくらいだ。何ならいつか犬を飼いたいと思うくらい犬が可愛いと感じている。
前世では猫派だったのだが、テアンとじゃれ合っていく中で揺らぎ始めている。いや、もしかしたら俺はもうどっち派とかでは無いのかも知れない。俺はいつか両方を飼いたい。
「ここが魂の研究所………一見、普通の家に見えるのが逆に怖いぜ………!」
何を言っているんだコイツは。
俺がテアンが居ないことにガックリしている中、アレックスは突然意味の分からない事を言い始める。
「そうよ〜。さっきも言ったけど、この家に入ったら物音がしても決してそっちを見てはダメよ〜。見てしまったら―――………」
「み、見てしまったら………?」
「―――魂が抜き取られちゃうわよぉぉぉぉ!!!!」
「ひぃぃぃぃぃ!!!!」
何かと思えば、ホラ吹きソフィアによるすり込みの続きだった。アレックスはまんまと騙され、魂を抜かれる恐怖でガクガクと震えている。
ついでに言うと、エルザは夕食の準備をすると言って自身の家に行ってしまった。なのでエルザからの訂正の言葉は無い。勿論、俺もいちいちツッコミを入れるのは面倒なのでスルーする。
―――ピカッ!
ソフィアの家の窓から水色の光が漏れ出す。まるで俺たちの反応に合わせたかのようなタイミングで光った事で、ホラ吹きソフィアの信憑性が上がってしまう。
「ひえええええぇぇぇぇ!!!」
アレックスは完全にビビり散らしており、女の子の様な悲鳴を上げている。俺の背に隠れてブルブル震えている姿は見ていて楽しい。
「魂取られた!? 魂取られた!?」
「いいえ、まだよ! でも、だいぶお怒りの様ね!」
「………………………………。」
アレックスの反応が良過ぎて確かに面白い。俺も実際にイジっているのでソフィアの気持ちも理解できるが、もう良いだろう。
「もう良いでしょう。レイナも居るみたいだし、とっとと入りましょう。」
そう言ってドアノブに手を掛ける。
―――バギッ!
手を掛けた瞬間、まだ貼り直されたばかりの扉は豪快な音と共に弾け、水の塊と共に俺へ激突する。さっきまで俺の背中にいたアレックスは恐怖で扉に離れていて、ソフィアはそんなアレックスにピッタリと付いている。耳元でホラ吹きを続けていた事が功を奏し、扉の前にいるのは俺一人だ。
なので結局、今回も俺だけが吹っ飛ばされる。
「―――ぐべらッ!?」
嫌な予感がした瞬間に扉は破壊され、水の塊が俺を強打する。武気を纏っていても痛いものは痛い。予期せぬ攻撃は尚更だ。
「バティルゥゥゥゥゥ!?」
水の塊に吹っ飛ばされた俺をアレックスは心配そうに叫ぶ。不意の攻撃すぎて受け身の取れなかった俺は、表情が見えないうつ伏せの状態で倒れてしまった。
それがより心配を加速させたのだろう。アレックスは俺の方へ駆け込んで来て、うつ伏せに倒れた俺を心配している。
「魂取られた!? 魂取られた!?」
「これは取られちゃったわね。ご臨終よ。」
「取られとらんわ!」
「ち〜ん」という効果音が付きそうな感じで、俺を手を合わせて見送ろうとしているソフィアにツッコミをする。
「またやっちゃった………! どうしよう、どうしよう………!!」
そんなコントみたいなやり取りをしている中、扉の奥からアワアワと焦りながらレイナが部屋から顔を出す。
「―――って、ソフィアさん!?」
「レイナ! また威力が上がって来たわね!」
「ごめんなさい! この間、見せて貰ったのをやってみようと思ったんですけど、発射しちゃいました!」
「ああ、あの維持するのをやったのね! 全然問題ないわよ!」
レイナがペコペコと頭を下げている中、アレックスに肩を借りて起き上がるとレイナがこちらに気が付いて目が合う。
「バティル君!? どうしたのその傷!」
「さっきの魔法が直撃したのよ! で、どうだった? 前回よりも威力があったわよね?」
なんだこのサイコパス。
「そうなの!? ごめんなさい、ごめんなさい!」
本心で申し訳なさそうに謝罪するレイナに大丈夫だと伝え、ソフィアの家にお邪魔した。
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