第20話 ハンター登録
「―――48、49、50!」
「よし、止め。」
昨日エルザの養子になり、今日からはエルザの弟子としての生活も始まった。
手にはエルザが持っていた剣と同じ形状の、日本刀の様な刀を持っている。エルザの予備の刀なのだそうで、子供の俺には少し大きいのだが、成長するだろうという事でそのまま使わせて貰っている。
「取り敢えず、この回数を毎日する。初めは速さを気にせず、型を体に叩き込むつもりでやって行こう。」
「はい!」
エルザはまず、ハンターとしての基礎を教えてくれた。
剣の振り方から戦闘時の足の運び、そして『武気』という、この世界特有の概念的な物も教えて貰った。
『武気』というのは、簡単にまとめると身体を向上させる力の様だった。
試しに真剣で私を斬ってみろとエルザに言われ、おっかなびっくりで振り下ろしてみた所、エルザには傷一つ付ける事が出来なかった。
相手が武気をまとっていた場合、こちらも武気を纏わなければ相手に傷を付ける事は出来ないらしい。それはモンスターも纏っている物らしく、強いモンスターになればなる程固く、傷を付けるのに苦労するらしい。
俺が武気を纏う事が出来るのかをエルザに聞いてみた所、出来るとの事だった。と言うか、俺は既に武気を纏った事があるらしい。
「シャドウウルフと殺り合った時、バティルは武気を纏っていた。あの時、体が軽い様な感覚とか、五感がいつもより冴えてる感覚になってなかったか?」
「あー、確かになりました。あれがそうなんですね!」
「そうだ。体の内側から外に出して、全身に纏わせる感覚を掴め。それが出来ないと、ハンターとしては一人前にすら立てない。」
マジか。武気ってそれほど基本的な物だったのか。てっきりそういうのって上級者が扱う物だと思っていた。
「あれ、ちょっと待ってください。その武気の強さってどうやったら伸ばせるんですか?」
「基本的に体を鍛えれば自ずと強くなる。・・・が、筋肉量が武気の総量というわけでは無い。生まれ持った武気の強さは人それぞれだ。ガリガリの人間でも大型モンスターを倒す奴なんてのも見た事がある。」
おぅふ。そこも才能なのか・・・。魔法の才能が無かった俺だし、もしかしたらハンターとしての才能も無かったりするのだろうか。
「ちなみに、僕の武気はどんなもんなんですかね?」
「・・・ソコソコといった所だな。」
ソコソコか〜。まあ、鍛えれば伸びるとも言っていたし、魔法使いになるよりは伸び代があると思う事にしよう。・・・でもソコソコか。本当に俺、転生者なんだよね?
「稽古が終わったら、集会所にハンターの登録をしに行こう。」
「え、この歳でハンターになれるんですか?」
「勿論だ。さっさとハンターになって、実戦をしないとな。」
労働基準法がどうなっているのか気になるし、エルザの「さっさと実戦」というワードが気になる。剣を握るのすら今日が初めてなのに、もしかして今日中に実戦までするのだろうか。
――――――――――
稽古が終わり、汗を拭いてそのままハンター集会所の前まで来た。
小さな村という事もあり、集会所の中は5、6人のハンターくらいしか居ない。まだ昼間だというのに、酒を飲んでいる人もいる。
「いらっしゃいませ、エルザさん。クエストにしますか?」
「いや、今日はハンター登録をしに来た。」
「ハンター登録ですか・・・?」
「ああ、バティルがハンターになりたいという事でな。」
受付嬢が俺の方を見る。
「ああ、そうなんですね! 聞きましたよ、養子にしたってお話。ハンターにもなるんですね。」
「耳が速いな、もう聞いたのか。」
「そりゃそうよ! 田舎は1日もありゃ全員に噂が広まるぜ!」
少し離れたテーブルにいる中年のハンターが、ビールを片手に話しかけて来る。
「バティル! 俺はお前がハンターになるのは分かってたぜ! 何たってシャドウウルフの群れに単身で挑んだ奴だ。そんな奴はとっととハンターになった方が良いからな!」
この人はこの村のハンターだ。名前はサイモン。俺がこの村に来た時に開かれた歓迎会で、盛大にビールを飲み、盛大に吐いたアル中だ。
「サイモンさん、今はまだ日中ですよ。褒めてくれているみたいなので嬉しいですけど、こんな時間に酒なんて飲んで大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ! 俺は酒に強いからな!」
「初めて会った時、盛大に吐いてたじゃないですか。」
「ああすれば、胃がすっからかんになってまた飲めるからな! 永久機関の完成だぜ!」
ダメだこいつ。アルコールが脳まで行ってやがる。
「・・・まあ、サイモンさんは放って置いて。バティル君のハンター登録ですね。でしたらまず、この紙に記入をお願いします。」
受付嬢という事もあり顔のレベルが高い。エルザやソフィアの様な大人の女性と言うよりか、成人女性にしては幼く感じる可愛い系の顔をしている。
簡単な身分証明と、ハンターのルールの説明を聞いたらすぐにハンターになる事が出来た。
俺みたいな歳の人でさえハンターになれるのがやはり驚く。
それだけ人手不足なのか、単純に緩すぎるのか。こんな緩かったら入れ替わりは激しそうな業界だなと思う。年間でどれだけの死者数なのだろう。前世の世界だったら考えられない。
あとルールを聞いていて意外だったのは、乱獲を強く禁止している事だ。
モンスターなんて凶暴な奴が多いのだから、バンバン狩れば良いのではないかと思ったが、生態系が壊れてしまうという理由で禁止されているらしい。中世的な世界観だったので、そういったのには緩い感じだと思ったのだが、生態系とか気にするんだな。
密猟ももちろんダメで、下手をしたら多額の賠償金か長期の収監になってしまうらしい。勿論、ハンターの資格はどちらをやっても剥奪になる。それも下手したら永久にだそうだ。
俺がシャドウウルフに襲われているのを助けたなどの特殊な状況でない限り、基本的にクエストを受注し、そこに書かれている内容以外はやってはいけないと言う話だった。
「最初はDランクなんですね。」
渡されたハンターカードに、デカデカと書かれているDの文字を見ながら呟く。
ハンターにやはりランクと言うものがあり、下からD、C、B、A、Sと5段階に分かれている。受付嬢の説明では、Cランクまでは小型モンスター、Bランクは中型、Aランクは大型、SランクはAランクが一定回数クリア出来なかった高難易度のクエストを受注出来るらしい。
下のランクのクエストは受ける事が出来るが、上のランクのクエストは受注する事は出来ず、上のランクに行きたければ何回かクエストをクリアして、最後に上のランクのモンスターを討伐する必要があるらしい。
だが、もちろん例外があり、『特殊クエスト』と言うものがある。
それはランク関係無く受ける事の出来るクエストで、早急に問題解決をしたい時に出て来るらしい。
例えば、この村に大型モンスターが村を荒らしに来たと仮定した場合、Aランクのハンターがいなければ、BやCランクのハンターが討伐依頼を受注して、討伐して貰うと言う場合に限り出てくるクエストらしい。
「初めは皆そこからだ。なに、バティルなら直ぐにランクは上がるさ。」
俺が落ち込んでいると思ったのか、エルザが空かさず励ましてくれる。俺の美人ママ優しすぎ・・・///。
「エルザさんのランクはどこなんですか?」
「私はCランクだ。」
「うぇえ!!C何ですか!?」
意外すぎる。あれだけの凄い剣を見て、てっきりSかAランクは行っていると思っていたが、俺とランク差が一個しか違わないのか。
この世界の上位陣達はどんな奴なんだ。山を斬り倒すレベルなんじゃないのか。
というか、受付嬢の説明ではCランクは、小型モンスターと戦える位の強さがいるランクと言ってなかったか。
シャドウウルフは、小型モンスターだとエルザが言っていた。
(そのシャドウウルフを完封してたじゃん!)
バッサバッサ斬り倒す光景を思い出す。あれが小型モンスターと『戦える』何て表現にはならないだろ。あれは『圧勝』だ。
そんな俺に対し、サイモンが再び横から入ってくる。
「あー・・・確かにエルザはCランクだが、強さは本物だぞ。この村で1番強い位にな。」
そんなサイモンの言葉に、また違うテーブルにいる客がツッコミを入れる。
「この村どころの話じゃねぇ。この世界で1番だよ!」
「・・・それは無いな。」
エルザの冷静な否定に、周りの客達はガハハッと笑っている。
「でもエルザに剣を教えて貰えるなんて、バティルはすげー幸運だぞ。」
「だな、将来はSまで行くんじゃないか!」
昼間っから酔っ払ってる碌でも無いハンター達が、次第に盛り上がり始める。
「新しいハンターの誕生に、乾杯ーー!!」
『乾杯ーーー!!』
ただハンターの登録をしに来ただけなのに、何故かお祝いムードになって来た。まあ、罵倒されるよりは嬉しいので放っておこう。
「この後はどうしますか?」
ハンター登録は済んだと思うが、まだ何かあるのかもしれないのでエルザに聞いてみる。
「そうだな、折角だしこのままクエストをやってしまおう。」
(おお! ハンターとしてのデビュー戦!)
「やります!」
剣を教えて貰って、数時間しか経っていない不安はあるが、まあ大丈夫だろう。何てったって、俺は既にシャドウウルフを何匹も狩っているんだし、エルザも同行してくれるだろうしな。これからハンターとしてバッサバッサ倒して行くぜ!
――――――――――
【クエスト:薬草を籠1個分採取】
あ、お遣いクエストもあるんだ〜・・・。
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