第13話 村の日常

 あれから1ヶ月がたった。


 段々と気温も上がって行き、そろそろ梅雨の時期になるらしい。


 1ヶ月の間、俺はこの村の人達と交友を深めていた。エルザの家に居候させて貰いながら、レイナのガイドで村のあちこちを紹介してもらった。


 雑貨屋、鍛冶屋、ハンター集会所などの人達と軽い挨拶をさせて貰った。村の人達はみんな優しく、部外者の俺を白い目で見る事はなかった。むしろ村の中で歓迎会が開かれたくらいだった。


 エルザが言うには、この小さな村にとっては子供は宝という認識が高いという。


 それを聞いて確かに、と思った。簡単に考えると、人口が少ない村としては、労働力として期待出来るのだろう。だからどこから来たか分からない子供でも歓迎してくれるのではないだろうか。


 ただ、そういった理性的な理由もあるだろうが、歓迎会で村の人達と接してみて、単純に新しい人が入って来てくれて嬉しいというのが伝わって来た。


 狼に襲われた事を「大変だったな」と励まされたり、この村にはエルザとソフィア、そして村長がいるから安心だぞと言ってくれていた。


 そんな感じで、この村の人達とは仲良くして行けている。


 「早くーこっちだよー。」


 そんな平穏な生活をしている俺は今、2人の少女と一緒に森の方へと歩いていた。

1人はレイナで、もう1人はマリーと言う5、6歳程の少女だ。


 別にやましい事をする訳では無く、マリーの父親へ昼ご飯を届けに行く最中である。


 マリーの父親の仕事は、マリーから聞いてみた感じ、村の警備兼、ハンターの仕事の様だった。森から来るモンスターを村に向かわせない為に、森の入り口付近で警備をしているそうだ。


 「そんなに離れちゃ駄目だよー。」


 前を進むマリーにレイナは声を掛ける。恐らく、マリーは早く父親に会いたいのだろう。


 「遅いよー。」


 頬をプクーッと膨らませて可愛らしい抗議をしている。


 麦わら帽子に籠を持って、トテトテと歩いている姿は可愛らしい物だ。まあ、今の俺も子供の姿なので、周りから見たら変わらないのだろうけども。


 「元気だねぇ。」


 「年寄りみたいな事言ってないで、バティル君からも言ってよー。」


 この1ヶ月でレイナとの距離も近くなり、友人と言える位の仲になって来ていた。少女と友達と言うのは、俺の中で未だに違和感が凄いのだが、周りから見たら違和感がない様で、エルザは事あるごとに「レイナと遊んできなさい」と仲を深めようとしてくる。


 中身がおっさんと知っているのが俺だけなので仕方ないのだが、なんだかいけない事をしている様な気がして少し気が引ける。


 しかしレイナは違う様で、歳が近い俺との会話が楽しい様だった。


 今では軽口を言い合える位になり、俺も初めの頃よりは大分馴染めて来ている。


――――――――――


 まったりとした時間が過ぎ、森の入り口付近の検問所の様な小屋の前まで来た。


 「お父さーん、お昼ご飯持って来たよ!」


 コンコンと扉をノックし、すぐに1人の男が扉を開ける。


 「おお、マリー!」


 出てきた男はマリーを見ると、顔の緩んだ笑顔になり、愛娘を優しく抱き上げる。


 「2人ともありがとう。まだマリーは1人だと危なっかしくてね。」


 そう言って俺たちの方へ感謝を述べた。


 マリーの父親は俺の方へと手を伸ばし、「ロイだ、よろしくね。」と自己紹介したので、その手を握り「バティルです。」と返した。


 そしてレイナはと言うと、腰に手を当て「えっへん!」と胸を張って答える。


 「村の人を守るのは当然です。なんせ村長の孫ですから!」


 最初に出会った時は、村長の後ろに居たのが印象に残って、人見知りなのかと思ったが全然そんな事は無かった。


 レイナは、心を開いている人に対してはとても明るい。


 そんな感想を頭の中で考えていると、レイナは自慢げに腰に手を当てながら、チラチラと俺の方を見てくる。


 この行動は1ヶ月で何度かあった。こうなった時の対応としては「すごい!」とか「流石!」と褒めてあげると機嫌を良くする。


 初めは対抗意識とか、上下関係を分からせるためにやっているのかと思ったが、エルザに相談してみた所、そういう事をする人物では無いという話だった。恐らく俺に良いところを見せたいのではないか、とエルザは言っていた。


 今まで同い年の子供はおらず、初めて出来た同い年の友達ということで、見栄が出てしまっているのだろう。


 「流石だね、レイナ。」


 そう言うと、いつも通り顔を赤らめながら喜んでいる。何故、顔が赤くなっているかは分からないが。


 「あ、ありがとう。へへっ。」


 「おーおー、お熱いねー。」

 

 マリーの父親の同僚がニタニタと笑いながらからかってくる。


 「そういうのじゃ無いです!」


 レイナの否定に対して、大人達は微笑ましい者を見るかの様に笑顔になっている。そうだぞあなた、俺がロリコンに見えるのか。


 「・・・ジェナ、からかうのは止めないか。そうだ、折角だし皆んなでお昼ご飯を食べないかい。」


 レイナは顔を赤くしながらも、マリーの父親の提案に乗り、少し早いが昼ご飯を食べる事にした。


 マリーの母親が作った料理はサンドイッチだった。シャキシャキとした食感の野菜や、目玉焼きが丸ごと挟まれているのなど様々だ。


 マリーの父親から、妻の料理の上手さを熱く語るのを聞きながら食事を進める。


 確かに自慢したくなる気持ちが分かるくらい美味しかった。サンドイッチの中にマヨネーズの様な物が入っていて、それが口の中をまろやかにしてくれている。


 そんなレベルの高いサンドイッチを食べ終えて、村に帰ろうかとなった所でマリーが見せたい場所があると言う。


 「折角だし、お花畑見に行こう!」


 どうやら、この先の森の中に広い範囲で花が咲いている場所があるのだと言う。その場所は夏に入る前の今の時期が一番綺麗らしい。


 「そういや、もうそんな時期だったなー。」


 ジェナと呼ばれていたロイの同僚が反応する。


 「見張りは俺がやっておくから、皆んなで見て来いよ。」


 ロイは少し考え、すまんと手でジェスチャーをしながら「悪いな、しばらくよろしく。」と言う。それに対し「おう。」と短く返事をする。


 「じゃあ、見に行こうか。」


 「やったー!」


 マリーは飛び跳ねたりしながら、全身で喜びを表現している。


 「きっと、バティルも気にいるよ!」


 花を愛でる趣味は無かったが、マリーのお墨付きの様だし、花畑を見に行く機会が前世でも無かったので楽しみである。

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