第12話 村長と対面

 俺の魔力総量を調べるイベントあってから、ソフィアの家でしばらく寛いだ後、俺とエルザは帰路に着いていた。


 ソフィアの研究はMPポーションを作ることだという事は理解出来たが、その現場を少し見せて貰う事が出来た。・・・が、何がどうなっているのか分からなかった。魔法を使えたら分かるのかも知れないが、魔法が使えないと分かった俺は、一生理解できる事は無いのだろう。


 ただ、透明に近い瓶やガラスがあった事から、それなりに文明は発展しているのだなと感じた。


 太陽が傾き始め、体感としては3時になろうかという時間に、村の方から体格の良いおじさんと、俺と同じくらいの少女が向かって来ていた。


 おじさんはこちらに気がついた様で、少女を肩車をしながら手を振る。



 「おーい!」



 どうやら俺たちに用がある様だ。



 「知り合いですよね?」


 「ああ、あの人はこの村の村長だ。」



 なんと、お偉いさんだったのか。普通の服だったので村人Aとかなのかと思ったが、どうやら違ったようだ。



 「気さくな人だから、そんなに畏まることも無いぞ。」



 村長という肩書きにより少し緊張したのを察知したのだろう。まあ、見るからに村長と聞いて背筋がピンとしたからだろうけど。



 「ましてや、子供に礼儀作法で叱咤するような人じゃない。」


 「そうなんですね、なら良かったです。」



 この世界の礼儀作法が分からないから、もしかしたら失礼な事をしてしまうかもなんて心配をしていたが、杞憂だったようだ。


 そんな事を考えていると、村長達は直ぐそこまで来ていた。



 「どうしたんですか。何か問題でも?」



 即座にエルザが話を振る。挨拶がなかったのは昼に俺の事情を説明しだ時に済んだからだろうか。



 「いやいや、何も問題はないよ。昨日の少年が目を覚ましたと聞いたから見に来たんだよ。」



 ゴツい体とは正反対に、柔らかな笑顔でエルザの質問に答える。


 そう、ゴツい。


 遠くからだとよく分からなかったが、筋肉がイキイキしているのがわかる。髪は白髪になっているのを見ると、そこそこの年齢なのは確実なのだが、元気な肉体で若々しく見える。



 「それと、さっき言っていた子供用の服も、留守だったから玄関の前に置いておいたよ。」


 「早いですね。ありがとうございます。」


 「いや何、ずっとブカブカの服を着せている訳にはいかないだろう。」



 そう言ってから俺の方を見る。ついでに、今もブカブカの服を着ている。パンツも履いていないので、ズボンが下がって行く度に冷や冷やする。



 「君がバティルくんだね。昨日、エルザ君が連れてきた時は大怪我で心配していたけど、流石はソフィア君だね。傷跡が残ってないよ。」



 村長は俺の方に手を伸ばし、優しい手つきで頭を撫で始めた。



 「え、僕そんなに重症だったんですか?」



 そんな話言われてなかったぞ。



 「そうだよ。エルザ君が慌てて連れてきてね。傷が深かったから心配したよ。エルザ君から聞いていないかい?」



 全く聞いてないよと言う感じでエルザを見ると、



 「不安がらせる事は、これ以上言わない方が良いと思ったんだ。」



 「記憶喪失で不安だろうからな」と付け加えて教えてくれた。エルザは基本キリッとしていて他人に冷たい雰囲気があるが、その内心は他人を思いやる優しい人なのだろう。


 そんなエルザの気遣いに気付かず、2人の美女に囲まれて最高!なんて思っていた自分が恥ずかしい。



 「そうか、それは余計な事をしちゃったね。」



 そう言う村長に対して、ここまで来る途中に肩車から降ろされ、村長の後ろにピッタリとくっついていた少女が村長の裾をチョンチョンと引っ張る。



 「お爺ちゃん、私たちまだ挨拶してないよ。」


 「おお、そうだった。偉いぞーレイナ!」



 村長はレイナと呼んだ少女の頭をわしゃわしゃと撫で回した。それに対して少女は不快感はなく、嬉しそうに微笑んでいた。



 「改めまして、私はこの村の村長をしているレイロンです。この子は私の孫のレイナです。」


 「レイナです。分からない事とかあったら言ってね。」



 レイナは、金色の髪に青い瞳をしている多分、猿人族だ。


 髪はエルザと同じでポニーテールにしていて、白色のワンピースがヒラヒラと風になびいている。俺より少し高い視点から俺を見ていて、その整った顔を至近距離で見せてくれている。きっと将来はモテモテだろう、もしかしたら現時点でモテているかもしれない。



 「バティルです。よろしくお願いします。」



 頭を下げてご挨拶。


 少し硬過ぎただろうか。側から見たら、子供同士のやり取りなのだからもう少し柔らかい挨拶の方が良かったかな。


 やはり村長の孫と聞いて、無礼があってはいけないと思ってしまっているのが原因で、少し硬くなってしまっているな。



 「記憶喪失と言う事は、年齢も覚えていないのかい?」


 「そうですね、何も覚えてません。」


 「うーむ、まあレイナと身長が同じ位だし、同じ12歳と言う事で良いんじゃないかい?」



 名前もこの世界の住人に決めて貰ったし、俺の体もその位の年齢なので断る理由は無い。


 首を縦に振り、問題ない事を伝える。



 「折角ですし、私の家でお茶でもどうですか?」



 エルザの提案に村長は少し考え、「うん。」と首を縦に振り、



 「そうだね。じゃあ少しだけお邪魔しようかな。」


―――――


 「どうぞ。」



 エルザの家へと帰り、エルザは2人の客人と俺に飲み物を運んでくれた。



 「エルザ君の家に招かれたのは久しぶりだね。」



 飲み物を一口飲み、レイロンはエルザに話を振る。



 「あの時は、色々と村に迷惑を掛けて申し訳なく思っています。」



 エルザは即座に頭を下げた。


 (エルザは何かやらかしたのか、意外だな。)


 そう言うタイプに見えないので意外だった、一体何をやらかしたのだろうか。考えても思いつかない。



 「いやいや、謝らないでくれ。そう言うつもりで言った訳ではないよ。」



 レイロンは手を振って、体全体で否定をする。



 「君が子供をしばらく預かりたいと言い出して、・・・なんだか感慨深くてね。」


 「・・・・・・・・。」



 エルザはレイロンの言葉に黙っていた。悲しそうな、申し訳無さそうな顔を一瞬していた。



 「前に進めそうかい?」


 「・・・わかりません。」



 空気が重い、エルザは何かをやらかしたのだろか。一体何をしたのか気になるが、聞いても良いものなのだろうか。


 (やめておいた方が良いのかな。・・・いや。)


 今の俺の外見は少年なのだ、空気の読めない子供のフリをして聞いてしまおう。ソフィアの胸の感触を堪能した時の様に、今だから使える子供の特権をフルで使っていこう。


 それに、しばらくはエルザの家に泊めて貰うのだ。エルザの事は、もう疑ったりはしていないが、知っていて損という事は無いだろう。今後の立ち回りにも影響してくるし。



 「・・・何かあったんですか?」



 良い感じの演技ができた。


 聞いちゃいけない事なのだろうけど、まだ子供で好奇心の制御が出来ていないから聞いちゃった、という余所余所しい感じだ。


 俺の問いに対してレイロンは答えられなかった。俺とレイロンは、スッとエルザの方へと顔を動かし、エルザの反応を窺っていた。


 そりゃあ、エルザの問題なのだからレイロンは話せないだろう。話すにしてもエルザの許可が必要だ。



 「・・・1年ほど前に、旦那が死んだんだ。その時に精神が不安定な時期があって、村の人たちには色々迷惑を掛けてしまった。」


 「・・・。」



 (なるほど、そんな事が。大事な人が亡くなったらそりゃ不安定になるというものだ。・・・・・・・って)



 「うえぇぇぇ!?、旦那ぁぁ!?」



 座っていた椅子から立ち上がり、エルザの顔を見るが冗談を言っている様には見えない。


 エルザの年齢は分からないが、恐らく20代前半だろう。前の世界でも若い年齢で結婚する人はいたが、何というかエルザは男っ気が無さすぎる。てっきり俺と同じで独身を貫いていく雰囲気すら感じていたので驚愕してしまった。


 驚く俺を見て、レイロンとレイナの2人は、どうしたんだと言う感じで見ていた。



 「し、失礼しました・・・・。」



 それに対してエルザはクスリと笑い、



 「意外だったか?」



 怒っている様子はない。であれば正直に答えるべきだろう。



 「はい、エルザさんやこの家に男っ気がありませんでしたから、意外で・・・。」



 怒っているだろうか。


 もし俺が「君、彼女居ないでしょー、部屋とか見たら分かるよー。」なんて言われたらやっぱり不機嫌になるだろう。


 チラリとエルザの表情を見る。怒っているかもと思っていたが、予想とは反して笑みを浮かべていた。



 「ふふ、そうか、そうだよな。昔の私を知っている人たちは皆驚いていたが、今の私しか知らなくてもそう思うんだな。」



 何だか機嫌は良さそうだ。


 良かったー。エルザの家に泊めて貰っているのにも関わらず、嫌われるかもしれない所だった。


 今はこうして機嫌がいい様だが、このままエルザの旦那さんの話をしていたら地雷を踏みそうで怖い。こんな落ち着いている人が、大事な人を亡くし、ショックを受けて周りに迷惑を掛けてしまったと言っているのだ。こうして穏やかに見えるのもそこまで多い事ではないのかもしれない。



 「昔のエルザさんはどんな人だったんでか?」



 今まで話に入ってこれなかったレイナがエルザに話を振る。そうだ、そうやって旦那さんの話から少しづつ離れよう。



 「昔か。・・・お前たち位の頃の私は、とにかく喧嘩っ早くてな、いつもカリカリしている奴だった。」



 今のエルザからは想像できない。しかし、冗談を言っている様にも見えない。昔を懐かしむ様に穏やかな顔をしていた。



 「全然想像出来ない・・・」


 「フフ、それは良かった。大人になった・・・と言うやつなのだろうな。」



 よしよし、いい雰囲気になった。


 レイナはエルザの大人になると言う言葉が響いたのか、「大人になる・・・大人の女性・・・」とブツブツ独り言を言っている。



 「村長は、今の地位につく前は何をされてたんですか?」



 髪全体が白髪になる位の年齢の割に、生き生きとした肉体を持っていたので少し気になっていたのだ。



 「昔はエルザ君と同じハンターだったんだよ。今は朝に素振り位しかやってないけどね。」


 「お爺ちゃんは昔凄かったんだよ、大型のモンスターを一人で倒したんだから!」



 マジか、大型というのはどれ位の大きさなのかは分からないが、今の村長を見ていると全盛期は凄かったのだろうというのは推測できる。それぐらい説得力のある体だ。



 「ハハハハッ、それ程でもある!」


 (謙遜せんのかい!)



 「ただ上には上がいるものでね。エルザ君やソフィア君を知った時は驚いたもんだよ。」



 え、そうなの?村長の筋肉からしたら2人は及ばない気がするのだが。



 「ですが、その時は殆ど装備をせずに挑んだと聞きましたよ。」


 「流石に私でも装備なしは無理です。」とエルザは首を横に振る。それに対して、村長は少し嬉しそうだった。というか、装備ありなら1人でいけるのか・・・。


 「エルザ君に少しでも認められるのは嬉しいものだね。」



 それから、村長の武勇伝をレイナが嬉しそうに話し、それを村長が補足を入れて話してくれた。


 村長はハンターとして、何度も村の危機を救った人物だとわかった。


 レイナはそれを誇りに思っているらしい。そういった事でハンターに憧れがあり、現時点の村の中で最も強いと言われている、エルザとソフィアに尊敬の念を抱いている様だった。


 村長とレイナとの仲も次第に良くなり、レイナに村の案内をして貰う話をして、今日の所はお開きになった。

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