第9話 お姉さんは努力家

 「スースースー・・・。」



 俺は今、最高に興奮している!


 理由は両隣にいる美女が胸を押し付けているからである!


 30歳童貞の俺は、女性の胸どころか手もまともに触った事が無い。そんな俺が、いきなり顔に胸を押し当てられたら眠りたくても寝られないと言うものだ。


 ――――そうあれは、誕生日パーティーを終えた後の事。


 俺が目覚めた時の部屋を使って良いと言ってくれたので、お言葉に甘えてそのまま寝ようとした所に、酔っ払ったソフィアが入ってきたのだ。


 「寂しいだろうから一緒に寝てあげる!」と言っていたのだが、こっちは体は子供でも心は大人である。


 流石に「それはやめましょう」と言ったのだが、強がるんじゃないと言われ、エルザも呼んで強制的に川の字で寝ることになったのだ。


 そして2人の抱き枕にされ、今に至ると言う事だ。



 「む、朝になったな。」



 何の挙動もなく、エルザが目を覚ます。


 2人の胸に挟まれ、興奮状態の俺は意識外からの急な声にビクリと反応してしまう。



 「ああ、すまん。驚かしてしまったか。」


 「・・・寝起き良いんですね。」


 「ハンターだからな、染み付いているんだ。」



 なるほど、職業柄そう言う体質になったのか。



 「ソフィアはまだ寝ているみたいだな。」



 そう言われて、俺も左の頬に押し付けられているおっぱい・・・じゃ無かった。ソフィアを見る。



 「むふふん・・・。もっと魔法が見たいのぉ?いぃわよぉ、元A級は伊達じゃ無いんだからぁ・・・むにゃむにゃ。」



 どうやら昨日の誕生日会で見せて貰った、魔法の披露宴をした時の続きを、夢の中で見ているようだった。



 「ん?なんか冷たい・・・。」



 ソフィアに撫でられている頭部の方が、なんだか冷んやりとしてきた。



 「―――って凍ってる!?」



 頭上からパキパキと何かが凍る音がして、反射的に飛び起きる。


 すぐに確認するが、凍ったのは髪までだった。


 もし坊主とかだったら間違いなく頭皮まで行っていただろう。


 (あぶねー、こんな若い姿で毛根が死滅するとこだった。)



 「大丈夫か?」



 少し戸惑いながらエルザは俺の頭頂部を確認しに来る。



 「あ、はい大丈夫です。」



 そう言ったものの、やはり心配なのだろう。エルザは俺の頭を念入りに調べた。



 「うん、大丈夫そうだな。・・・すまんな、ソフィアはたまにこうして、寝ながら魔法を使う事があるんだ。」



 それを昨日、寝る前に教えてくれよ。



 「そんな、お寝ショみたいな感覚で魔法って出るものなんですか?」



 もしそうだとしたら、この世界の魔法使いは大変だろう。今回は氷魔法だったが、炎魔法だったら家が火事になるかも知れないのだから。



 「いや、魔法はそんな簡単じゃない。他の魔法使いは寝ながら魔法を使うことは無いだろう。」



 あ、そうなんだ。と言うことは種族の特性なんだろうか?



 「それって、羊人族という種族が関係しているんですかね?」


 「関係してなくも無いだろうが、ソフィアの場合は反復練習で得た技術だろうな。こいつにとって魔法を使うと言うのは、もう手足を動かす感覚に近いんだと思う。だから種族の特性と言うよりかは、努力の賜物だろうな。」



 そう言ってエルザはソフィアに目を向ける。


 釣られて俺もソフィアを見るが、まさかこの脳天気なお姉さんは実は努力家らしい。


 この2人の関係はまだよく分からないが、エルザはソフィアの魔法技術を高く評価しているようだった。


 そんな2人の絆を感じる所なのだが、俺はと言うと(今後、寝る時におっぱいの感触を得るには、毛根の犠牲を支払う事になるかも知れない)というしょうもない考えがよぎってしまっていた。

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