第42話 再入院

 その日は家に帰れなかった。一通りの検査のあと、強い痛み止めを投薬され、眠くて眠くてそのまま入院となってしまった。頭痛の辛さで、意識を投げ出す方を選んでしまった。

 

 翌朝、ぼーっとしていると、病室に藤沢先生がやってきた。

「どう、具合は」

「昨日よりは随分と良いです。でも、薬のせいですかね、頭があんまり回らないです」

「そうね、薬の影響ね」

「で先生、私、どうなんでしょうか」

「うん、しばらく入院してもらうことになると思う」

「再発ですか?」

「血液検査の結果を待たないと、なんとも言えないわ」

「わかりました。検査の結果が出たら、教えてください」

「うん、約束するわ」

 藤沢先生は出ていった。

 

『どうも、よくないようね』

 検査の結果がでるまで、難しく考えないほうがいいんじゃないか。

『私わかる。再発だと思う。藤沢先生、うそつけないから』

 うそを言うような人じゃないな。

 

 やがて、伯父さん・伯母さんが揃ってやってきた。

 そのことからも状況が悪いことがわかる。

「パパ、ママ、ごめんね。私、再発しちゃったみたい」

「そんな事言うなよ。まだ診断でてないんだろう」

 伯父さんはそう言うが、顔はひきつっている。

「うん、パパ。だけど、結果が出たら、私には隠さず教えてね」

「おお、わかったよ」


 ぼーっとしているだけなので時間が経つのは早い。午後になり、すずかがやってきた。

「ももか、具合はどう?」

「うん、昨日から急に頭痛が酷くなってね。心配してくれてありがとう」

「まだ診断結果は出てないみたい。わかったら、すずかにも教える」

「うん」

「そんな悲しい顔しないでよ。私、入院は慣れているんだから」

「うん」


 言葉が途切れてしまう。ももかもすずかも、何を言うべきかわからないのだろう。

 

『その通り、どう言っていいかわかんない。コウイチどうにかしてよ』

 そんなこと言われてもな。ああ、悲しい顔のすずかも、かわいいな。

『時と場合を考えなよ。かわいいけど』

 言ってみれば。

 

「すずか、悲しい顔でも、可愛い顔してるよ」

「こんなときに、何を言っているの」

「こんなときでも、事実は事実だから」

 流石にすずかに笑顔が戻ってきた。良い。

 

 しばらく二人で無言の時間が流れてしまった。

 

「ももか、ごめんね。あんまり疲れてもいけないから、私、帰る」

 すずかは寂しい言葉を残し、帰っていった。

 

 遅くなって、今度は綾がやってきた。

「ももか、元気?」

と言って、拙い言葉を出したのがわかったようで、綾はうつむいてしまった。

「元気じゃないけど、元気になるよ」

「うん、なるよ、かならず。これがあるから」

 綾はそう言って、細長い紙包みを出した。

「これね、あの神社のお札。あの、ももかのおじさんがお祈りしてくれたところ」


 あんな神社、お札なんか売ってたか? いつも無人だったとおもうんだが。

 

「綾、コウイチが行った神社、いつも人いないところだよ」

「うん、今日行ったら掃除している人がいてね、無理やりお願いしてお札だしてもらった」

 綾は満面の笑みで言った。

 

 すげぇ行動力だな。

『うん、すごい』


「綾、ありがとう。かならず良くなるよ」


 ももかの友達美人ばかり。これは治らないわけにはいかない。

『動機が不純』


 頭はまだ痛いが、ももかの心は暖かくなった。

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