第43話 告白
検査結果が出た。悪い予想があたった。藤沢先生が説明してくれる。
「腫瘍の位置が悪いから、まずは薬で小さくします。ある程度小さくなったら、重粒子線でたたきます」
それがベストだな。
『ベストなの?』
今の日本でできる、最高の治療だよ。
俺は間の悪いことに、一般的な予後とか治療費とか考えてしまいそうになる。隠し事はできないので考えないしか無い。
『コウイチ、大丈夫。一応これでも医学部志望だからね』
ごめんごめん。ま、治療を通じて、勉強になるかもな。
『うん』
俺がももかに気を使うように、ももかも気を使ってくれる。だからこんな状況でも、俺たちの心はあたたかい。
今日もすずかが病院に来てくれた。
「すずか、結果出た。再発した」
すずかは衝撃を受けたようだった。必死に泣くのをこらえている。
「すずか、ごめんね心配かけて。でもね、私、治療頑張るから」
「うん」
しばらく沈黙が流れたが、すずかが口を開いた。
「私、コウイチ先生がお願いした神社でお願いしてくる。だから、ももか治るから」
それはダメだ。下手すりゃ俺たちのかわりにすずかが死んでしまう。
「ダメ、すずか。あの神社だけはだめ」
「どうして? 綾はお札もらってきたんでしょ」
「お札は大丈夫だと思う。だけど、あそこへ言ってお祈りしちゃダメ」
「なんで? わかんない」
すずかはついに泣き始めてしまった。
美しい人は、泣いても美しい。その事実を確認してしまったが、そんなことはどうでもいい。
『どうしよう』
どうするよ。
『コウイチ、真実を話そう』
真実って?
『コウイチが、私の中にいること』
いいのか?
『それしかない』
思考が乱れる。ももかの決意は伝わる。しかし俺の気持ちは定まらない。
『コウイチ、すずかに無理させちゃだめだから』
そうだな。
「すずか、今からの私の話を落ち着いて聞いてほしい」
「うん」
「実はね、コウイチが神社で死んだの、私のためなんだ」
「え」
「あの神社で必死にお祈りして、命を投げ出して、それで私を救ってくれたの」
「なんでそんなことわかるの」
「コウイチが私の中にいるから」
「どういうこと」
「私、急に成績がよくなったでしょ。頭の中のコウイチが教えてくれるんだ」
「ももかががんばって勉強したんじゃないの」
「頭の中で、コウイチが家庭教師してくれたんだよ。脳内家庭教師」
「あれ、ホントだったんだ」
「それでね、コウイチってちょっとエッチだったでしょ」
「うん」
おいおい。
「私がすずかとか綾とかとハグすると、コウイチが喜ぶんだよ」
「なにそれ」
「じゃ、今ハグしたら、喜ぶの?」
おい、やめろ。
「今ね、コウイチがやめろって言ってる」
すずかは抱きついてきた。
すずかの髪がももかの頬に触れる。息遣いが近くに聞こえる。肩から下に、あたたかい塊を感じる。すずかの命だ。
「コウイチ、感動してるよ。すずかが生きてるって。だからね、もしすずかがあの神社でお祈りして、それで死んじゃったら、私もコウイチも悲しい。だから、あの神社には行かないで」
「うん。でも、どうしたらすずか治るの」
「正面から、治療がんばるよ」
「うん、応援する」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます