第38話 脳内家庭教師 ふたたび

 体験授業がおわり、塾を出た。

「ももか、ここはだめだね」

「うん、私の志望は知ってたはずなのに」


 同業者として恥ずかしい。

 

「コウイチ先生は、ちゃんと基礎から教えてくれたよね」

 すずかが嬉しいことを言ってくれる。

「そうだよ。だから、やっぱりだめっぽいね」

「でもさ、ももか、石田先生がやるより前に、公式出しちゃってたよね」

「うん、なんとなく」

「すごいね。先生、いらないじゃん」

「脳内家庭教師がいるからね」


 おい、いらんこと言うな。

 

「ももか、前もそんなこと言ってたよね」

「そうだっけ?」

「そうだよ。コウイチ先生がいるみたい」

「いたらいいんだけどね」


 なんとかごまかせ。

 

「ももか、コウイチ先生、なんで死んじゃったんだろ」

 すずかは早くも涙ぐんでいる。

 

 ももか、やっちまったな。

『うん、どうしよ』

 ま、魂が宿ってるとでもいうしかないか。

 

「すずか、コウイチは、私のためにお祈りしてくれて、死んじゃったって、前話したでしょ」

「うん」

「だからね、コウイチの魂は、私の中に宿ってる。だからコウイチの考え方が、自然とでちゃうんじゃないかと思う」

「それが脳内家庭教師?」

「そう」


 押し切れ。

 

「だからね、コウイチの魂が自然と正しい方法に導いてくれると思うんだよね。石川先生は、ちょっとちがったかな」

「そうか、私、やっぱりももかと一緒に来てよかった。ももかと一緒に勉強したい」


 いいと思うぞ。

 

「レベル違うから、足引っ張っちゃうかもだけど」


 全然問題ないぞ。

 

「全然、大丈夫だよ。私もすずかと一緒に勉強したい。春休み中、一緒に勉強しよ」

「うん、今度、ウチくる?」

「行く行く!」


 帰宅してから、もう少し勉強する。すこししたら眠気が襲ってきた。

 

「ももか、夕ごはんよ。起きなさい」

 伯母さんが肩を揺すっている。

「あ、ごめん、寝ちゃった」

「がんばってるね。パパ帰ってきたわよ」

「じゃ、いっしょに御飯食べれるね!」


 食卓につくと、早速伯父さんが聞いてくる。

「ももか、塾、どうだった?」

「パパ、せっかく探してくれたんだけど、ちょっとダメみたい」

「え、どうダメなんだ?」

 伯母さんは、ご飯やらおかずやら、運んでいる。

「あのね、医学部志望ってこと、ちゃんと伝わってなかったみたい」

「おかしいな、体験前カウンセリングで、ちゃんと伝えたのに」

「うちの高校じゃ、無理だと思ってるんじゃない?」

「それは失礼だな」

「とにかく、そういう印象だったよ」

「わかった。断る」

 伯母さんは、食事を並べ終わった。

「おまたせしました。食べましょ」

「「「いただきます」」」


 ももかが伯父さんに聞く。

「あの塾はダメとして、春休み中、すずかと勉強していい?」

「いいぞ、でも、いつも来てもらうのは悪いな」

「うん、今度はすずかのうち行きたい」

「体力大丈夫か?」

「もう、大丈夫だよ」

「ならいいぞ」

「ありがと」

 伯母さんは、

「それじゃ、お土産持っていきなさい。なにがいいかな?」

と言った。


 しばらくしたら塾から電話がかかってきた。伯父さんが速攻で断っていた。

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