第33話 伯父さんの決断

 すずかと綾は夕方暗くなるまで一緒に勉強したが、夕食は自宅で摂ると帰っていった。

 

 夕食は、酢豚だった。久しぶりの中華にももかは喜んだ。

「酢豚って、パイナップル入ってるのが面白いよね」

 伯父さんが言うので、ももかは知識を披露する。

「パパ、パイナップルにはタンバク質の消化を助ける酵素が入ってるんだよ」

「そうなのか」

「うん」

 伯父さんはちょっと黙ってから口を開いた。

「ももか、真剣に勉強してるんだな」

「うん、体力的には厳しいけど、体調を崩さないように気をつけながら、目一杯勉強してる」

「それは俺もわかる」

 ここで伯母さんが口をはさんできた。

「ももかは、平日もテレビも見ないで勉強してるわ」

 伯父さんはそれを聞いて心配そうに言った。

「睡眠はちゃんととっているのか?」

 ももかは正直に答える。

「なるべく八時間は寝たいんだけど、ついつい勉強が遅くなっちゃうときがある」

「そうか」

 伯父さんは食べるのをやめ、腕を組んで考え始めた。ももかはちょっと心配になってしまう。酢豚の味がよくわからなくなってしまった。


 しばらくして伯父さんが口を開いた。

「ももか、最近の勉強の様子、ママからも聞いたけど、今日友達との感じも見て、パパはよく勉強してると思う」

 伯母さんも言う。

「私も、ももか、よく頑張っていると思うよ」

「だからな、ももか、理系への変更、パパからも学校へお願いしてみようと思う」

「ほんとに?」

「ああ、だけど、健康が第一だからな」

「わかった」

「じゃあ、食事を続けよう」


 そのあとの食卓は、無言だった。だけどそれは嬉しさのあまり声がでないのであって、伯父さんも伯母さんも優しい顔だった。

 

 翌朝、いつものように家を出る。庭の梅の木に花がついている。

 

 学校最寄りの駅で、今日もすずかと綾に合流する。

 すずかががいつも通りももかのカバンを持ってくれる。綾はももかを後ろから押しながら言った。

「昨日さ、家帰ったら、ママに怒られた」

「え、なんで?」

「私がももかの勉強邪魔してるんじゃないかって」

「ハハハハハ」

 すずかが大笑いする。

「ちょっとひどくな~い?」

 綾が憤慨する。ももかも笑いたかったが、ちょっと可愛そうなのでやめた。

 

 おい、フォローしてやれよ。

『そうだね』


「綾さ、教えることによって知識が整理されることがあるんだよ。だから綾に教えると、私は前よりももっと理解できるようになってるんだ。だから気にしないでね」

「わかった。ママにもそう言う」

 すずかはまだ笑いながら、

「うまく伝わるかな~?」

と言う。

「実のところ、ちょっと心配」

 綾がそう言うので、さすがにももかも笑ってしまった。

 

 理系のこと、話しておかなくていいか?

『そうだったね』


「あのね、昨日ね、パパが理系へ変更していいって、やっと言ってくれた」

「「よかったじゃん」」

「二人のおかげだよ」

 

 あと少しで学校の坂を登りきるところで、すずかが道端になにか見つけた。

「ね、ふきのとう出てるよ」

 まだ寒いが、春がもう近いのだ。

「てんぷらおいしいよね」

 綾が言った。

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