第28話 ちょっとお勉強

 カワセミを見たあと、すこし陽が傾いてきたので家に戻る。元気な綾と歩いていると、息がきれてしまう。

「綾、ちょっと待って。コンビニ寄りたい」

「わかった」


 コンビニではいつものように、サラダチキンを買う。綾が聞いてくる。

「おかしじゃないの?」

「筋肉を付けたいから、運動後にタンパク質とるようにしてるんだ」

「夕ごはんじゃだめなの?」

「運動後30分以内が効果的なんだって」

「へぇ、しらなかった。わたしも明日から真似しよ」

 綾は感心してくれたが、すずかが聞いてくる。

「ももか、そんなことよく知ってるね」

「うん、調べた」

 すずかはあんまり納得してなさそうである。

 

 家に帰って、みんなでちょっとだけ勉強する。

 すずかが提案する。

「ねぇ、みんなでわからないこと教え合おうよ」

 ももかも同意する。

「いいね、そうしよう」

 綾は、

「私は教えてもらうだけになりそう」

と言って、笑った。


「ねぇ、この英文、意味わかんない」

 綾が英語のプリントを出してきた。ももかが答える。

「えっとね、これはここに関係代名詞が隠れてるんだよ」

「なんでわかるの?」

「この文さ、動詞がこことここの2つあるでしょ。英語の原則は、一つの文に動詞は一つだけ。だから関係詞か接続詞がいるんだけど、接続詞は省略できないでしょ。だから、どっかに関係詞があると考えるの」

「そうなんだ。あんま文法わかんない」

「慣れだよ、慣れ」

「ふーん」


 今度はすずかが聞いてきた。

「このモル濃度の計算が、よくわかんないんだよね」

 化学のプリントであった。ももかが答える。

「モル濃度っていうのは、溶液1リットルに、溶質が何モルとけてるかってことだよ」

「それはそうだけど、何で質量パーセント濃度とか、モル濃度とか、いろいろあるの?」

「実験のときに、溶液を体積ではかるのか、質量ではかるのか、どれが使いやすいかで実際はつかいわけてるんじゃない?」

「そう考えることもできるんだ」

「多分ね」


 三人で教えあうというより、すずかと綾がももかに質問する感じになってしまった。

 綾が感心して言う。

「ももか、学校来てないのにこんなにできるんなんて、すごいね。学校来たらもっとすごいのかな」

「そんなことないよ。だってネットで授業出てるし。いつもカメラセットしてるの綾でしょう。いつもありがと」

「え、なんで私がセットしてるの知ってるの?」

「だって、ログインするとたいてい綾の顔がドアップで映ってるよ」

「なにそれ!」

 三人で爆笑した。

 

 笑うというのは案外疲れるもので、笑いがとまったころ、ももかはぐったりしてしまった。

 

 すずかが心配する。

「綾、あんまり笑わせると、ももか死んじゃう」

 ももかはまたも笑ってしまった。

 

 疲れたももかを見て、すずかと綾は帰ることにした。

「笑わせすぎてごめんね。また明日ね」

 二人はそう言って帰っていった。

 

 ももか、いい友達だな。

『うん、ほんといい友達』

 また一緒に勉強できるといいな。

『綾、部活忙しいんだよね』

 だろうな。あの日焼け具合だと。

『でもさ、勉強できる人、スポーツできる人、色んな人と友達でいたい』

 俺もそのほうがいいと思う。

 

 ももかは体は疲れたが、心は元気になったようだ。

 これなら来週も大丈夫だろう。

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