第27話 元気をもらう
日曜日お昼すぎ、すずかと綾がやってきた。すずかは何回も会っているが、綾はネット越しでしか会ったことがない。綾は短い髪を両サイドにまとめていて、よく日焼けしている。グリーンのパーカーにジーンズと、スポーティーなファッションだ。くらべてすずかは、ベージュ系でまとめられている。ブラウスに大きな格子縞のセーター、ふわっとしたベージュのパンツと大人っぽい。やっぱり性格がファッションに現れるようだ。
『ふたりともかわいいよね』
うん、そうだがももかが一番可愛いんじゃないか?
『やめてよ、恥ずかしい』
「ももか、なんで顔あかくしてるの?」
綾が不思議そうに聞いてくる。
「ひさしぶりに二人に会えてうれしくて」
三人でハグした。
とりあえず部屋に来てもらう。ひとやすみしてもらうのだ。
「私、ももかの部屋、初めて」
綾は喜んでキョロキョロしている。
「ねぇ、こんなのあった?」
すずかが初聲クミのフィギュアを指差す。
「それね、コウイチの遺品」
「そっか、コウイチ先生、オタクだったもんね」
オタクで悪いか?
ももかが言う。
「オタクだったと思う。でもね、コウイチが大事にしていたものは、私も大事にしたい」
すずかは、
「そうだね、大事にしてあげてよ。このベースとかもそうなんでしょ」
すずかの言うベースは、俺が初めて買ったエレキベースだ。これが手元にあるのはとても嬉しい。
綾が聞いてくる。
「コウイチ先生って、どういう人だったの?」
ももかが答える。
「なんでも知ってて、時々怖くて、なんか変な人!」
おい、変な人か。
すずかが言う。
「でも、大好きだったよ」
ももかも、
「大好きだよ」
おい、やめろ。
部屋でお菓子とジュースを飲んだあと、三人で公園に行く。もちろん途中でラムネを買う。
綾が言う。
「ラムネって、ブドウ糖なんだ。大会のときに良さそう」
「そうだね、大会に持ってってよ」
公園では、いつものおじさんたちがカワセミを待っていた。
「こんにちは!」
「ああ、お嬢ちゃん、こんにちは。今日はお友達も一緒かい?」
「うん、カワセミまだ?」
「今日はまだだね」
「おじさん、この子達に、写真見せてあげてくれない?」
「おう、いいともさ」
おじさんがアルバムを開いて、カワセミの写真をみせてくれる。あんな小さな鳥が、大きく写っていて、とてもかわいい。
すずかが質問する。
「あの、こっちの鳥って、少し色がくすんでいるような気がするんですけど」
おじさんが答える。
「ああ、これはメスだよ。鳥はね、オスのほうが色がきれいなのが多いんだよ」
「そうなんですか」
「人間とは逆だな、ハハハハハハ」
そのうち、カワセミが飛んできた。「静かにしてね」と言おうかと思ったが、すずかも綾も言葉を失って、カワセミに見入っている。
おじさんたちも含め、みんな無言でカワセミを見ていたが、そのうちまた、カワセミは飛んでいってしまった。
ももかが、すずかと綾に言う。
「すずか、綾、来てくれてありがとう。ふたりに元気もらったよ」
「「うん」」
「私ね、まだ学校に行けないけど、おじさんたちとカワセミに元気をもらってるんだ」
すずかが言う。
「私もね、ももかに元気をもらってるよ。だから早く学校にもどってきてね」
綾も言う。
「そうだぞ、カメラに話しかけるの、いつの間にか慣れちゃった。でも生のももかのほうがずっといいよ」
おじさんが口を挟んできた。
「俺たちは寂しくなっちゃうけど、学校早く戻れるといいな」
「ありがとう、休みの日は来るよ」
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