第29話 復活

 2月の中旬になると中学受験、高校受験も終わって、私立の学校も通常モードにもどる。このタイミングでももかは通学を再開することにした。退院以来一ヶ月以上、体力づくりに専心してきた。バスから降りて、駅の階段をのぼる。どんどん追い越される。


『コウイチ、久しぶりの電車、ちょっと怖い』

 気持ちはわかるよ。なるべく空いてるところに乗ろう。

『時間かかっちゃうかな』

 そのために早く家を出たんだろう。だいじょうぶだよ。最悪遅刻してもいいと思うぞ。

『うん』


 電車がやってきた。本来の時間よりも30分も早く家を出たから、電車は座れないまでも、満員ではなくホッとする。早く来たので、同じ制服の生徒はいない。

 電車にゆられていると、それなりに体力が奪われていく。やっと学校の最寄り駅に着いた。

 

 ももか、ベンチに座ろう。

『ええ? 恥ずかしいよ』

 でも、駅から学校まで登り坂だろ。少し休んだほうが良くないか?

『それもそうか』

 自販機でなんか買おうぜ。ちょっとだけ頑張れ。

『なにがいいかな?』

 好きにしろよ。

『ココアでいい?』

 いいんじゃん。

 

 ベンチでココアをすすり、体力の回復をまつ。お尻が冷たい。

 

 やっぱこの時間で正解だよ。休み休みいけるな。

『うん、正解』


 そうして休んでいたら、声をかけられた。

「あれ、ももかじゃん」

 綾だった。

「おはよう、綾。朝練?」

「そう、朝練。なにしてんの?」

「ここまでで疲れちゃったから、ちょっと休憩中」

「なら、私も休憩!」

「朝練いいの?」

「うん、さぼる。ももかの付き添いの方が大事」

「ごめん」

「謝らないで。その分、あとで勉強教えてね!」

 綾はスマホを出して、なにかしている。

「先輩に、朝練出れないって送ったからもうだいじょうぶ」

「ごめん」

「だから、謝らないで」

「ありがと」


 5分くらい休んだ。

「綾、ありがと。そろそろ移動する」

「了解」

 綾はいきなり、ももかのカバンをひったくった。

「持ってあげる」

「ありがと」


 綾はとことんいいやつで、学校の坂道でももかの足が止まると、後ろから押してくれたりした。それも楽しそうに押してくれる。だから遠慮もいらない。

 

 綾のおかげで、教室には思ったよりもかなり早く着けた。

「ちょっとでも朝練出てくる! あとでね!」

 綾はそう言って、教室を飛び出して行った。

 

 ポツポツとクラスメート達が登校してくる。みんなももかを歓迎してくれる。俺まで嬉しくなる。もちろんすずかもいた。

 

 昼休み、すずかと綾に囲まれ、三人でお弁当を食べる。伯母さんが作ってくれたももかのお弁当は、男の俺からすると物足りない。しかし、ブロコッリーとか、ケチャップの付いた小さなコロッケとか、目に楽しいものだ。すずかや綾のお弁当も似たようなものだが、綾の弁当箱はかなり大きい。

 すずかが言う。

「いつも思うんだけどさ、綾のお弁当、大きいよね」

 それに対する綾の答えは、

「運動部だもん、しかたないよ」

とのことだった。それもそうだろう。ももかは、

「それだけ食べて、そのスタイル、エネルギー相当使うんだね、部活って」

と言ってみた。綾は、

「食べても食べても、お腹減るんだよね。でもさ、こないだのブドウ糖とか、サラダチキンとか、まねしてるよ!」


 お昼を食べたら、綾が言い出した。

「朝の借りを返してもらう!」

 ももかは返事する。

「もしかして、勉強教えてほしいの?」

「うん!」

 ここで、すずかが口を挟んだ。

「5時間目の数学、宿題終わってないんでしょ?」

「正解!」

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