第22話 先生に相談
次の週の月曜日、病院だった。まずは藤沢先生に診察してもらう。
「ももかちゃん、体調はどう?」
「はい、体調はいいんですが、体力が無くて」
「まあ、いっときは寝たきりに近かったからね。正直なところ、奇跡に近いんだよ」
「それはわかっています。ですが、先生、相談があるんですが」
「なにかな?」
「私、将来医師とまではいかなくても、医療関係の仕事をしたいんです」
「それは素晴らしいことね」
「ですが今、学校の授業を家からオンラインで出るだけでいっぱいいっぱいで、とてもじゃないですが予習復習まで手がまわらないんです」
「それはそうでしょうね」
「体力をつけたいんです。散歩くらいしかまだできないんですが、勉強すると散歩する体力も残ってないんです」
「うん」
「で、先生、今の私は、勉強を優先すべきか、勉強を後回しにしても体力づくりを先にすべきか悩んでいるんです」
そこまで聞いて、藤沢先生はちょっとだけ考えた。
「ももかちゃん、どうしても医療に携わりたい?」
「はい」
「だったらまず、体力だよ。ぶっちゃけ勉強はあとからでもできる。最悪浪人したっていい」
「そうですか」
「私も浪人したんだよ」
「そうなんですか、意外です」
「よくあることよ。とにかくまず、寝るときは寝る、食べるものは食べる。健康になりなさい。勉強はそれからでもできるから」
「わかりました。体力づくりから始めます」
診察はそうして終わった。今日も藤沢先生は快活であった。
ももか、方針が決まってよかったな。
『うん、朝いつも通り起きて、授業前に散歩する。できたら体育の時間も散歩する。夜勉強するかは、残りの体力次第』
それでいいと思うよ。
そのあと検査のため採血され、MRIもやった。終わった頃はもう昼である。
ももかは、付き添いの伯母さんに言った。
「ママ、いつも付き添ってくれてありがと。私のために、いろんなこと我慢してるんでしょ」
「そんなことないわ。私の人生で、ももかが一番大事」
「ありがと。でも早く良くなる。だからお昼食べよ」
「病院の食堂でいい?」
「うん、移動はつらいから、そうする」
病院の食堂はセルフサービスなのだが、伯母さんがすべて持ってきてくれた。
「ママ、ごめんね」
「ううん、少しずつ体力つけていけばいいから」
ナポリタンは好物なのだが、なかなか食が進まない。
「ももか、残してもいいからね」
そう伯母さんは言ってくれるが、ももかは、
「うん、できれば全部食べたい。これが私の力になる」
「ゆっくりでいいよ」
「ありがと」
サラダも食えよ。おんなじ味ばっかりだと、つらいだろ。
『ほんとだ、サラダ食べると、口の中がさっぱりする』
かなり時間がかかってしまったが、なんとかももかはすべて食べることができた。
「ママ、わがままなんだけど、ナースセンター行ってもいいかな?」
「いいけど、ご挨拶?」
「うん、いっぱいお世話になったから。良くなってる私の姿を見て欲しい」
「だったらすぐにはいかないで、ちょっと休んでからにしなさい。今のももか、結構ぐったりしてるよ」
「そうする」
「ジュースでも飲む?」
「ピーチがいい」
ももだけにな。
一休みしてから、エレベーターに乗って病棟のナースセンターに行く。
『なんか帰ってきたみたい』
帰ってきちゃだめだろう。
『そうだね』
顔見知りの看護師さんたちに挨拶する。忙しそうであるが、みな笑顔である。仕事のじゃまにならないよう、すぐにお暇する。
看護師さんたちは、手を振ってくれた。
『土佐さん、いなかったね』
夜勤だろう。
『コウイチ、残念だったね』
うむ。
『ホント、コウイチ美人好きだよね』
男はそんなもんだ。
『コウイチは私だけ見てればいいの!』
ハイハイ。
その日は体力を使い果たし、タクシーで帰宅した。夜、ちょっとだけだが勉強した。
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