第20話 おうちで学校
伯母さんが迎えに来たのは、三人が泣き止んだあとだった。
『泣いてるところでママが来てたら、ヤバかったね』
そうだな。だけど、伯父さん伯母さんには早く相談しないとだぞ。
『うん』
すずかが家まで付いてきてくれた。伯母さんが上がっていけとすすめたが、すずかは、
「ももかを早く寝かせてあげてください」
と言って帰っていった。ありがたい配慮だが、ちょっと寂しい。
『コウイチ、すずか気に入ってるね』
悪いか?
『ううん』
ももかはやっぱり疲れているのか、俺への文句も力がない。
部屋に入ってすぐに寝込んでしまった。
気がついたら、伯母さんの顔が間近にあった。
「ももか起きたのね。夕ご飯食べれる?」
「うん、食べる」
「こっちで食べる?」
「ううん、下で食べる」
「じゃ、来れるようになったら来て。それまでパパもママも待ってるわ。一緒に食べよ」
「ありがと」
起き上がると制服だった。ももかはそのまま下へ降りようとする。
さすがに着替えたほうがよくないか?
『見ないでよね』
はいはい。
悪態をつく元気はもどってきたようだ。
夕食はロールキャベツだった。キャベツは柔らかく煮てあり、消化によさそうである。酸味が胃にしみる。
「ママ、おいしい」
「よかったわ、今日疲れたでしょう。ももかの好きなロールキャベツにしたの」
「ありがとう。ほんとおいしい」
「で、どうだった?」
「うん、パパ、疲れた。明日からは、ネットで授業に出ることになった」
「そうだろうな、そうなると思ってた」
食卓は明るかったのだが、ももかは言いにくいことを言わなければならない。
「パパ、ママ、私、理系に変えていいかな?」
伯父さんは強烈に驚いたようで、すぐに聞いてきた。
「ももか、なんでだ? 文系だっただろ」
「うん、そうなんだけど、私、医療関係に進みたい」
「勉強大変だぞ」
伯父さんはそう言ったきり黙り込んでしまった。伯母さんも言葉を失っている。猛烈に食卓の雰囲気が悪くなり、せっかくのロールキャベツの味もわからなくなってしまった。
「ごちそうさま、もう寝る」
ももかはそう言って、食卓から立ち、階段を登り、部屋に帰った。
ももか、がんばったな。
『コウイチは評価してくれるんだ、ありがと』
脳内に同居してるんだ、勇気を振り絞ったのはよくわかる。ほんとよくがんばった。
『でも、わかってくれなかったみたい』
あれな、伯父さん、怒鳴りたいくらい怒ってたぞ。
『そうなの?』
俺子供の頃、怒られたことあるからな。あの顔はヤバい。
『でも怒鳴んなかったね』
伯父さんは心配で心配で、起こりたかったんだと思う。でも、ももかの気持ちも考えて我慢してるように見えた。
『そうなんだ』
伯母さんも、そんな感じだ。
ベッドでそんな会話をしていたら、ももかの意識が途切れた。俺も強制シャットダウンとなった。
翌朝は七時に起きた。病気になる前起きていた時間だ。ももかは規則正しい生活を送りたいらしい。
「パパ、ママ、おはよ」
「おう、おはよう。寝てなくて大丈夫なのか」
「うん、まず起きる時間はちゃんとする。無理だったら途中で寝る」
「まず、体力だぞ」
『パパはまだ納得してないね』
だろうな。単純に、ももかが心配なだけだけどな。
『だったら、体力つけて、行動で示すしか無いか』
その通り。
朝食を食べて、体調を確認し、勉強を始める。今日は日本史の教科書を読む。
ホームルームの時間のちょっと前に、パソコンをつけ、ログインする。
パソコンの画面に教室が映るかと思ったら、綾の顔がドアップで映った。
「先生、これでいいのかな?」
などという声が聞こえるが、ももかは大声で笑ってしまった。
「お、笑ってる声がする!」
綾が反応する。田嶋先生は、
「声が聞こえるということは、川口さんがログインしたということね。赤城さん、ありがとう」
と言って、朝のホームルームを始めた。
授業に出る。出るが結構眠い。ももかは頑張って眠気と戦っている。
三時間目は体育なので、さすがにここは寝かせてもらった。
四時間目は元気が出て、しっかり授業を聞けた。
お昼になった。画面にすずかと綾が映る。
「一緒に食べよ」
と言ってくるので、伯母さんにたのんで昼食を部屋に持ってきてもらう。
画面には綾とすずかのお弁当が映り込んでいる。
「綾、相変わらずお弁当大きいね」
ももかが声をかけると、
「これでもお腹すくんだよね~」
と、綾の声が返ってきた。
「これで太らないんだから、うらやましいよね」
すずかの声も聞こえる。
そんな感じで五時間目、六位時間目もがんばった。
ホームルームが終わったところで、画面いっぱいに田嶋先生が映り、手を振ってきた。
「じゃ、またあしたね」
ももかも手を振った。
ももかは疲れ果ててしまい、ベッドにもぐった。
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