第18話 久しぶりの学校
始業式の日、かなり早起きして七時すぎに伯父さんの車で学校に向かう。伯父さんによると、通勤時間帯なので道がどれくらい混むかわからないので、かなり余裕を見ているらしい。1月はじめなので、車内はかなり寒い。助手席に座ったのだが、横を向いて窓に息を吹きかけると白く曇ってしまう。
通りには、足早に歩く人がいる。制服を着た高校生・中学生はほぼいないが、通勤客らしい人が結構いた。
『街って、こんな早くから動き始めるんだね』
しばらく、病院か家かで見てなかったから、新鮮だろ。
『うん、新鮮。何年かしたら私もこうやって通勤するんだね』
その前に大学あるだろ。
『大学かぁ、私どこ行けるのかな』
まだ高一だ、まずはやりたいことを見つけなきゃな。
『うん』
「ももか、寒くないか?」
伯父さんが話しかけてきた。
「うん、車、だんだん温まってきたね」
「ああ、あとな、この混み具合だと、意外と早く着けそうだぞ」
「よかった。パパも遅刻しないですみそう?」
「ああ、多分大丈夫だ」
「遅刻したら、文句言われる?」
「いや、昨日事情を言ってあるから大丈夫。だいたいな、病み上がりの娘に付き添っていて遅刻して、文句言うような会社なら、やめてやる!」
「うん、やめちゃえやめちゃえ!」
伯父さんも、ももかも、楽しそうだ。
学校についた。早く着けたのでまだ通学の生徒がいない。守衛さんが歩いてきた。伯父さんが窓を開ける。
「おはようございます。高一の川口ももかです」
「おはようございます。お話は伺っています。来客用駐車場に駐車してください」
守衛さんはそう言って、学校内の地図と来客用のIDカードを渡してくれた。
「ありがとうございます」
伯父さんはお礼を言って、車を来客用駐車場へと回した。
駐車場に車を停めると、ちょうど来客用玄関から担任の田嶋玲子先生が出てきた。手回しのいいことである。昨日伯母さんが学校に電話していたからだろう。
「ももかちゃん、よかった~。退院おめでとう」
田嶋先生にハグされてしまった。俺は女性にハグされるのは慣れないし、だいたいこのあとももかの機嫌が悪くなるので、ハグは遠慮して欲しい。
『私がうれしいからいいの』
そうですか。
「何回も病院に来ていただきまして、ありがとうございました」
伯父さんはペコペコ頭を下げている。ただ、このあと仕事に行かなければならないので、ここでお別れだ。
「ももか、寒いから早く行きなさい。無理するなよ」
「うん、パパも気をつけてね」
とりあえず職員室に通された。応接セットに座らせられる。田嶋先生は、
「ちょっと待っててね」
と言って、パタパタと出ていった。
色々な先生が、
「ももかちゃん、久しぶり」
とか、
「川口さん、退院よかったね」
とか言ってくれる。どうやらももかは、学校では大事にされているらしい。
しばらくしたら、田嶋先生が戻ってきた。上履きをもっている。
「下駄箱からとってきた。あと、教室の暖房も入れといたから、すぐに温まると思う」
と言って、教室まで一緒に行ってくれた。
教室はまだ無人だった。
「みんな、もうすぐ来ると思うよ。みんな喜ぶと思うな」
田嶋先生はそう言って、職員室に戻って行った。
ももかは席に座り、久しぶりの机をなでている。学校に戻ってきたことがしみじみと嬉しいようだ。しかしそれにしても、尻が冷たい。
『尻じゃない、お尻』
ああ、ごめん。
『田嶋先生、美人でしょ』
うん、美人だな。ももかも何年かしたら、あんな感じになるのかな?
『なりたいな』
俺としては、ももかの機嫌が悪くなるのをうまく回避できて満足である。
そのうちクラスメートたちがやって来た。
最初に来た子は、
「ももかー!」
とだけ叫んで、ハグしながら泣いていた。もちろんももかも泣いていた。
つぎつぎとやってくる。全員ももかに抱きついてくる。ほとんどのクラスメートは泣いてしまう。ももかの涙も止まらない。
すずかもやってきた。すずかは事情が全てわかっているからか、ハグしてこなかった。でも、ずっとももかの横に立って、鼻をぐすぐすさせていた。
俺はJKのハグに麻痺し、ただの挨拶と感じるようになった。
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