第17話 学校へ

「脳内家庭教師って、なにそれ」

「冗談よ、冗談。病院でも勉強してたしね」

「ももか、英語もともと得意だもんね」

「まあね」


 なんとかごまかせた。


 あんまり危ないこと言うなよ。

『だいじょうぶ、だいじょうぶ』


「ももかさ、もう少しで冬休み終わりだけど、学校来れそう?」

「それなんだけどね、まだ少し歩くと疲れちゃって、学校の往復無理だと思う」

「そうなんだ」

 すずかはかなりがっかりしている。

「パパはね、自動車で送ってくれるって言ってくれるんだけど、それでも途中で保健室になっちゃうと思う」


 二人の会話は途切れてしまった。俺もかけるべき言葉がみつからない。

 

「ももか、ごめんね。余計なこと言っちゃった」

 しばらくして、すずかが口を開いた。

「そんなことないよ」

「私がさびしいだけで、ももかはもっとつらい思いしてたんだもんね。私、プリントとか持ってくるよ」

「ありがと。おねがい」

「まかせて!」


 俺は猛烈に感動していた。すずかがももかを励ましてくれる。友達が学校に来ないさびしさをがまんして。きっときっと、ももかの気持ちもよーくよーく考えに考えて、言葉を選んでいるに違いない。


『コウイチきもい』

 きもくない、すずか、ええこぉや~!

『それがきもい』


 ももかの機嫌が悪いので、ふと思いついたことに話題を変えた。

 

 おい、始業式くらい、行ったらどうだ? 授業なけりゃ、体力いらんだろ。


「私、始業式だけでも行ってみようかな。パパと相談してみる」

「ほんと? 通学付き合うよ」

「うん、ありがとう。多分、行きはパパかママについてきてもらえば大丈夫。帰りはお願いするかもしれない」

「無理しないでね」

「わかった」


 そのあと、その日は勉強にならず、学校の噂話で終わった。だれだれが彼氏を作ったっぽいとか、だれだれが髪型を変えたとか、そんな他愛のない話だ。女子の会話に脳内おっさんの俺がついていけるはずもなく、ほぼ虚無の状態である。

 そしてすずかは、元気に帰っていった。

 

 夕食時、ももかは伯父さんに頼んでみた。

「パパ、私、始業式行っちゃだめかな?」

「おいおい、大丈夫か? まだ公園まで散歩がやっとだろ?」

「うん、だけど、始業式の日は授業ないし、ほぼ行って帰ってくるだけだから」

「行きは俺が車で連れていけるけど、帰りどうする?」

「それね、すずかが付き添ってくれるって」

「あんまりすずかちゃんに甘えちゃいけないんじゃないか」

「そうなんだけど、甘えないのもいけないとおもうの」

 そう聞いて、伯父さんは言葉をつまらせた。

 伯母さんが口をはさむ。

「私、迎えに行くわ。場合によっては、すずかちゃんにお手伝いをお願いするっていうのでどう?」

「うん、そうするか。すずかちゃんのうちに、電話するよ」

 伯父さんはそう言って、早速電話をかけた。

 

 どうやらももかは始業式だけでも行けそうで、俺も嬉しかった。

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