第16話 脳内家庭教師

 正月が明け、すずかがやってきた。


「あけましておめでとう」

 玄関でお迎えすることができた。三賀日も体力づくりのための散歩は欠かさなかったから。

「おめでとー」

 すずかが抱きついてきた。

 ももかの喜びが、俺にもビンビンに伝わってくるのだが、JKに抱きつかれるのは初めてだ。いくら俺の肉体でないとはいえ、戸惑いを禁じえない。

『エッチ』

 慣れないだけだ。

『慣れちゃだめ』

 どうすりゃいいんだ。

『知らない』

 

 それでもももかは喜びのまま、すずかと抱き合っていた。

 

 二階のももかの部屋へ行く。

「ももか、飲み物後で持っていくね」

 伯母さんが後ろから声をかけてきた。

「そんなの自分でやるのにさ、お母さん過保護なんだ」

 ももかは照れくさそうに、すずかに言い訳する。

「退院したばっかりだからね。ありがたく思っとけば」

「うん、思ってる」


 ももかの部屋まで来て、すずかはダウンを脱ぐ。今日のすずかは、髪はおろしてストレート、パンダがゴロゴロしているグレーのセーターに、黒のショートパンツ、黒のストッキングである。ゴロゴロしているパンダは一匹ずつちがう姿勢で、楽しい柄だ。

 

『コウイチ、毎回すずかの服装、しっかり見てるよね』

 ああ、俺の数少ない楽しみだ。

『私じゃ、楽しめないんだ』

 パジャマか、スェットばっかりじゃん。

『病気だったから、仕方ないでしょ』

 これからに期待してるよ。

『期待して』

 でも、サプライズは期待できないんだよな。

『へ?』

 だって、これから新しいの買うとき、俺も自動的に見てるからな。

『コウイチの好みに合わせてあげるよ』

 俺のセンス、多分ヤバいぞ。

『知ってる』


「ももか、だまっちゃって、どうしたの」

「ごめん、すずかに見とれてた」

 嘘ではないな。

「勉強始めよ」

「うん」


 前回の勉強会で数学はかなりすすんだので、今日は英語。冬休みの宿題の長文だ。

「3行めのこの文がよくわかんないんだよね」

とすずかが言うので、ももかはその文をとりあえず音読してみた。その後で、

「えーっとね、こういう長い文は、まず動詞を探すんだよ」

と言った。それを聞いたすずかは、

「動詞はこれとこれかな?」

と言う。

「そうだね。一つの文で動詞が二つってことはないから、接続詞か関係詞があるはずだよ」

とももかが返す。


 俺は内心、ももかの英語の理解度に感心していた。

 

『やるでしょ』

 おう、意外と優秀だな。

『意外と、はいらなくない?』

 意外だろ。

 

 その間にすずかは読解をすすめ、大体読めたようだった。

「ねぇ、ももか、入院してたのに私より勉強進んでない?」

「そう?」

「そうだよ、今日も的確にポイント抑えてたし」

「ま、脳内家庭教師がいるからね」


 おいおい。

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