第14話 元旦

 年内にもう一度すずかは勉強しに来てくれた。そのほかは、勉強して、少し散歩して、昼寝して、音楽やってと、入院中と変わらない。規則正しい生活をすることが大事だからだ。

 伯母さんの食事はやはり美味しく、病院より食が進む。よいことである。

 

『こんなに食べて、太らないかな』

 大丈夫だろ。成長期だし。

『食っちゃ寝じゃん』

 昼寝にしろ、夜にしろ、寝付きはいい。あの運動で体に充分負荷がかかっているんだよ。それで食事制限したら、肉体が衰えるぞ。

『体重増えるんじゃない?』

 体力はある程度は筋肉量だ。筋肉が増えれば体重は増える。問題ない。

『……』

 いいから食え!

 

 そんなこんなで年が明けた。

 

「初詣行きたい」

 ももかは雑煮を食べながら、伯父さんに言った。

 伯父さんは聞いてくる。

「コウイチが最後に行った神社」

 

 あんなとこでいいのか?

『あそこがいい』


 もちろん伯父さんも、

「あんなとこでいいのか?」

と聞いてくる。

「あそこがいい」

 ももかの答えも同じである。

 納得していない伯父さん・伯母さんの顔を見てももかは、

「あの神社でね、コウイチは私のためにお祈りしてくれたんだと思う。証拠はないけど、命をかけてしてくれたんだと思う。神様はそれに答えてくれた。だから私はお礼を言いにいかなきゃいけない」

「だけど、コウイチさん、亡くなったのよ」

 伯母さんが口を挟んだ。ももかが反論する。

「考えようによれば、コウイチは、神社で寒い中無茶なお祈りして、勝手に死んで、神社に迷惑かけた。だけどコウイチの願いは叶えてくれた。私の病気は治った。やっぱりお礼は言いたい」


 伯父さんは少し考えていたが、やがて口を開いた。

「ももか、制服を着なさい。今日行くぞ。僕たちもしっかりとした服装で行こう」

 あとの言葉は、伯母さんに向けてだった。

 

 制服を着るのも久しぶりで、ちょっと時間がかかってしまった。リビングにもどると伯父さんはダークスーツに、濃い紺色のネクタイ。伯母さんも結婚式にもいけるようなスーツスタイルだが、アクセサリーは小さな真珠のブローチだけだ。普通の人からすればお祝いの日なので、こんな目的で詣でるのは良くないかもしれない。でも、ももかの気持ちを聞いた伯父さんは、一刻も早くお礼にお参りしたいのだろう。

 

「ももか、寒いから上にコート着なさい。カイロとすずかちゃんにいただいた手袋もしなさい」

 伯母さんは行くこと自体に反対ではないものの、ももかの体調を気遣っている。

 

 ちょっと電車に乗って、俺の家の方に向かう。席が一つだけ空いていて、伯父さんはすっと、ももかを座らせた。


 俺の家、どうなったのかな?

 

「パパ、コウイチの家どうなったの」

「まだ整理中らしい。2月いっぱいで立ち退きなので、それまでに遺品の整理をするそうだよ」

「パパ、私コウイチの家に行ってみたい」

「また今度な。なるべく近いうちがいいだろう」


 電車が俺の家最寄り駅についた。階段をおり、改札を出たら左。商店街を抜ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る