第13話 お勉強会

 家に帰って3日後、すずかがやってきた。

 

「すずか、いらっしゃい。玄関まで行けなくてごめんね」

「ううん、大丈夫。ていうか、もし来てもらったら、ももかゆーくりでしょどうせ。時間かかっちゃうよ」

「ひどくなーい?」

「「あはははは」」


 ももかの服装は、昨日まではパジャマであったが、流石に今日は着替えた。それでもいつでも横になれるよう、黒の上下トレーナーである。白のサイドラインが太めで、今風である。

 対してすずかは午前中学校の冬期講習だったそうで、制服である。紺のブレザー、赤とグレーのチェックのスカート、ワイシャツにネクタイである。

 

『すずか、かわいいね』

 うん、今日はポニーテールなのな。

『学校だと良くポニテだよ』

 タレ目がツリ目になるのな。

『そういうこと言わない』

 言ってない。思っただけ。でもかわいい。

『コウイチ、ツインテが好きだと思ってた』

 似合っていればなんでもいいんじゃない?

『それもそうだけど』


「ももか、なに黙っちゃって」

「すずか、かわいいなぁって」

 ごまかしてくれてありがとう。

『いや、厳然たる事実』

 事実だな。破壊力あるな。

 

「そんなことよりさ、今日、これやったんだよ」

 すずかはそう言って、数学のプリントを出した。ちょっと前に、ももかが勉強したところだ。

「単位円のとこね」

「ももか、よく知ってるね」

「こないだやった」

「このさ、180度から引く公式で、プラスマイナスわかんなくなっちゃうんだよね」

「それはね」

 ももかはそう言って、机においてある紙に半円を描き、公式を説明する。

「ももか、私よりわかってるじゃん」

「そう? 教科書に書いてあるよ」

「先生、教科書つかわないんだよね」

 俺の嫌いなやつだ。

 

 ももかは教科書を取り出して、今自分がした説明が書いてある部分を示す。

「ほんとだ。教科書通りだ」

「じゃ、練習問題解いてみよ」

 ももかはそう言って、プリントの練習問題をどんどん解いていく。

 すずかも負けじとどんどん解いていく。

 二人で解き終わったところで、答えを見比べる。


 うん、二人共全部あってる。

『あってるって、どう伝えたらいいかな』

 同じ答えなんだから、大丈夫だろうってことでいいんじゃない?

 

「同じ答えがでてるんだから、大丈夫じゃない?」

「そうか、でも、二人共おなじ勘違いで間違えるってこともありうるんじゃない?」


 すずか、慎重だな。

『むかしから慎重だよね。そこがすずかのいいところのひとつ』

 同感だ。

『どうしよう』

 このプリントは基礎レベルだから、そんなひっかけは無い、とでもしとけば?

 

「このプリントさ、基礎レベルじゃん。そんなひっかけは無いよ、多分」

「なるほどね」


「ど~お、すすんでる~?」

 ここで伯母さんが紅茶にケーキを持ってきた。


「おばさん、ありがとうございます」

「じゃまじゃなかった?」

「いいえ、全然。ていうか、ケーキを邪魔にする女子って、いるんですかね」

「私も含めて、いないと思うよ」

 伯母さんはそう言って、出ていった。

 

 ももかもすずかも、ケーキをすぐ食べそうになっているので、俺は待ったをかける。

 

 おい、これめちゃくちゃうまいやつだ。落ち着いて食え。もったいない。

 

「ねぇ、すずか、これめちゃくちゃおいしそうじゃん。落ち着いて食べよう」

「そうだね、なんか高そうだし。ゆっくりたべよう」


 まず呼吸を落ち着けろ。一口目の香りがポイントだ。

 

「「では、いただきます」」


 まずはケーキにフォークを入れ、食べやすい大きさに切る。

 外見は暗い茶色のモンブランなのだが、断面は白い生クリームがつまっている。いわゆるモンブランの茶色いクリームは表層だけだ。すずかが目を見張っている。

 つづけて口に含む。

 喉の奥から鼻へと、経験の無いよい香りが突き抜ける。

 見開かれたすずかの目が、さらに開いた。

 

「なにこれ、こんなの食べたこと無い」

 すずかはそう言って、おどろく。ももかも

「生きててよかった」

 などと言っている。

 

 パリのルーブル美術館の裏にある店のだな。オリジナルのモンブランだ。

『コウイチ、よく知ってるね』

 家族旅行で行ったからな。あっちで食べたときはもっとうまかった。多分、気候のちがいせいだろう。

『なにそれ、ずるい』

 将来、旅行して自分で食えよ。


 そんな脳内会話をしていると、ケーキの台紙からスマホで検索していたすずかが同じ結論に達した。

 

 そらな。

 

 ももかの中でドヤるが、さすがにドヤ顔ができない。転生して初めて悔しく感じた。

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