第12話 クリスマス・プレゼント

 家族みんなで病室に帰る。廊下で看護師の土佐さんとすれ違ったが、笑顔だった。

 

『コウイチ、土佐さん好み?』

 ももか、ふきげんだな。

『エッチな目で見ないでよね』

 ちがうよ、あの土佐さんの笑顔、いつもとちがうだろ?

『そうかも』

 きっとももかの退院を知ってての笑顔だよ。

『そう?』

 立場上、守秘義務ってのがあるだろ?

『そうか』

 

 病室にもどると、伯母さんが言い出した。

「ももか、退院は、先生からのクリスマス・プレゼントだね」

「うん、そう思う」

「そうと決まると、片付けないとな」

 伯父さんは、さっそく片付けモードで病室を見回す。

「大したものはないけど、コウイチのパソコンとかキーボードとか、いれるカバンをおねがい」

「明日の朝でいいかな」

「結局、朝、パッパといれるしかないわね」

 なんとなく全員、今夜のうちの片付けを諦めてしまった。

 

「メリークリスマス!」

 日が暮れる頃、すずかが病室にやってきた。

「メリークリスマス!」

 ももかも元気に返す。

「ももか、これ」

 すずかはキラキラと光る袋がリボンでまとめられたものを渡してきた。

「あ、ありがとう。でも、私なにも用意してない」

「はは、たいしたものじゃないよ。ま、来年倍にして返して」

「ん、わかった。開けていい?」

「うん」


 わくわくしながらリボンを解くと、毛糸の手袋が出てきた。薄い茶色に赤で雪模様である。

「ありがとう、ちょうど手袋欲しかった!」

「やっぱり? ももか体力づくりに散歩してたでしょ。もう手が冷たいかなってね」

「うん」

「退院するんでしょ。退院しても使ってね」

「うん、散歩して体力つける」


 早速つけてみる。とてもあたたかい。

「あったかい。手、汗かきそう」

 

 ももか、これ一応登山用だ。

『ほんとに?』

 ああ、完全な冬山なら無理だが、冬の低山なら大丈夫だ。メーカーも一流だよ。

『もしかしてすずか、結構探したのかな?』

 多分。

 

「すずか、ほんとにありがとう」

 ももかは頬ずりしながら礼を言った。

 それに対しすずかは言う。

「それよりさ、勉強会するよね?」

「勉強会?」

「そう、数学」

「ああ、数学勉強しなきゃね」

「こんどさ、ももかの家行くよ。それで勉強しよ」

「うん、体力ついたら、すずかの家も行く」

 うん、それがいい。

 

 翌日、予定通り退院した。荷物はやっぱり多く、タクシーのトランクを開けてもらった。

『なんかちょっと、離れがたいな』

 そんなものなのか。

『そんなものなのです』

 なぜ丁寧語?

 

 タクシーから自宅までの道道、風景を見るにつれ、家が近づくのがわかる。

 着いた。


『ちょっと中入るの怖いな』

 だいじょうぶだよ。

 

 ゆっくりとももかは足を進める。

 ドアは伯母さんが開けてくれた。

 中に入る。

 

『なんにもかわってない。良かった』

 そうだよ。ももかの家だよ。

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