第7話 親友と会う

『コウイチ、どう言えばいいかわかんない』

 俺もわからん、ごく軽く、今度遊びに来て、とかでいいんじゃない?

『……』

『……』

『そうする』

 まんまかよ。

 

 ももかはSNSですずかにそのまんま、送った。

 

 夕食はいつものうすーい味であり、俺のあまり好きでない煮魚だ。

『私は好きだよ』

 遠慮せず、楽しんでくれ。俺はスコーンを楽しみに待ってる。

『あれは私の』

 自動的に俺のだ。

 

 ももかの美味しいと思う気持ち、俺の苦手にする気持ちが謎のミックスの状態で夕食を食べていると、伯父さんがやってきた。

『ごめん、遅くなった。もう食べてたか』

「うん、パパ、それ何?」

「コウイチの家から取ってきたキーボードだよ。ついでに音楽関係の本も、適当に持ってきた」

「パパナイス!」

 ついでにミクのフィギュアも持ってきてくれたら完璧なんだけど。

『コウイチきもい』

 使い方教えてやんないぞ。

『コウイチ最高』

 現金やな。

 

 伯父さんは元気だった。ももかが何かをやりたそうにしているのが、親として嬉しいのだろう。俺も嬉しい。

 

「ママは?」

「残業だってさ、パパより働いてるかもね」

「私もママみたいになれるかな」

「おう、なれるよ」

 俺もなれると思う。

 

「パパ、今日ね、この部屋から私三回も出たんだよ」

「へぇ」

「午前MRI、あと売店行って、夕方カフェも行った」

「そうかそうか」

「そんなに歩き回ったのに、お昼寝してないんだ」

「元気になってきたんだったら、パパは言うこと無いよ。ママにも言っとく」

「うん」


 伯父さんはしばらく会話して、帰って行った。

 一人になると、個室の病室はとても寂しい。一人暮らしの俺でも寂しいのだから、ももかはどんなにさびしいだろう。

『寂しくなんて無いよ』

 そうか。

『だって今、二人だもん』

 そうだな。

 

 スマホが光った。すずかである。日曜に来るそうだ。

 

 日曜午後、すずかは病室にやってきた。手にダウンを持ち、セーターにフレアパンツとなかなかにおしゃれである。制服姿しか高校生のすずかをみたことがなかったので、ちょっと衝撃をうけた。

『コウイチ、エロい』

 いやいや、美しいものをみたらいかんかね?

『エロ禁止』

 エロ要素なくない?

 

「ももか、元気だった?」

「うん、元気。最近、病院の中、歩きまわってる」

「ちょっと前だと、考えられなかったね」

「ホント、そう」

「こないだ検査したらね、画像になんにも写ってなかったんだって。おかげで再検査」

「なにそれ?」


 そこで会話が停まってしまった。すずかは、なにか考えることがあるのだろう。

 

 しばらくして、すずかが口を開いた。

「あのね、とてもいいにくいんだけどね、コウイチ先生のおかげだと思う」

「へ?」

「コウイチ先生、神社で発見されたじゃん。ももかのこと、お祈りしてたんだと思う」

「……」

「あの日ね、昼間病院で私コウイチ先生とあって、そのあとカフェ行ったんだ。先生奢ってくれたんだけど、財布お金いっぱいあったよ」

「……」

「発見されたとき、お財布空だったっていうじゃん、コウイチ先生、全部お賽銭にして、お祈りしてたんだと思う」

 ももかは声を出せなかった。出せないが、目から涙が溢れた。俺の涙でもある。すずかは、俺を理解してくれている。

 

 しばらく、二人というか三人で泣いた。

 

「すずか、コウイチは死んじゃったけど、私の中で生きてる」

 この人、何言い出すの?

「うん」

 すずかは、わかっているんだろうか?

「コウイチはね、私のために命がけで祈ってくれた。だから私はコウイチの分まで、幸せになる」

「うん」

「だからさ、すずか、もうコウイチのために悲しまないで」

「うん」


 またしばらく泣いてしまった。

 

 泣くだけ泣くと、意外に気分は落ち着くものである。

「すずか、今学校で何勉強してるの」

「三角比とかいって、わけわかんない」

 俺の得意分野ではないか。

「すずか、家から遠くて悪いんだけどさ、ここで勉強しない?」

「いいけど、なんで?」

「わたし、かならず学校にもどる。だから、勉強遅れたくない」

「わかった。来週、勉強道具持ってくる」

「コウイチ理系じゃん、幽霊なって応援してくれてるよ」

 

 幽霊、がんばる。

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