第6話 検査の結果

 女性医師は、名札によると藤沢京子先生だ。

「午前のMRIだけど、ごめん、もう一回検査させてくれないかな」

「どういうことですか」

 ももかの不安が、俺にもダイレクトに伝わってくる。俺も不安で、ももかの口をのっとった。

「午前の結果、なにか写っていたんですか?」

「いや、そうじゃないのよ」

「じゃ、検査失敗ということですか?」

「失敗じゃあないのよ、ちゃんと画像は写ってた」

「じゃあ、なんでですか」

「ももかちゃんだから、はっきり言うわ。何も写ってなかったのよ」

「やっぱり失敗じゃないですか」

「ううん、これ見てよ」

 藤沢先生は、大きな封筒からプリントアウトされた頭部の画像をパソコンの横に置いた。

「これね、今朝撮った、あなたの頭部」

「はい」

「ももかちゃん、最近、かなり頭痛を訴えていたでしょ。いままでの経緯から考えて、頭部になにかあるとふんだからこそ、MRIやったのよ」

「はい」

「でもね、この画像、どこにも異常がないのよ。健康そのもの」

「はい」

「しかもね、あなた、ここのところ体調いいでしょ。病院の中歩きまわったり」

「すみません」

「悪いことではないのよ。でも、一ヶ月前はたいへんだったでしょ。だから、医師としては納得がいかないのよ」

「両親はなんと言っていますか」

「さっき電話で話したけど、ももかちゃんがいいなら、検査していいって仰ってたわ」

「今朝と同じ検査ですか」

「基本そうだけど、丁寧にやりたい」

「ちょっと大変ですね」

「ほんとごめん、お願い!」

「わかりました」


 藤沢先生はももかの了解をとると、ほっとしたように病室から出ていった。

 

 藤沢先生、いい人だな。

『なんで? 惚れた』

 あほか、未成年のももかにもうそをいわないでちゃんと説明したじゃん。

『藤沢先生、いつもあんなだよ』

 そうか、いい先生でよかったな。

『それはまちがいない』


 眠いか?

『ううん、全然』

 少し散歩しようぜ。

『なんで』

 今日運動してないだろ、多分お菓子食べ過ぎだ。

『わかった カフェ行こう』

 食うなよ。

『飲むだけ』


 ももかの入院している病院は大きくて新しい。一階にはシアトル系カフェが入っている。俺はももかの面会後に何回か言ったことがあるが、ももかは初めてらしい。

『どれがいいかな』

 メニューを見れば、俺が死んだ日すずかと駅前で飲んだクリスマス限定のドリンクがある。あれはうまかった。

『何、すずかと飲んだんだ』

 うむ、流れ的にな。

『……』

 おい、思考読むなよ。暗いぞ。

『コウイチが考えること、自動的に全部わかるんだからしかたないじゃん』

 そうだな、でも、あれうまいぞ。多分。

『多分って?』

 あの日は、味なんてわかる状態じゃなかった。

『今は』

 味わえる。

『じゃ、頼もうか』

 おう。

 

 ところがである。今俺の視界の中心はドリンクでなく、スコーンである。スコーンにロックオンである。

 

 ももか、食いたいなら買えよ。夜食にどうだ。

『ヤッター!』

 店内は混んでいたので、ドリンクともどもテイクアウトし、病室で味わうことにした。

 

 病室のベッドに腰掛け、ドリンクをすする。ナッツの味が効いていてうまい。

『これ、おいしいね』

 うん。

『すずか、味わかったかな?』

 どうだろう。そういえば最近、すずか来てないな。

『これないんじゃない? コウイチのことショックで』

 会いたいか?

『うん』

 じゃ、連絡しろよ。

『いいのかな?』

 いい、わるいじゃない、ももかが会いたいかどうかだ。

『コウイチが会いたいんじゃないの?』

 どちらかといえば会いたいかな?

『ロリコン!』

 ロリコンは塾講師無理。

『もう塾講師じゃないから解禁?』

 だからロリコンじゃないって。

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