第4話 検査の日

 目が覚めた。病院のこの天井もいい加減見慣れてきた。カーテン越しの外は暗い。ぼーっとしていると少しずつ明るくなってくるのがわかる。ベッド横の小さな棚に置かれた腕時計に目をやる。

『もうこの時間なのにこんなに暗いんだね』

 もう冬だからな。

『病院にいると季節感無いから』

 快適っちゃー快適だからな。

『うん』

 今日外出てみるか?

『うん』

 元気ないな、体力に自信ないからか? いけるとこまででいいじゃん・

『今日、MRIだから』

 ああ、あれか

『あの機械、嫌い』

 怖いか?

『……』

 俺相手に、恥ずかしがってもしょうがないぞ。

『あのゴンゴン言うのがね、苦手。時間かかるし』

 そうか。

 

 確かに以前、腰を痛めたときMRIをやったが、機械の中に入ってしまう感じで怖い人は怖いだろう。しかしももかのこの感じは、それだけではなさそうだ。

 

『あのね、はっきりするのが怖いんだよ』

 はっきりって、なにが?

『病気のこと』


 そう言われて俺はこまってしまった。ももかに隠し事はできない。大人として頭部に腫瘍が見つかってしまったら、その意味はわかる。ふと「死ぬときはいっしょだ」とか考えてしまったが、そんな軽率なこと言えるわけがない。

 

『伝わってるよ』

 やっぱりしごとはできないな。

 もうこうなったらヤケだ。

 そんときゃ、すずかのとこにでも転生するか。

『なにそれ』

 俺最高だよ。両手にJK二人、両手に花だよ。

『サイテー』


 最低認定されてしまったが、ももかの心が明るくなったのはわかった。

 

 いつもなら検温のあと朝食であるが、今日は検査のため抜きである。ももかの空腹感はダイレクトに俺にも伝わり、それなりにつらい。検査は十時だからだそうだ。

 腹減った。

『もう、考えないようにしてるんだから、やめてよ』

 ごめん。そうだ、検査の後は、自由に食べられるの?

『うん』

 そうか、なにか売店でおいしいもの食べようぜ。

『うん!』


 MRIの検査は、退屈だった。機械の中に吸い込まれ、ゴンゴン大きな音を聞いているのは結構不安になる。うごくといけないので、じっとしているのもそれなりに苦痛だ。

 ももか、いつもこんなのをがまんしてたのか。

『うん、なかなか慣れないね』

 慣れたくはないよな。

『はやく終わればいいけど』

 そうだね。

 

 いつの間にか寝てしまっていて、気がついたら検査が終わっていた。病室に帰り、昼食を食べる。

 味薄いなー。

『今日もそれ?』

 なかなか慣れないよ。塩気がほしい。

『早死するよ、ごめん、もう死んでた』

 ああ、気にしてない。

『ほんとごめん。で、このあとなに食べる?』

 チー鱈食べたい。

『それつまみじゃない?』

 嫌?

『別にいいけど、お酒は飲めないよ』

 俺、べつにそんなに酒好きじゃないよ。

『けっこうよく飲んでるイメージだったけど』

 ストレスだな。

『そうなんだ』

 今、ストレスない。案外のびのびしてるよ。

『チー鱈あるといいね』

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