第3話 パソコンを手に入れる

 入院生活は、基本ひまである。

 朝起きて、検温して、朝食食べて、寝て、昼食食べて、ヒマして、夕食食べて、寝る。なので、ももかの頭の中で、俺とももかで会話して過ごす。

 なんで、こんな生活できるんだ?

『入院してるんだもの、なにかしたらすぐぐったりしちゃう』

 いま、ぐったりしてないじゃん。

『コウイチが来てから、なんだか調子がいいんだよね』

 じゃ、ちょっと散歩でもしてみるか。

 

 昼食後、ちょっと立ち上がってみる。点滴が邪魔である。

 点滴のスタンドを押しながら、廊下に出てみる。

 

『廊下にでるの、久しぶり』

 そうか、よかったな。とりあえず、どこ行こか?

『売店かな』

 売店どこだ?

『知らない』

 とりあえず歩いてりゃわかるか。

『そうね』


 十歩くらい歩いたところで、疲れ果てた。

 

 おまえ、体力ないのな。

『ずっと入院してるからね』

 ごめん、すこしずつ歩いて体力つけよう。

『うん』


 病室に帰ってすぐに寝てしまった。

 

 目が覚めたら、伯父が病室に来ていた。すずかも来ている。

「ももか、お前の言ってたコウイチのパソコン持ってきたよ」

 やったー!

「やったー!」

 受け取ると、たしかに使い慣れた俺のパソコンである。

 ももかがすぐにパソコンを開こうとしたが、俺は精神力でそれを押し留めた。

 おっさんのパソコンには、女の子にみせられないものもあるんだよ。

『コウイチ、エッチ』

 すまん。せめて

 伯父さんが帰るまでまってくれ。

「ももか、それパスワードかかっているぞ」

 あぶねー、伯父さんは電源を入れてみたらしい。

「時間かけて、やってみる」

 俺はももかの意識を乗っ取って、そう言った。

『私、早く使ってみたいー』

 ももかは不満そうだが、今は危険だ。とにかく待ってくれ。

 

「ももか、夜更かししないでよく休めよ」

「うん、パパ。またねぇ」

 午後八時をまわり、やっと伯父は帰ってくれた。

 ドアがしまったところで、ももかはパソコンを開いた。

『パスワードは?』

 1221momoka

『私の誕生日じゃない、ちょっとキモ』

 そのキモいのと頭の中で同居してるんですけど。

 

 起動すると、壁紙は俺自作の初聲クミである。

「うわ」

 まあ、そうなるな。

 ももかがちょっと引いている間に、書類フォルダのうち、まずいものをどんどん削除していく。中身は見ない。見れない。

『コウイチ、変態』

 中身見てないだろう。あと、男はみんなこんなもんだ。

『そうなんだ』

 そうなんだよ。

『早くクミやりたい』

 もうちょっと待て。うん、いいだろう。初聲クミを起動する。

 

 打ち込む手順を教えるから、しっかり覚えろよ。

『うん』


 それからしばらく基本の手順を教えて、さくらさくら、と打ち込んでみた。

「さーくーらー、さーくーらー」

 クミが歌い出す。

「わーい」

 ももかが声を出して喜んでいる。

 しー、 もう消灯時刻だ。疲れたろ。

『うん』

 もう寝よう。あしたがんばろうよ。

『よろしくね』

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