6 放課後デートすることになった。
6話目にして、早速週一投稿の約束を破りました。ごめんなさい。
間の話を削除したので再投稿しました。9/7
────────────────
前回のあらすじ
雨が止むのを待つ間、久しぶりに会話をした陽斗と琴音はテストでの勝負を決めたのだった。
────────────────
学校終わりの放課後、俺は家には帰らずドムジャに来ていた。ドムジャが何かわからない? 名古屋ドーム前のショッピングモールのことだよ。
もちろん、俺一人だったらこんなところまでは来ない。家の真反対だから。つまりは、一緒に来ている人物がいるわけで。
視線を動かすと、結城と豊田先輩が制服のまま立っていた。この三人がそろったら、怒るイベントは一つ。“デート”だ。
「具体的に今日して欲しいこととか、することとかはあるんすか?」
「ないよ。ない。私からオーダーすることは全くない」
「えぇ……」
「だって、だって、私が指示しちゃったら自然じゃなくなっちゃうでしょ?」
先輩の言い分はわからないことはない。それでも、一個や二個ヒントは欲しい。
「小説のネタなんだから、具体的にどうして欲しいとか、少なからずありますよね?」
「ないよ。陽斗くん。ない」
「…………」
先輩はブンブンと首を横に振る。どうやら先輩は一般的な、普通の放課後制服デートをご所望らしい。それって、俺らから一番遠いな?
「東雲先輩。お聞きしたいことがあるのですが、大丈夫ですか?」
「もちろんだよ。どうしたの? 琴音ちゃん」
「どうして、ふりをする役が私たちなんでしょうか? もっと適任はいると思うのですが……」
「君たち二人じゃないとダメなんだよ」
言葉を返す先輩には、なにか、強い意志のようなものを感じた。
「なぜ、でしょうか?」
「二人がいい。それ以上もそれ以下もないよ」
「たとえ、心から楽しんでいなくても。ですか?」
「うん。そう。なんなら、歪な恋愛? そんなものが欲しいまであ──げふんげんふん。と、とりあえずね。二人がいいの」
思わず惚れてしまいそうなほどにかわいい笑顔を先輩は浮かべる。歪な恋愛のほうがいい、か……。そりゃ、物語的には面白い、のか??
「それと、二人が本当に辞めたいっていうなら、渋々わかったをするよ」
わかりやすく落ち込んだような仕草を先輩は見せてくる。
「いやいや、そんなことはないですよ!? 先輩には、普段からお世話になっていますし、力になりたいのは本当です」
「なら、よかった」
さっきの落ち込んだような姿は消え、満面の笑みを浮かべていた。演技かい。
「まぁ、まぁ、ここにいつまでもいても人目を集めるだけだからとっとといこー!」
先輩は、俺と結城の背中を無理やりに押してくる。そう言われてから、初めて俺は周りに人だかりができていることに気が付いた。彼らの会話に耳を傾けてみると、先輩のことがかわいいやら、結城がかわいいやらの話が聞こえてきた。
なんだか、美少女二人と放課後に遊びに来ているこの状況がなんとも誇らしい。これは、人生勝ち組なのでは?
「隣にいる奴は彼氏か?」
「なわけない。芋すぎる。きっと、荷物持ちかなんかだろ」
……聞こえてるぞ、男ども。俺はメンタルが弱いからな。普通に泣くぞ。
♢♢♢
「こんなアクセサリーどうでしょう?」
「よく似合いそうだね。琴音」
「ありがとうございます。買ってしまうのも良いかもしれませんね」
安価なアクセサリーショップの中で、俺と結城はそんな会話をしていた。周りから見れば、微笑ましいような光景である。だが、さっきから先輩が見てくるわ、恋人のふりをしているわで、微笑ましくなんか一切ない。
「そうだな、こんなのはどうだ?」
視線をちょくちょく感じるので、なんとも歯痒い。その気まずさを紛らわすように、俺はサンプル品の髪飾りを指さした。
「どちらかというと、私はこちらの方が好みかもしれません」
「どれ?」
「これですよ」
結城は、その髪飾りを手に取った。
「あぁ、確かに」
陽斗が指差したアクセサリーの色は、控えめな金色。黒髪の人であればこの色は華美にも、地味にもならずちょうどいいアクセサリーになったかもしれない。だが、結城の髪の色は、ブロンドだ。彼女がこの金色を身につけても、残念ながら目立たないだろう。
それを加味してか、結城が提案してきたのは青色の髪留め。派手な装飾が付いているわけでもなく、地味すぎるわけでもないそれは、彼女によく似合っていた。
「まぁ、買わないんですけどね」
「買わないのか?」
「無くさないとは思うのですが、無くしてしまった時のショックが大きいので」
「女神様たる琴音様が、物を無くすとは思えないけどな」
「意外と、私生活はズボラかもしれませんよ」
結城の性格がいくら裏表が激しいものだったとしても、ゴミ屋敷みたいな結城の自室は想像がつかない。
「本当に琴音の私生活がズボラだとしたら、俺はお前のことを何にもわかっていないな」
その言葉に、結城はちょっとばかり驚いたような表情を見せた。だが、それも一瞬。すぐに、女神様の作られた表情に戻ってしまった。
「幼馴染なのに、ですね」
結城は無機物に笑う。だが、その笑顔に恋人としての魅力は感じられない。
「別のところに、行きますか?」
「あ、あぁ。そうだな」
「どこか行きたいところはありますか?」
「行きたいところか……。無難に、ゲーセンかな」
「いいですね」
「そう。行っても大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。アクセサリーショップに、付き合ってもらったんですから、次は私が付き合う番です」
「なら、お言葉に甘えて」
そんなこんなで、半日が過ぎ去った。
この半日で、俺が得たものといえば、『付き合うふりは結構大変』という教訓ぐらいであった。この教訓を生かせる時が来るのだろうか。できれば来てほしくないが。
♢♢♢
「ほんっとうにありがとうね。二人ともっ!」
ご機嫌な佳乃は、顔いっぱいに笑顔を浮かべていた。普段の大人しさも相まって、こうやって無邪気に笑う時の先輩の破壊力は凄まじい。
「どうですか? ネタのほうは。何か思いつきました?」
動揺を隠しつつ、尋ねると先輩は何かをたくらんだような笑みを浮かべた。
「完璧。いいネタが集まった」
それほど有意義なデートができたとは思えなかったが、先輩が喜んでくれるならよかった。安堵してから結城のほうを見ると、彼女もほっと一息ついていた。
「じゃあ、私は帰るね。本当にありがとう、二人とも」
先輩は一度微笑んでから、くるりと体の向きを変えた。そのまま帰るかと思ったら、きゅっと足を止めて視線だけこちらを向けた。
「二人ともまじめだから大丈夫だと思うけど、来週の月曜日の部活できるだけ参加しほしいって部長が言ってたよ。なにか大事な話があるみたい」
先輩はそれだけ言うと「ばいばい」と手を振って行ってしまった。
もとから部活には行くつもりだったから問題はないけど、休まないようにだけ気を付けるか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます