24 話し合い①

 結局、陽斗たち四人は、一緒に行動することになった。陽斗は琴音と一緒に行動したくない、というわけではない。一緒に遊ぶことについては反対するつもりはない。ただ、気まずいというだけで、琴音本人を拒否する理由を陽斗は持ち合わせていないからだ。


 それよりも陽斗が気にしていたのは、桜愛と蒼空のデートを邪魔してしまうことだった。デートの邪魔をしては悪いという名目で、ここから去ろうという考えがないとは、言い切れなかったが。


「「いつでも遊べるサク(そーちゃん)と、遊ぶよりも今日は4人で遊びたい」」


 と、一蹴されてしまった。残念ながら、陽斗の希望は通らなかった。


「なんか、爆ぜろ」

「そりゃ、まぁ、俺たちの愛はいつも爆発してますけど。ねぇ、さーく」

「うん。当たり前。そーちゃん」


 向かい合って微笑み合う二人。


「うん、とりあえず、蒼空だけ爆ぜろ」

「俺だけかよ!? ひどくね!?」


 陽斗は、仲睦まじい二人を見て、リア充に対する嫉妬を膨らませていた。


「琴音も、大丈夫?」


 桜愛にそう聞かれると、琴音はにっこりと笑い返した。


(結城は、あんまり気まずくないのかな……)


 自分だけが意識してしまっているかもしれないという状況に、陽斗はため息の一つもつきたくなった。


「(なぜ、遭遇してしまったのでしょうか……。どうして、あんなことを言ってしまったのでしょう……。気まずい……)」


 小さくつぶやかれた琴音の声が、誰かに届くことはなかった。


  ♢♢♢


「陽斗。結城さんと何かあったのか?」

「いきなりだな……」


 女性陣二人が、服選びに夢中になっている最中に、蒼空から唐突に話しかけられた。

 何かあった。と言われれば、あった。としか答えようがない。いっそのこと、陽斗は昨日あったことを全て彼に話すことにした。


「おま……、それは、さぁ……」

「なんだよ」


 何かしら、言いたげな表情を浮かべる蒼空。陽斗も、彼が何を言いたいかぐらいはわかる。


「勘違いしかけたよ。そりゃ」

「勘違い?」

「結城が、俺のことを好きなんじゃないかなと」

「ほぉ。それが勘違いだと」

「──そう──」


 歯切れの悪く返事を返した陽斗を、蒼空はじっと睨みつける。


「なんだよ」

「本当は、どう思ってるんだよ」

「──」

「本当は、どう思っているんだ?」


 蒼空には、心のうちを見透かされている。


(きっと、話したほうが楽になる)


「──絶賛、勘違い中だよ。君のおかげで変わった。なんて、どう考えても殺し文句だろ……」


 陽斗は、わざとらしく頭を抱えた。


「結城が何を考えてるのか、全くわからない。きっと、好きって感情は結城にはないはずなんだ。付き合う。なんて思考も、ないはず」


 尻すぼみになっていく陽斗の声。自信がなくなってくる。


「俺には、陽斗たちが頑なに付き合うことを拒否しているのかはわからない」

「それは──」

「合わないからって言うんだろ? 俺には、それがわからない」


 陽斗の言葉を遮った、蒼空はそれから続けて。


「ただ、話し合ったほうがいいとは思う。認識がズレてる。なんてこともあるから、一度話したほうがいい気もする」

「認識が、ズレてる。ね」


 もしかしたら、琴音は陽斗のことが好きなのかもしれないと。もしかしたら、

もう琴音は付き合ってもいいと。思っているかもしれない。


「話し合う機会を作ってやろうか?」

「できるの?」

「当たり前だろ。親友のためだ」

「ありがとう」

「どうってことないよ」


 蒼空は、爽やかな笑みを浮かべた。


  ♢♢♢


「よし、サク。あれしに行こう!」

「うん。やりに行こう」


 そう言って、ゲームセンターの太鼓を叩くゲームをし始める二人。陽斗と琴音は二人残されたわけだが、空に一瞬だけ、目線を向けられたので、「話し合う機」というのは、これを指すのだろう。


「俺たちは、どうする? あいつらが、終わるまで暇なわけだけど」

「したいことも特にないですし、座って待っておきましょうか」

「そうだな」


 と、二人はモール内にあるゲームセンターの外のベンチに腰掛けた。


「……」

「……」


 しばらくの間、静寂が続いた。


(話すっていっても、何を話せばいい!? いっそのこと、ストレートに聞くか? いやいやいや、それは恥ずかしいぞ……)


 脳をフル回転させている陽斗。彼には、この静寂を破ることはできなかった。


「あかりちゃんの映画はいつ頃終わるの?」

「えっ、あ、あぁ……。まだ、終わるまで30分はあるから、大丈夫」

「なら、よかった。あかりちゃんを一人にさせてしまうのは、忍びなかったですから」

「終わった時にいないと、きっとしばらく口聞いてくれないな」

「そうかもですね」


 琴音はふふふと、可愛らしく笑った。一気に緊張が切れた気がする。


「なぁ、結城」

「なんでしょう?」

「どうして、昨日はあんなことを?」


 逃げの一手だ。ストレートに聞いたのはよかった。だが、この聞き方では琴音に全てを任せてしまっていた。こんな選択肢しか取れなかった自分が情けなかった。


「それは──」


 陽斗は、ごくりと喉を鳴らした。

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