23 出くわすことになった。

 お久しぶりです。失踪していないとは言い切れません。今日からしばらく隔日投稿を再開します。今日の話は改訂版23話です。久しぶりの投稿なので、あらすじを書きます。


あらすじ


 先輩からお願いされ、付き合うことを始めた陽斗と琴音。好意を持って、それを了承した二人だったが、初めてのデート日にお互いのことが好きではなかったと自覚する。先輩から、お願いされ、付き合うふりを二人は始めることになった。

 学校祭に向けて、二人が所属する文芸部では、部存続をかけた戦いが起きていた。その裏では、陽斗と、琴音を狙う先輩──康二との勝負が始まろうとしていた。


────────────────


「私が変わったのは、あなたがいてくれたからです」


 計算し尽くされたその表情と仕草。不意を突かれ、陽斗は固まる。


(俺が、いたから?)


 意味不明な言葉も相まって、陽斗の思考はフリーズしていた。


「じゃあ、私こっちですので!」 


 照れ隠しなのか早口にそう言うと、琴音は踵を返してY字路を駆けて行ってしまった。走っているのもあって、すぐに琴音の姿は小さくなってしまう。

 取り残された陽斗。先ほどの記憶は、鮮明に記録されていて、頭の中を駆け回っていた。

 三十秒ほど、固まっていただろうか。ドクドクと早まった鼓動を落ち着かせ、大きく息を吸って吐き出す。


「何言ってんだよ。勘違いするぞ……」


 あの琴音のことなんだ。きっと、恋愛的な意味はまるでないはず。

 一度お互いに好きじゃないと認識しているのに、再び好きになるなんてことはあるはずがない。

 そう自分に言い聞かせて、熱い顔を冷やす。


「冷静になるんだ。陽斗」


 半ばトラウマのようになってしまった、琴音とのデートの記憶を掘り返し、はやる気持ちを抑え込む。


(とりあえず、帰ろう。あんまり遅くなると、あかりに怒られる)


 もう一度大きく深呼吸をしてから、陽斗はY字路を琴音が進んでいった方向とは逆のほうに足を進めた。

 結局、その日はそれが頭から離れず、あかりに「心ここに在らずって感じだね」とすら言われてしまった。


  ♢♢♢


 その翌日。祝日だから。という理由で、陽斗は妹のあかりに、外に連れ出されていた。やってきていたのはショッピングモール。あかりの目的は、映画を見ることであるらしい。


「一人で行ってきたらいいじゃないですか……」

「兄さん。私はか弱い乙女だよ? 一人でこんなところに来させたら、どうなることやら。わかってないね」

「映画は一人で、見ろよ」

「そりゃ、一人でみるけど」

「なおさら、俺がついてきた意味とは」


 陽斗は大きくため息をついた。


「せっかくの祝日を、外に出ずに過ごすのはもったいないからね!」


 あかりは、はにかんだ表情を見せた。


「じゃあ、行ってきま!」

「あいあい。行ってらー」


 強引に連れてこられて、放置。相手が妹じゃなければ、軽くキレていただろう。我ながら、妹には甘いのだな……。なんて、思っていたら。

 見覚えのあるブロンド髪の少女が、通路を挟んで反対側の店の前にいること気がついた。帽子をかぶっていて、顔はよく見えないが、陽斗がその少女を見間違えるはずがない。

 話しかけるわけでもなく、彼女のことを見ていると──。琴音の視線が一瞬クロスした。

 げっと、いう擬音語がよく似合いそうな表情を一瞬の間見せた琴音。


(どうして、あいつがここに……)


 一番近い大型の店というのが、このショッピングモールであるから、琴音がここにいるのは全くおかしな話ではなかった。


『私が変わったのは、あなたがいてくれたからです』


 脳内で、自然再生されてしまったその言葉。それのせいで、陽斗は余計にこの状況に気まずさを感じるようになってしまった。

 陽斗にとって、今、一番出会いたくない相手といえば、琴音であった。なのにも関わらず、出会ってしまった。


(もう、とっとと退散しよう)


 映画館前に居座る理由もなければ、用事もない。だから、どこかに行ってしまおうと、歩き出そうとした途端。真後ろから、聞き覚えのある声に、引き留められてしまった。


「おー。陽斗じゃん」

「陽斗だ」


 振り返ると、ピンク髪の少女と、黒髪の青年が腕を組んで立っていた。それを見た陽斗が顔を顰めたのは言うまでもない。


「蒼空、桜愛」


 映画館から出てきたのを見るあたり、映画を二人で見てから出てきたのだろうと推測できる。


「こんなところに一人なんて、珍しいな……。──なるほど?」


 いやらしい笑みを浮かべる蒼空。その視線が向かうのは、陽斗の後ろにいる琴音だ。


「それは、勘違い──」

「──琴音―」


 陽斗が引き止めるよりも先に、桜愛が琴音に向かってトコトコと歩いて行ってしまった。


「桜愛?」


 向かいの店で、談笑を始めた二人。陽斗はそんな二人を見ながら大きなため息を吐いた。


「どうした」

「帰るタイミングを見失ったな、と」

「帰る? どうして」

「妹の付き添いで来ただけだったから」

「結城さんと一緒に来たわけじゃなかったのか……」


 蒼空はなんだか残念そうな表情を浮かべた。

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