第5話 へへ、こうきくんくすぐったいってばぁ
おれは親父に電話を掛けた。秘書らしき人が出て、すぐに代わってもらえた。
「どういうことだ?」
『おーなんだお前か。例のものは届いたってことでいいんだな』
「ああ。やっぱり親父が差し出したってことか」
春彦たちの線もなくはなかったが、まぁ今日会ったときの反応からするに可能性は薄いなと思っていた。
「おれたちに旅行に行けってことか?」
『まぁそういうことだ! たまには羽伸ばしてスッキリしたらどうかと思ってな』
「どういう風の吹き回しだ。あんたの頭の中は嵐なのか?」
『どっちかって言うと竜巻ってところだな』
「意味分かんねーよ」
『まぁ楽しんで濃いよ』
「………………本当になにか意図があるわけじゃないんだな」
『言っただろう? 二人きりで楽しんでこいって。昔箱根に旅行行ったときの景色は最高だったからなぁ! お前らにも味わってもらいたいんだよ。そうだ、レヴィアンちゃんは元気にしているか? もうヤったんか? きっと感度良好なんだろうな~~~、ちくしょう羨ましいぜ!』
「だからやってねーよぶち殺すぞ! 失礼にもほどがあんだろうが! あーそういうことね。完全にあんたの厚意ってことでいいんだな。…………そうか、ありがとよ」
『だーはっははははははははは! 聞いたかうちの息子がありがとよだってよぉおおおおおおおおおお! ひーひっひっひっひっひっひ! こりゃ傑作だぜ!』
おれは無言で電話を切った。ったく本当にこいつには調子狂わされるぜ! ちくしょう! もう二度と電話するかってんだ!
………………だが、なかなか粋な計らいしてくれんじゃねーか。そこは素直に感謝だぜ、親父。
「親父の計らいだそうだ。まぁ、ってことで来週は箱根旅行だな」
「は、箱根ってどんなところなの?」
「そうだな、温泉と料理の街ってとこか。体を休めるにはもってこいの場所だろうな」
「……こ、航輝君と二人きりの旅行!?」
「まぁな。いつも二人なんだから、旅行に行くときも二人に決まってんだろ」
「そ、そっか。へへ、おんせんかぁ!」
「そういやレヴィアン、温泉に行ったことないのか」
「う、ううん? 行ったことはあるよ、何回か! けどほとんどお父さんたちの付き添いって言うか、とりあえず入ってたみたいな感じかなっ! だから日本のどこの土地に行ったとか、案外覚えてない……へへ」
「はー、なるほどな」
レヴィアンは何度も言うが出版社の娘である。そりゃ世界中あちこち行ったことだろう。もちろん日本にだって来ているはずだ。
「とりあえず、今日のご飯作って貰えるか?」
「うっ、うんっ、よろこんでっ!」
そして迎えた翌週のことである。電車を乗り継いで箱根へとやって来た。いやー、長かったような短かったような! 電車の中のレヴィアンは外の景色にはしゃぎっぱなしだったからな。……つかれたぜ。
「うわぁ! 航輝君見てっ! 川っ!」
「ほぉんとだ。きれいだなー、水が透き通ってる」
周りを見渡しても山だらけである。ふと目を転じればお土産屋さんがたくさん並んでいる。まんじゅうでも作ってるらしく湯気があちこちで舞っている。和風テイストのスチームパンクと言ったところか。いや意味わからん。
「とりまホテルに行ってから、色んなとこ回るか?」
レヴィアンはやっぱりここでも人目を惹く。まぁ色んなところ回るのであれば、せめて帽子くらい被せてやった方がいいかもな。
スーツケースをゴロゴロさせてホテルにやって来た。しきりにバッグの上に乗りたがるレヴィアンをどうにかするのに手間取ったぜ。
「えっと、羽田様でよろしいですか」
「えぇまぁ」
「お二人様ですねー、少々お待ちください!」
チェックインの手続きをしている間レヴィアンはソファに腰掛けて足をぶらぶらさせて待っていた。スーツケースに取り付けてあるストラップのキャラクターに向かってなにやらささやきかけている。魔法でも掛けているのかも知れない。なんでそんなににやついてんだよお前。
「よしレヴィアン終わったぞ! ひとまず部屋に行く」
「うんっ!」
レヴィアンはとてとてとおれについてくる。時にきょろきょろして辺りをうかがっている。なんか珍しいもんでもあんのか?
「こ、航輝君っ、卓球台があるよ卓球台っ!」
「ほう! 卓球台か! じゃああとでやるか」
「えへへ、負けないからっ!」
エレベーターに乗り込んで目的の階にたどり着く。廊下を進んで与えられた部屋に鍵を通す。ホテル特有の空気がおれたちにまとわりついてきて、なんだかわくわくするぜ。
荷物を置いて、早速和風ホテルとか旅館に特有の謎のスペースへと移動する。つまり窓際の椅子と机が置いてあるスペースのことな! 一気に窓を開けるとすぐそこにはマイナスイオンを辺りに撒き散らす壮大な川があった。……うーん! 空気が気持ちいいぜ!!
「き、きれいだねっ!」
レヴィアンがおれのすぐ傍で言った。にしてもすげーなこのロケーション。最高じゃねーか。
「お風呂もついてるよっ!」
「ほう」
おれは洗面所へと移動、レヴィアンが指さす先に木製のお風呂があった。すぐ傍に注意書きがされていて、『川沿いなので羽根のついた虫さんが飛んできます、入ってきたら川の方へ返してあげましょう』的なことが書かれている。
しかしホテルの部屋についてる風呂なのに絶景が見られるなんて、至れり尽くせりじゃねーか!
なんかおれまでわくわくしてきちまうぜ! 親父いい提案してくれるじゃねーか。
今はまだ朝の九時だ。だから日は照っているし、その光が川の水面に反射している。
「ちょっと休憩したら、そうだな、お前どっか行きたいところあるか? まぁなければここは無難に大涌谷辺りにしようと思うが」
「わ、私、あんま詳しくないから……。ぱ、パンフレットも読めないしっ!」
「そうだったな、悪い悪い。じゃあおれが適当に行く場所見繕っておくよ」
「うんっ、よろしくねっ!」
こうして二泊三日の箱根旅行がスタートした。
くそっ、くそくそくそっ、おれは楽しみで仕方ねーぜ!
ロープウェイがぐらぐら揺れる。
「こ、こここここここーきくん………………………………!!」
おれの裾を引っ張ってレヴィアンがブルブル震えている。それもそのはず、真下を見ればだいたい二十メートルくらいは空気が広がっているのだから。地面に落ちたらそりゃもう骨折どころじゃすまないだろうな! あっはっは!
「レヴィアン、大丈夫だ。日本の技術はものすごいんだぞ」
「う、うん、そう、なのかな……。けどさっき駅にいたとき上の方のゴンドラ故障してるって言ってたよねっ……!?」
「レヴィアン、あはは、お前はものすごい心配性なんだなぁ! 大丈夫に決まっているだろ。日本の技術はすごいんだからな!」
とかいいつつおれもびくびくしている。こえーよ! これでビビらない方がどうかしてんだよ!
「こ、航輝君も震えてんじゃんっ!」
「あはは、ほら見ろよレヴィアン! あっちに湖が広がってるぞ!」
「え!? どれどれ!? わーほんとだきれいだねー!」
ふぅ。レヴィアンはどうやら遠くを見ている分には大丈夫らしい。ガラス窓に張り付いて遠くの湖を眺めている。
「す、すごいキラキラしてるよっ!」
「そうだな。レヴィアンみたいだ」
「~~~~~~~っ!」
レヴィアンは無言でおれの肩を叩いてきた。なんだ照れてるのか。可愛い奴め!
おれはすっと手を伸ばしてレヴィアンの手に重ねた。これで少しくらいは恐怖が紛れるはずだ。
しばらく経つと大涌谷が近付いてくる。ほお! テレビではなんども見たことがあるが、実際に来てみるとけっこう黄色いな。いやこの感想もおかしいような気がするが、とにかく全体的に黄土色なのだ。
「お忘れ物の無いようにご注意くださーい!」
ゴンドラから降りる。おれが先に降りて、レヴィアンの手を取る。ちなみにちゃんと帽子を被せているぞ。その辺は抜かりない。
「……こ、こわかったぁ!」
「そうだな同感だ。だけど帰りも乗ることになるぞ」
「……………………」
レヴィアンは顔面蒼白でぷるぷる震えている。その視線は地面に向けられている。相当に恐れを成しているらしい。こいつ飛行機とかも苦手なタイプだろうな。
「まぁしばらくは上の方にいるわけだし、楽しんでこうぜ!」
おれは陽気にレヴィアンの手を取って歩き出した。レヴィアンの体は鉛のように重く感じられた。
「く、雲の中だっ! た、たかい……!」
空気がひんやりしてるな、というのがおれの感じた第一印象だった。すげー寒いってわけじゃないが、やっぱり標高が違うとここまで違うもんなんだな。
「レヴィアン寒くないか? ほら、これ着ろよ」
「あ、ありがと…………へへ、航輝君の温もりだぁ……!」
おれはカーディガンを取り出してレヴィアンに着せてやる。レヴィアンは顔を赤くしてそれを受け入れる。
「航輝君はへーきなの?」
「あ? おれか? おれはべつに大丈夫だ。心配してくれたのか?」
「う、うん……私ばっかりはずるいかなって思って!」
「なに気にすることはないな。男の子は筋肉があるから発熱量がすごいんだ」
「す、すすすごいねっ! 航輝君自分で熱出せるのっ! ほわー」
なにか変なスイッチ入っちゃったかも知れない。っていうかなにか勘違いしてないかお前!? レヴィアンはどうでもいいところで感動するクセというか習性があるな。
「よし、じゃあまずは写真でも撮るか。あそこがいいか」
おれが指さした先にはさほど長くない列ができている。谷の斜面をバックに写真が撮れるベストスポットらしいな。
「あ、あっちの方に行くのなんか怖いなっ……!」
レヴィアンがびくつくのもむりはない。柵の向こう側はもう谷だからな。落ちたら転がり落ちて死ぬかも知れない。
そうこうしているうちにおれたちの番、おれの後ろにいる人にスマホを渡す。「よろしくお願いします」とお願いすると、その人はカメラを構えて言った。
「はい撮りますよ……ルート四はぁ!?」
なんっちゅうかけ言葉だ! おれはわかるがレヴィアンはわからないんだよ! あれかな、数学の先生とかなのかもしれん……! ちなみに答えは『二』である。にいぃぃである。笑えねーよ!
「る、ルート四!?」
かしゃり。写真が撮られる。順番待ちがある関係上一枚しか撮れなかったぜ。おいどうしてくれるんだ!
「わ、私すごい変な顔してる……! こ、こんな顔するはずじゃなかったもん!」
「観光名所ともなると変わった人がいるのかも知れないな。ちなみにレヴィアン? ルートの意味わかるか?」
「そ、それくらい知ってるよっ! 道のことだよねっ!?」
どうやら知らなかったらしいぜ……。まぁしょうがないか。
おれは切り替えの意味も込めて高らかに笑った。道行く人がおれの方を見てくるが、なぁに、気にすんな!
「あっっははは! まぁ他にも写真撮影に適した場所があるかも知れないから、まずはちょっと回ってみるか。やっぱり黒たまごは買ってかないとな!」
「く、黒たまごってなに!?」
レヴィアンが食いついてくる。その食いつきぶりたるやワニをも凌駕する。
「まぁ、ゆで卵のことだな。けど卵の殻のところが真っ黒になってる。何度も言うが中身はほとんどゆで卵だぞ」
「へー、珍しいな~、航輝君物知りだねっ! ブラックボイルドエッグなんだねっ!」
お、おう……。まぁ英語だとそうなるのかも知れない。
「航輝君、私ソフトクリームも食べたいっ!」
「はいはい。じゃああとで食べような」
一応ロープウェイでも大涌谷には来られるのだが、バスでも来られる。もちろん自家用車でもオッケーだ。だから駐車場がけっこう一杯になっている。レヴィアンはその車の列をぼけーっと眺めながら、おれが黒たまごを購入し終えるのを待っていた。
なるほど、五個入り五百円なのか。作業効率を重視しているらしく、卵一個ずつで買えたりはしない設計なのか。ワンコインでテキパキ回すって言うやり方らしい。賢いな!
だが……二人で五個はけっこうな量かも知れない。持ち帰って余った分はあとに食べることにしよう。
「ほら、レヴィアン買ってきたぞ」
「……ほ、ホントに真っ黒なんだねっ……!」
おれはレヴィアンに袋に入った塩を渡す。ベンチに座っているレヴィアンは足をぶらぶらさせつつそれを受け取る。
「どぅううううわああああああああああああああっ!!」
天地を振るわすような大絶叫。レヴィアンから発せられたものだ。おれはミネラルウォーターを噴き出してしまう。なんだどうした!?
「ご、ごごごごめんねっ、私、やっちゃった……っ!」
どうやら塩をぶちまけちまったようだ。中身の半分ほどがなくなってしまっている。なんだそんなことか。まさかトンビにでも卵が攫われちゃったのかと思ったぜ。ったく心配させやがって。
おれは耐えきれずに笑っちまう。
「はは。なんかお前らしいな!」
「こ、航輝君……怒ってないの?」
「なぜだ? まぁレヴィアンだから、いつものことじゃないか」
「……な、なんか複雑」
なくなってしまったものはしょうがない。あとの半分でどうにかすればいいだろう。そう思ったとき、近くにいたおばちゃんがこっちに近付いてきた。
「塩がなくなっちゃったの? ほらじゃあこれ使いなよ。私たちもう使わないからさっ」
優しい人もいたもんだな。
「あ、ありがとうございます……」
「お、おばちゃんありがとうっ!」
おばちゃんはにっこりとしてからその場を立ち去った。嫁(未来形)がここまで可愛いとなにかと得することが多い。
レヴィアンは不器用ではあるが、その分周りがサポートしてくれるのだ。もちろんおれもそのサポート役なのだが。
「い、言い訳させて……っ!」
レヴィアンが弱々しく呟く。
「私ねっ、容器に入ったお塩なら絶対こぼさないからっ!! い、今のは袋に入ってたから、手が滑っただけだからっ!」
レヴィアンは必死に言い訳している。お、お前……。べつに誰もそんなこと気にしてないぞ。
「わ、私うっかりさんだけどっ、よ、容器に入ったお塩ならこぼさないからっ!」
大事なことだから二度言ったらしい。いやそこ関係ないだろ!? だからそこまで気にしてないんだって。レヴィアンなりのプライドがどうやらあるみたいだ。
「はいはいわかったよ。お前の料理スキルは天才的だってことを誰よりも知っているつもりだ」
おれが言うとレヴィアンは上機嫌に黒たまごを食べ始めた。
真っ黒い殻を器用にむいていく。っていうかお前マジで剥くのうまいな……。若干注目浴びてんじゃねーか。
そんなことに当人は気づいていないらしく、めっちゃ朗らかまるでタンポポのように天真爛漫な笑顔で卵を頬張るのであった。
「サムライがいるよっ! め、めちゃくちゃかっこいいよっ! これお土産に買っていこうよっ! カタナカタナっ! 並み居る敵をみじんぎりできちゃうっ!」
「完全に海外向けのお土産って感じだな……」
大涌谷って侍関係あるのだろうか。けど売っているんだからあるのかも知れない。いやわからん。もしかしたらあるのかも知れないしないのかも知れない。真相は神のみぞ知る。
「刀だよ刀! シャキーンっ! わるいことしたのはお前かァ!?」
めちゃくちゃテンション上がってるよこの子……。土産屋には他にも外国人らしき客がいてクスクスと笑っている。
「ほお、寄せ木細工も土産で売ってるのか……」
「完全に無視しないでよっ!」
おれは手近にあった細工品を見る。近くには湯飲みや箸も置かれていた。やっぱり外国人向けなんだろうか。けど日本人でもこういうの好きな人はいるかもしれんな。
「航輝君は湯飲みが欲しいの?」
「ん、んやそういうわけじゃないけど、色んなモン売ってんだなと」
「じゃあこれ買おうよ! 木刀!」
だからお前はどんな趣味をしてるんだ! どうやらレヴィアンには男子的なかっこよさを求めるところがあるらしい。カラオケの黒スーツの件といい、今現在の木刀の件といい。
「レヴィアン、気持ちはわからなくもないがな、よく考えてからにしろ。だいたい家に木刀置いておいてどうするんだ?」
「わ、わかんない……。けっ、けどいつか役に立つ日が来るかも知れないよっ! ほら護身用!」
おれはため息をついてからレヴィアンのほっぺたに触れた。
「いいかレヴィアン。べつに木刀なんか持ってなくてもな、お前のことはおれが守ってやる。必ずだ」
「こ、こうきくん……」
熱を帯びた瞳でおれを見上げるレヴィアン。いくら一ヶ月とちょっとの付き合いとは言っても、さすがにこいつの扱いには手慣れてきたものがある。
ほら見ろ。レヴィアンは顔をゆでだこみたいに真っ赤にして、「……うん」と呟いた。納得していただけたようで、レヴィアンは渋々木刀を元あった場所にしまう。ちなみに木刀の隣には、刀を模した傘が売られておりレヴィアンはちらちらと名残惜しそうにそっちも見ていた。お、お前……どんだけ好きなんだよ。
「ほ、ホントに航輝君私のこと守ってくれるんだよねっ! 絶対だよっ! へへ、けど航輝君なら安心かなっ。へへ」
「アァ安心しろ。お前に危害が加えられるようなことは絶対にない。なんせおれがいるからな」
うおおおおおおおお!! と拍手が巻き起こる。ヤバいいつもの展開になってきたな。土産屋のおっちゃんもお客さんもこっちを見ている。
おれは咳払いをして、レヴィアンに言った。
「よし、ちゃっちゃと土産を選ぶとするか。できれば実用的なものがいいな。まぁストラップ的なものでもいいかもしれない。あんまり生活に邪魔にならないものがいいだろう。レヴィアンは欲しい物はあるか?」
「じゃ、じゃあそのマグカップとかどうかな!? おそろいだし、使い勝手もいいと思うよ……」
レヴィアンがびくびくしながら言う。おれはレヴィアンの視線を追って……ほうなるほどな、大涌谷の白黒写真がプリントされたマグカップだった。しかもペアだ。カップル向け商品とみて間違いない。
「なるほどこれはいいな」
「だ、だよねっ!」
「あぁ、レヴィアンの美的センスの成せる技だ! お前は将来美大生になった方がいいぞ!」
「び、びだいせいってなに……?」
そこからだったか……。まぁとにかくおれたちはマグカップを購入することにした。
安心したぜ。レヴィアンは今おれの肩にもたれかかって眠っている。ロープウェイにビビることがなくてほっとしてる。
「…………ん、むにゃむにゃ。航輝君………………えへへ、わ、わたしはじめてだからっ」
どうしてこんなセリフを吐いているのかがよくわからない。おれが変に取り乱すと周りの乗客から変な目を向けられかねないので、ここは冷静さを保つことにする。
「お腹空いちゃった……。ご飯作らなくちゃ」
支離滅裂である。っていうかもしかしたら最初の発言はべつに卑猥な意味などなかったのかも知れない。おれが邪推した結果に過ぎないのかも知れない。だとしたら問題があるのはおれの方じゃないか!
「こうきく~ん、へへ、夢の中にまで現れてあげるからねっ!」
夢の中に出てくるのは構わない。むしろおれとしては歓迎するぜ。
「アロマオイル、てかてか………………えへへ、だからくすぐったいってぇ」
まったくもって意味がわからない! ナンセンスもここに極まれりだ。筒井康隆も驚きだぜ! まぁ夢の中だからしょうがないか。
「お歳暮はまだかな」
本当に一体なにを言ってるんだこの子は。頭の中がゆっくり回転していて、適当な言葉を吐き出しているだけなのかも知れない。
「やった! レベルアップしたよっ!」
わからん。マジでわからん。一体なんのレベルが上がったのだろうか。きっと夢の中でRPGでもしてるんだろう。そういえば家に有名なゲームがあったはずだ。よし帰ったらそれやるか。レヴィアンきっと喜ぶだろう――
「インターネットは食べられないよぅ……」
知ってる。知ってるぞレヴィアン! それは世に生きるすべての人間が知っていることだ。っていうかなんなんだこの寝言は!
ロープウェイが駅に近付いていく。ふぅ、やっとついた。おれはレヴィアンを揺すって起こす。なんか短いような長いような旅だったな。
「あれ、もうついたの!?」
「あぁ到着だ。お前よく寝てたぞ。っていうかわけのわからんねごと言ってたな」
「う、嘘だよねっ! あ、あわわ、私、変なこと言ってないよねっ!?」
「心配するな。お前は変なことしか言ってなかったから」
「そ、そんなぁ! ねぇ私なんて言ってたのっ!?」
「さぁな」
「こうきくん!」
駅に戻って、そうだな、街の中を散策することにしようか。
「航輝君見て川だよっ!」
「お前それさっきも同じ反応してたぞ!? っていうかお土産見るんじゃなかったのか!?」
まぁお土産だけじゃなくて食べ歩きもかねてというところだろう。街の中はとても混み合っていて、ちょっと足を踏み外しただけで車道に出そうなほどだ。
「ケーキ屋さんもあるんだ……なんか意外だねっ!」
「ほお。すごいな」
おれがすごいなと言ったのはべつにケーキ屋があることに対してじゃない。ケーキ屋があることに驚くレヴィアンがすごいなと思ったのだ。この景観にしては珍しい……ということを悟ったらしい。
放っておいたらレヴィアンはヨダレを垂らして漫画のキャラみたいになりかねないので、そそくさとケーキ屋に入っていく。なるほど、ケーキが売っているぞ!
レヴィアンが欲しい物とおれの欲しい物を注文して外へ。保冷剤をつけてくれたからしばらくは大丈夫だろう。
お土産屋に入る。レヴィアンは子供用の売り場に行って、おい、スライムで遊び始めるな。店員さんがにこやかに見守ってはいるが、ちょっと恥ずかしいぞお前。一応商品ではない。テスターみたいなもんだ。けどお前そんなに目をキラキラさせながらやるなよ。おれまでやりたくなってくるじゃねーか!
けっきょく五分くらいスライムで遊んでいたレヴィアンを売り場から引っぺがして、おれたちはストラップを選ぶことにした。へー、まぁ色々ある。温泉まんじゅうを模したキャラクター、温泉卵を模したキャラクター、富士山を模したキャラクターまである。箱根なのに富士山関係あるのか? まぁだがよく見えることはたしかだな。これも外国人向けと言うことだろう。
「こ、航輝君竹とんぼっ!」
「お、お前は自由人かよ……。いくら何でも目移りしすぎだろ……」
この子あぶないかも知れない。水族館とかに連れて行ったらすぐに迷子になるタイプだ。サメを見ていたかと思ったら、次の時にはイルカショーを見ている、みたいな? どんな奴だよ。イルカとサメ間違えちゃったよ~、とか言ってきそうだな。か、可愛いな。
だとするならおれはまずイル
カは哺乳類で、サメは魚と言うことを説明してやらなければならない。
ええい、まったく関係ないことを考えてしまった! 近頃はレヴィアンの心配ばかりしている。まぁ楽しいけどな。こいつ見ていて飽きないところがある。だって面白いもんな。
「航輝君! あそこに木刀があるよっ!」
前もやったろそのくだり……。お前どんだけ木刀好きなんだよ。こいつ人の話すぐ忘れるところあるな。
「レヴィアン、お前さっきの話忘れたのかよ」
「あっ、ご、ごめんっ! 忘れてた……!」
レヴィアンの記憶力を当てにしてはいけない。ニワトリよりもえぐいかもしれんぞ!
「石鹸あるよ、石鹸!」
しかしこいつはたまに光るものを発掘する目を持っている。たしかに石鹸は使い勝手がいい。お前犬並みに嗅覚がすぐれているぞ。嗅覚と言うより、視覚か? よう分からんがとにかく意外なところで才能を発揮する。
「いいじゃねーか。へー、黒い石鹸ね」
「航輝君これはいくら何でもわかるよっ! これ泡立てたら黒くなる奴だよ、そうに決まってるからっ!」
「はは、嬢ちゃんそれは違うぜ! 石鹸は黒くても泡立てたら白くなるんだ!」と店員さん。
「なんですとっ!」
レヴィアンがヒートアップしている。このままでは暴走レヴィアンが始まってしまう。だけどおれは笑ってしまう。
「こ、航輝君なに笑ってるのっ!」
「わ、悪い……ぅ、くく………………」
「……………………うぅ」
レヴィアンは拳を握りしめてぷるぷると震え出す。さすがに笑いすぎたかもな。悪い悪い。
「けど石鹸って言うセンスはいいんじゃないか。あって困らない」
「だ、だよね~、やっぱり航輝君わかってるぅ!」
レヴィアンは指パッチンして石鹸を手に取る。指鳴ってないけどな。こいつのテンションの上がり下がりの基準はなんだろうか。マジで考えても答えは出ないだろう。シャーマニズムとはなにかを突き詰めるよりも難題だろうな。
というわけで石鹸を購入。え? なんだって? お金のこと? 心配はいらないぜ。おれの家はこう見えてもお金持ちだからな。……親の金だけど、ほら、だけどおれだってきちんとバイトはしている!
というわけでホテルに帰還した。
「……ふぅ、なんかと、とってもつかれた……!」
「だな」
今の時刻は……まだ十六時か。ご飯の時間が十九時って言ってたから、まだまだ先だ。懐石料理らしいぜ。茶碗蒸しとか、鍋料理とか、その辺が出てくるのだろう。
「しばらくはゆっくり過ごそうか。飯の時間までまだまだあるし」
買ってきたケーキを冷蔵庫にしまいながらおれは言った。レヴィアンもそれにうなずく。
一応書いておくと、レヴィアンは正座ができない。まぁ仕方ないな。これはジェネレーションギャップという奴だろう。違うな。カルチャーギャップというべきだ。ジェネレーション関係ねぇな。
「ひ、ヒヒヒヒヒヒマだから、その、カードゲームでもして遊ぼうよっ!」
「ほう。なにか持ってきたのか?」
「トランプっていうカードゲームなんだけど、こ、航輝君知ってるかな?」
「なめすぎだお前……。万国共通なんじゃないのかそれって」
レヴィアンはトランプを取り出そうとする。だが「あれ、ないなぁ」と言っている。あぁ、やっちゃったかな。
「忘れちまったのか?」
「ご、ごめん……そうみたい」
「はは。まぁしょうがねーって。じゃああれするか? じゃんけん」
「なんの暇つぶしにもならないよねっ!?」
まぁ真面目な話することないのでテレビを見ていた。風が気持ちいいな。そよ風だそよ風。おれの心まで洗われるようだぜ。
「………………うおおっ。火がついてる……」
「あははっ、当たり前だろう? そりゃあつかないと食べられないからなぁ」
「け、けどこれどういう原理で燃えてるのかなっ! だって、すんごい青いよっ!!」
「たしかにな。まぁ燃えるものによって炎の色ってのは変わってくるからな」
「こ、航輝君すごい……。ね、ねぇ航輝君はさっ、この間のテスト順位いくつだったの!?」
「もちろん一位だぜ!」
「す、すごいね……っ! ワンダフルだねっ!」
褒められると素直に嬉しいな。レヴィアンはおれに対して尊敬の眼差しを送ってきてくれている。ありがたや。っていうかお前の瞳マジできれいだな。サファイアみたいだぜ。いやアクアマリンだったか? とにかく青く輝く宝石のようだ。
レヴィアンは色んな料理に目移りさせている。「ほーこれは!」とか「な、なんかうごいたっ!」とかなんとか言っている。ちなみに動いたのは箸置きだ。水で下が濡れてるとたまに動くことあるよな。
「旅行楽しいね……っ!」
レヴィアンがトロンとした瞳で言う。そうだな、とおれは応える。
「料理食べ終わったら卓球でもするか?」
「うんっ、するっ!」
卓球か……。そういえば久しぶりかも知れない。いやそうでもないか? ちょっと前に友達とラウンドテンに行ってやったような気がするな。まぁどうでもいいか。
「レヴィアンは卓球やったことあるのか?」
「うん……あるけど、お、お姉ちゃんたちにコテンパンにされた!」
「そ、そりゃあ可哀相だな」
「こ、航輝君にもきっと負けちゃうよ!」
「まぁだろうな。運動神経的な差がありすぎるからな」
「そうだよねぇ」
「心配すんな。べつに本気出したりなんかしねーよ。だからあれだな、ラリーをどれだけ続けられるかが本命だな」
レヴィアンはうんっ! とうなずく。
ふぅと息を吐いて天井を見上げる。おれはこの旅行のうちでレヴィアンとしっかり話し合おうと思っている。この間話せなかった……というよりかは忘れていたことをだ。
まぁせっかく親父たちがくれた旅行だ。楽しまなければ損だ。だから楽しむ。やなことも全部忘れて楽しむ。
「こ、航輝君イカ食べる……? た、タコもあげる……」
「ほら、ここに置け。おれのヤツでなんか食べたい奴あるか? マグロとかどうだ?」
「うん、食べたいっ。さ、鮭も食べたいっ!」
「よし、じゃあ好きなだけ持ってけよ」
「ていっ(スカッ)、そりゃっ(スカッ)」
「………………」
レヴィアンがなんども空振りしている。
もう見てられん! おれはどうやら一から教えてやる必要があるみたいだ。
「レヴィアン、まず持ち方を変えてみろ。こうじゃなくてこうだ」
「こうっ!?」
「違うっ! それはしゃもじを持つときの手じゃないか。そうじゃなくて、こうだ!」
「うわーん、難しいねっ!」
難しくない。簡単なはずなのだが……。
しかし人には得意不得意があるんだよな! そうだよな! レヴィアンは不器用だからできないことがあって当然なのだ。その分おれがきちんと教えてやらないといけないんだよな。よ、よし!
「悪かった! おれの教え方が悪かったな。ここをこうして、こうだ!」
「な、なるほどぉ! 航輝君すごいねっ! やっぱり学年一位はだてじゃないねっ!」
べつに学年一位関係ないと思うぞ。
しかし突っ込むのもあれだ。っていうか面倒くさいので、おれはそそくさと反対側へと移動する。
「とりあえずおれから打つから、お前はなんとか返せるようにしろ。目標はそこだな。焦らなくてもいいぞ。なんたってこれは遊びだからな!」
「うんっ、ファイト、レヴィ!」
自分で自分の意気を上げつつレヴィアンは構える。優しく送り出すように打ったつもりなのだが、やはりレヴィアンには難しいらしかった。
「う、うまくいかないっ! なんでこんなに私って才能ないんだろ……。うぅ、しにたいっ!」
「悲観しすぎだ! 誰だって最初はそんなもんだ!」
「さ、最初じゃない……」
そうだった。こいつお姉ちゃんたちとやってたんだよな。
「壁打ちの練習をするか」
「か、壁打ち? なにそれ? うどん?」
「違う。壁に向かって打つことだ。そして跳ね返ってきたボールを打ち返す」
どうでもいいことが頭をよぎった。ピンポン球ってボールって言うんですかね?
「まずはボールとラケットが接触するということになれておいて方がいい」
「うんっ、レヴィアンパワー見せちゃうからっ!」
だからなんなんださっきからそのワードは……。レヴィアンパワーってなんだろうか。マジックパワー的な奴かな。だとしたらその上限値を知りたい。
「食らえレヴィアンショット――っ、ぼがっ!」
レヴィアンはあまりにも強く打ちつけたせいで、自分の額にピンポン球を当ててしまう。さ、さすがはレヴィアンだ。期待を裏切らないな。
「い、いたい!」
「お前、壁に向かって全力で打ち込んでどうすんだ。……ちょっと面白かったじゃねーか」
「わ、笑われた……。ふんっ、もういいもんっ。航輝君なんか見返してやるからっ!」
気合い入ってきたらしい。レヴィアンは一人黙々と練習を始める。ずいぶんと熱中しているらしく、これはおれが入り込む余裕はないかもな。
だんだんうまくなってきた。ほお、大したもんじゃねーか。おれは監督ぶってうなずいてみせる。やめよう。おれは一体何様なんだ。あぁホテルのお客様か。
「こ、航輝君、見て、うまくなったよね!?」
「おう。すごい上達してるぞ。それならおれとラリーできるんじゃねーか?」
とは言っても、だ。ラリーとなると壁打ちとは違う。台の上を跳ねるボールを打ち返さなければならないのだ。果たしてレヴィアンにそれができるかどうか、見物だ。
「や、やったるよぉ! おー!」
誰に向かって言ってんだろうか。まぁ放っておこう。いつものレヴィアンだから。
「ていっ」
「おっ」
いい感じじゃないか? おれは打ち返す。「それっ」とレヴィアンが打ち返してきて、おーちゃんとラリーになってんじゃねーか。航輝君感激しちゃうぜ。
「うまいうまい! それっ」
「うがっ!」
「どうしたんだっ!?」
ピンポン球が転々と転がっていく。レヴィアンはその場でうずくまって悶えている。な、何があったんだお前。
「あ、足くじいちゃった……あたたたたっ、うぅ!」
レヴィアンは痛そうに患部をさすっている。まぁこれは想定内と言えるだろう。
「ちょっと待ってろ。今氷もらってくっからよ」
「……うん」
お風呂は部屋の中にもついているし、最上階にも露天風呂がある。まぁ今日は部屋の中のお風呂だな。なんでかって言うと、レヴィアンがケガしてしまったからだ。さすがに一人っきりで露天風呂に入れるのはあぶない。石鹸でこけて頭打ってたいへんなことになりそうだ。
「、の、のぞかないでください……っ!」
なぜそこで敬語なのかよくわからないが、レヴィアンはおれに対して釘を刺してくる。もうね、釘を刺されすぎておれは呪いの人形ですかって感じだな。つーか覗かねーよ。
「おう。ゆっくりしてこいよ」
「うんっ! それじゃあねっ! 何かあったら呼ぶからねっ! な、なにもなくても呼んでいいかな……!?」
どっちなんだよ……。それじゃおれが覗くことになっちまうじゃねーか。
レヴィアンは洗面所の扉を閉めた。さてとおれもその間にスマホの充電しておくかな。
「はーむすたーは、レントゲン写真みたいだねー」
どんな歌だよ。おれは苦笑しつつレヴィアンの曲を聞き流す。ハムスターのレントゲン写真か、ちょっと見てみたいかもしれない。けど見たら見たでつまらないものを見たという感想しか浮かばないのだろう。人間の興味というものは、案外大したものには向けられないのかも知れない。……なんてくだらないこと考えてんだろうなおれ。
「るんるんっ! つ~な~ひ~き~で腕折れちゃったよっ! ああ、それは神さまの言うとおりだね~!」
レヴィアンもしかしてお前それ自分で作詞作曲してないか。一度彼女の頭の中をのぞき見てみたいものだ。本当によくわからない。
ざばーん、という音が聞こえた。レヴィアンがお風呂から出た音だろう。あとは体を洗うんだろうな。
「……卵でも食うか」
ヒマなのでおれは卵でも食らう。今朝大涌谷で買った奴だ。うまいうまい。料理食ったあとだって言うのに、どうしてこんなに卵はうまいのだろう。
「上がったよー」
「お、お前ちゃんと髪の毛ふけっ。ほら」
おれはレヴィアンからタオルをもらって彼女の髪を拭いてやる。いつものやり取りだ。こいついくら言っても拭かないで出てくるからな。
「しゃ、しゃかしゃかされるー」
「いいから。思いっきり濡れてんじゃねーか」
ドライヤーくらい掛けられるようになって欲しいもんだ。
洗面所の椅子にレヴィアンを座らせて、おれはドライヤーのスイッチを入れる。ウィーンという音が響いて、レヴィアンはくすぐったそうに目を細める。
「ひゃーーーっ!!」
楽しそうだ。おれにドライヤーやられるのがそんなに好きなのか。よしよし。じゃあもっと風量を上げてやる。
「うひゃーーーーっ!!」
目をくの字にしてレヴィアンは歓喜の声を上げる。まるで生まれたての赤ん坊のようだ。
「ほら終わったぞ。クシやってやる」
「こ、航輝君にとかしてもらうのすき」
「そうか。あんまり動くなよ」
「えへへ、くすぐったいよぉ!」
かわいい。こいつは本当に世話の焼ける奴だが、おれだって世話を焼いてやることを苦と思ってない。
こんな関係性でいいのだろうか――時にそんなことを思ったりする。その反面、停滞しているように見えて、実はこれが一番幸せなのかも知れないとも思ったりする。
「どうやったらこんな髪質になるんだ。一体なにを食ったらそうなるんだよ」
「うへへー、知りたいっ!? 航輝君と同じものだよっ!」
「たしかにな。なんでここまで差が出るんだろうな」
食ってるものは同じのはずだ。それなのになぜおれの髪はこんなにゴワゴワなんだ。まぁ生まれついての体質の差だろう。羨ましい。
「できたぞ」
おれが声を掛けると、うとうととしていたレヴィアンが顔を上げた。
「わー、きれいな髪だねっ航輝君っ!」
「だからお前の髪だろ……」
「航輝君にやってもらったからきれいなんだよっ!」
お、おう……。そう言われると照れるぜ。
レヴィアンは長い髪をふりふりする。首をあまりにも激しく振るもんだからおれの肌に擦れてくすぐったいぞ。けどレヴィアンは気づいていないらしい。
レヴィアンがぱっと顔を上げた。幼い顔立ちだ。目が星空のようにキラキラしている。
「航輝君ありがとっ!」
「おう。お前の美しさに拍車が掛かってるぞ」
「わ、私航輝君のためにもっときれいになるからねっ! 航輝君をもっとドキドキさせちゃういい女になっちゃうからねっ! 期待して待っててねっ!」
いやずっと一緒にいるんだから期待もなにもないと思うんだが……とは言わないでおこうか。無粋だな。おれのために努力してくれると言っているのだから素直にありがたく受け取っておこう。
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