第6話

「シグマがやられたもうダメだ!」


「おい逃げるな戦え!」


「あぁぁあぁぁぁぁぁぁ!」


 戦闘から逃げ出した盗賊を予期していたかのようにゴブリンが回り込んでいた。

「まって死にたくない……」

 盗賊の願いは虚しく振り下ろされた斧は脳天に突き刺さり断末魔も聞こえぬうちにもう一匹のゴブリンが彼の喉元に石槍を突き刺してとどめをさした。


「くそこうなったら」


 リーダーの男は交戦していたゴブリンの一匹を屠ると前線を後退し、後方に陣を取っていた魔導士の少女の元へ走り出す。少女の魔道具をむりやり奪って敵陣に投げ捨てると泣きじゃくる少女の腕を引っ張りゴブリンたちの前に差し向けた。


「へへっお前らこれが欲しいんだろ」


 そう呼びかけるとゴブリンの攻撃はぴたりと止まった。


 下衆な笑みを向け少女の衣服を乱暴にはだけさせた。


「メディ悪いが俺たちの身代わりになってもらうぞ」


 露出した少女の白い柔肌を見た途端ゴブリンたちは満面の笑みで口から涎をたらし興奮したように雄たけびをあげた。


「リーダーひどいですぅ」


「ひどいのはお前だよ、まるで役に立たないうえに俺たちの下の処理も満足にできねぇ。そんなやつはゴブリンたちに凌辱されて無様に死ぬのがお似合いさ」


 絶望に染まる少女の顔とは対照的にゴブリンの顔は晴れやかだ。あと少しでお目当てのものが手に入る。小さな子どもが親からおもちゃを買ってもらえたときのような純朴な笑顔。


「じゃあな」


 リーダーの男は少女を敵陣に放り投げると潜伏スキルを発動しその場から消えた。


 ゴブリンたちは少女を舐め回すように眺めた後誰が最初に堪能するかを揉めていた。少女はその時間が自らが人としての尊厳を保てる最後の時間だと理解した。


 ――それでも。


「誰か助けてぇ」


 少女は最後の最後まで助けを求めた。


「ちぇすとぉ!」


 間一髪で間に合った。私は寸でのところで魔法石を使用し韋駄天スキルレベルを上げ鉄拳スキルレベル1を発動させることができた。そのおかげで少女を襲うゴブリンに会心の一撃を浴びせることに成功したが魔法石はあと二つ。それにここまで敵の数が多いと戦闘から逃れることも難しい。すなわち生き残るには戦うしか選択肢はない。


 幸いゴブリンたちはさきほどの一発に警戒してすぐには攻撃をしかけてこないだろう。しかし残された時間はわずかだ。


「あっあっ」


「しっかりしろ、きみは魔導士だろ!」


 私は一喝し少女の背中を右手でさすった。そして今度は優しく耳元でささく。


「私がきみに魔力を供給する。だから魔力を無理に練らなくていい、きみは回復魔法をうつことに集中するんだ」


「あなたはぁ……」


「魔導士ディーラー」


 

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