01 義妹の朝ごはん⇒兄( ゚д゚)んぐっ!?
俺、宮田 リツ(みやた りつ)の朝は遅い。
まず毎晩2時過ぎに眠るのが当たり前で、夜遅くまで起きているもんだから、朝は7時過ぎに起きる。学校が始まるのが8時から、学校まで30分かかるのでいつもギリギリの起床だった。
そのせいでいつも遅刻ギリギリ、おまけに生活指導の先生や風紀委員長に睨まれる毎日だ。
「(まっ自業自得なんだけどな)」
今日も例に漏れず、遅刻ギリギリに出ようと考えていた。
だって朝は苦手なのだ。明るい日の光、夢から覚める現実、朝の気だるさ、などなど。春だから余計眠いんだよな〜。
あと少しだけ、あと少しだけ眠っちゃおうかな〜。
そんなやりとりを頭の中で繰り返そうとしたその時、耳元でカンカンともの凄い音が聞こえてきた。
あまりの音に、俺は慌ててベットから起き上がった。
「な、なんだ!?」
手を構えながら辺りをキョロキョロと見る。するとそこには、小さな女の子が立っていた。フライパンとオタマを片手に、ニコニコと笑顔を浮かべている。
「おにいちゃん、おはようございます」
「き、京?」
「ようやく起きてくれましたね、もう起こすの大変だったんですからね」
プクーッと頬を膨らませながら、手を腰に当てて怒った表情をした。
いや、それよりも、えっ?
俺はパクパクと魚のように口を動かしながら、京に向かって指を差した。
顔からサーッと血の気が引いていく。
「えっきょ、京。どうやって俺の部屋に?」
「どうしたんですか? おにいちゃん」
「どっどどあ」
俺は驚いていた。
なぜなら、俺の部屋のドアには鍵が何重も付いていたからだ。
それなのに、京が目の前にいる現実が理解できなかったのだ。
俺の表情を不思議そうに見ていた京は、なにか納得したのかポケットから短い針金を取り出した。
「あぁそんなの、ピッキングしたに決まってるじゃないですか」
「はぁ!? ピッキング!?」
「はい! こうやってやったら簡単に開いちゃいました!」
針金を持った手をクルクル動かしながら、ピッキングをしている時の様子を実践してくれる京。
いやいやいやいや。
「お兄ちゃんの部屋にピッキングして入っちゃダメだからね!?」
「なんでですか?」
「なんでって、そりゃあお兄ちゃんにもプライベートの時間があるから……」
「だって、おにいちゃんの部屋に入らないといろいろできないじゃないですか」
「い、いろいろ?」
「おにいちゃんの寝顔を見つめたり、おにいちゃんのふとんにいっしょにはいったり、おにいちゃんのにおいをくんくんってかいだり……」
他にはっと言いながら京は、指を折り曲げながら俺の部屋に入る理由を数えている。
「あとは」
「もっもうやめてくれ」
俺はいつの間にかそんなことをされていた事実に恐怖を覚えた。
これ以上聞きたくなくて土下座をすると、京は「そうですね、まだまだありますけどネタバラシはやめておきましょう」っと笑った。内容は気になるけど、これ以上聞いたら恐ろしそうなのでやめておく。
「あっおにいちゃんそれより、朝ですよ。早く一階に来てください」
「……はい」
チラッと時計を確認すると、朝の6時30分だった。
「(めっちゃ早い時間に起こされた)」
「ほら行きますよ!」
「あっあぁ」
小さな手が俺の手を力一杯掴む。
俺は京に手を引かれるまま、一階に行ったのだった。
*
リビングに行くと、テーブルにはトーストと目玉焼き、ウィンナーにサラダといった軽食が並べられていた。
「さっおにいちゃん、たべましょう」
「でもあまり食欲が……」
「ダメです。食べないとメッ! ですよ」
「……」
ちなみにこれを作ったのは京だ。
京は料理上手で、俺はカップラーメンを作ることしかできなかった。
「(朝はいらないっていってるんだけどな)」
俺は朝に弱く、あまり朝ごはんを食べる気が起きないからいらないといってるのだが、京は毎朝俺の分の朝食を作る。
「いただきます」
「いただきます」
俺は近くにあったトーストに手を伸ばす。
口に入れるとサクッとした食感とほんのりとした甘味としょっぱさが舌に感じた。
どうやらトーストにはマーガリンの上からはちみつを塗ってあるみたいだ。甘党の京らしい料理といえた。
「(甘いもの苦手だったけど、なんか上美味いな)」
だんだんと京の好みの味に、慣れてきた。
モグモグと口を動かしながら、京のことをこっそりと見つめる。
宮田 京(みやた きょう)。小学3年生。
体力テストは全国レベル、100点を毎日とるくらい優秀、毎年学級委員をしている完璧美少女。
対して俺は平凡な高校2年生。イケメンでもなければ、取り柄も特技もなし。あるとすれば周りからは「リツくんって優しいよね」っと言われるくらいか。
そんな平々凡々の俺に対して、京は一目惚れをしているらしい。
京の秘密を知った日に、カミングアウトされた事実だ。まさか、俺に一目惚れしているとは思わなかった。
「(めっちゃ、気まずい)」
京とは一年前に知り合い、兄妹となった。初めて京を見た時は、こんなにかわいい妹ができるなんて思いもしなかった。
「おにいちゃん」
って呼びながら、まるで雛鳥のように俺の後に着いてくる京。どこに居たって、俺の後を追いかけてきた。
その姿がめちゃくちゃ可愛くて、それはもう妹として可愛がっていた。
そう、あの"秘密"を知るまではな。
京の秘密、俺に対して恋心を抱き、俺を支配しようとしていたという真実、独占欲を、俺はなかなか飲み込むことができなかった。
「(まさか、小学3年生がそんなことを言うなんてな)」
でも、そう言われてみれば納得できることがいくつもある。
俺は京を溺愛していたからその時は分かっていなかったが、京は妹になってから俺に引っ付いて離れなかった。
放課後家に帰れば離れないし、部屋やなんならトイレや風呂にまでついてこようとするレベルだった。
それにやたら京は俺の世話をしたがった。ご飯をあーんで食べさせようとしたり、服を着せようとしてきたり、風呂場に入ってきて背中を流そうとしてきたり……とにかく俺の身の回りのことをやりたがった。
おまけに俺の予定を全部把握したり……また京は情緒不安定で、よく泣く女の子だった。俺は泣くたびに京を甘やかしてきた。
今思えば、京の行動は度が過ぎている気がする。俺を支配する気まんまんだったのだろう。
「(よく気がつかなかったな俺!?)」
それに気づいてから、俺は京にどうやって接したらいいのか分からなくなっていた。
「おにいちゃん!」
「っ!」
「もぅ、さっきから呼んでるのにどうかしたんですか?」
「あ、いやそのー」
「ほら、早く食べないと遅刻しちゃいますよ!」
そういうと京はフォークを持ち、ウィンナーをブッ刺すとテーブルにうーんと体を伸ばし、俺の口元に持ってきた。
「はいあーん」
「いや、いいよ。自分で食べるから」
「遠慮しなくていいんですよ。ふふっ」
京は口に笑みを浮かべ、頬を赤く染めた。
「おにいちゃんが、わたし無しじゃ生きれなくなってくれるようにお世話してるだけですから」
「んぐっ!?」
「たくさん頼ってください、おにいちゃん」
口の中にウィンナーを勢いよく突っ込まれる。京はクスクス笑っていて、とても嬉しそうだ。
「(このままじゃ俺は、京に支配されてしまうかもしれない!?)」
なんとしてでも、京をマトモな考えにしないといけない。
朝ごはんを食べながら、心の中で決意をするのだった。
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