第7話
小テストが返ってきてから数日、
LINEを送ればしばらく経って既読が付く。
ただ返信は一向にくる気配もない。
担任に尋ねても何も知らないのかただ首を横に振るだけだった。
付き合う前も数日間学校に来なくなることはあった。
その時は具合が悪いのかなーくらいに思ってたけど、付き合うだけでこんなに不安になるなんて思わなかった。
軽い体調不良とかなら先生も教えてくれるよね?
そんな黙ってなきゃいけないくらい具合悪いの?
「ねぇ凪、スタンプでいいから返してよ」
「お姉ちゃん、なにしてるの?」
自分の部屋で独りスマホを握りしめていると、
しっかりと閉めていたはずのドアは開け放たれ、真保はドア枠に体重を預けていた。
「え、ねえ入るときはノックしてっていつも言ってるじゃん」
「ならこれでいい?」
彼女はストレスが
そんなことしても意味ないのわかってるくせに……。
「もういいけどさ」
「で、お姉ちゃんなにしてるの? そんな祈るみたいにスマホ握りしめて」
「ああ、これ?」
「そ、それ」
彼女は私がまだ握り締めていたスマホを指さす。
「なに? ライブの抽選でも申し込んだの?」
「う、うん。まあそんなところ」
さすがに真保に言うわけにいかないしね。
言ったところでどうにかなるわけじゃないし。
ただ私今上手く誤魔化せてるかな……。
ちらりと姿見に写った顔を見たが、笑顔を作っているつもりでも取り繕っているのがありありとわかる表情をしていた。
「ならいいんだけどさ、最近凪さん見ないけどどうしたの? 前は朝迎えに来てたよね?」
真保は話す気があるのかないのかわからないような態度で話しかけてくる。
自分から
まあいいや、指もしきりに動いてるし、話したい人でもいるんでしょ……。
適当に話して終わりにしよ。
「わかんない。なんか連絡取れないけど……、まあ元気にしてるんじゃない?」
「へー浮気とかされてないといいね」
「そんなことあるわけないじゃん。体調不良とかでしょ?」
「誰かに訊いたの? 体調不良って」
「訊いて、ないけど」
やめてよそんなこと言うの。
そのせいで死ぬほど不安になってるんだよ。
私真保になんかした?
これがキツイ冗談だと信じたいのに、片側の口角だけ上げて笑っている彼女の顔を見ると本当に冗談か疑ってしまう。
「どうするお姉ちゃん。会ってない間に誰かに盗られちゃったら?」
彼女は目が笑っていない作り物の笑顔でだんだんと距離を詰めてくる。
こんな真保今まで見たことないし、怖いよ。
彼女の後ろでギーっという音を立てながら閉まる建付けの悪いドアが、より一層恐怖感を増している。
「ねえ、私真保を傷つけるようなことなにかしちゃった?」
「別に? 自覚がないなら、なにもしてないんじゃない?」
彼女は私の前で立ち止まると
抵抗する間もなくさっきまで無味だった口の中が真保味になっていく。
「ね、やめよ真保」
彼女と距離を取るために腕を突っ張る。
ただ頑張って開けた距離も手首をつかまれすぐに詰められる。
なにを考えているのか理解しようとしても、冷たい目をした彼女からはなにも読み取れない。
「いたっ……」
強く握りしめられた手首が悲鳴をあげる。
力いっぱい腕を振ると思った以上にあっさりと真保の手は離れた。
ようやく解放された私は、力なく床にへたり込むので精いっぱいだった。
「やめたよ。満足?」
彼女は満足したのか、口の周りを拭いながら私を見下ろしてくる。
「そうじゃなくて……」
「ねぇお姉ちゃんは凪さんが今みたいなキス誰かとしてたら、それは浮気?」
「それは、嫌だけど……」
もし凪が誰かとと想像するだけで胃を強く握りしめられたかのように痛くなってくる。
ただ真保とキスをしてしまった手前認めることができない。
「嫌かどうかじゃなくて、浮気かどうか聞いてるんだけど?」
「そんなのわからないよ」
「だよね、ここで浮気って言ったら自分がしたことになっちゃうし」
「ちがっ、そういうわけじゃ」
彼女は床に座り込んだ私のボタンを外しながら話し続ける。
「けど大丈夫だよ、これは浮気じゃない。ただの練習」
「そんなわけないじゃん。やめてよっ。なにするの」
どんなに逃げようとしても、ここは狭い自室。
すぐに追い詰められてしまう。
それに今日の真保には力で勝てる気がしない。
「平気だって。練習だし。いざ凪さんとするときに失敗したくないでしょ?」
真保が話しかけてくる間も私の服は一枚、また一枚と脱がされていく。
全部脱がし終わると、真保自身も脱ぎだした。
頭では抵抗しなきゃとわかってるのに。
また真保から漂ってくる凪の匂いとキスが混ざって思考の邪魔をする。
「なら、浮気のがいい? そっちのが興奮するなら浮気でもいいけど」
少しひんやりとした真保の肌が今までにないような妖艶さを出してくる。
「だから浮気はだめだって」
「じゃあこれは練習。大丈夫だって私たちしか知らないんだから、誰にも言わなければバレないよ」
真保はもう一度唇を重ねると、そっと真保が耳元で
「凪さんがお姉ちゃんと会ってない間に新しい恋人見つけてたらどうする?」
「……やめてよそんなこと聞くの」
連絡が取れなくなってから、そういうのは考えないようにしてたのに。
「ほかに恋人出来たからちとせはもういらないとか言われちゃうんだよ」
「凪がそんなこと言うわけないじゃん。やめてったら」
「れど連絡取れなくなった時、考えたでしょ。このままずっと会えなかったらって」
真保は私の身体に自分の身体を密着させながら尋ねてくる。
もうやめてよ。
おかしくなりそう。
凪に対する罪悪感でいっぱいなのに。
脳は真保から与えられた刺激を拒絶しない。
刺激に耐えられなくなりそうになり真保の身体をぎゅっとつかんだ時、乱雑に散らばった服の中から通知音が聞こえてきた。
この音は私じゃないはず。
真保はスマホを見つけ出すと、すぐに画面に目を落とす。
その直後彼女の小さな舌打ちが聞こえた気がした。
ただ真保の頬にはさっきまでなかった、涙が伝ったような跡もあるような気がする。
彼女は少しだけ満足そうな笑みを浮かべると、私を見下ろして言った。
「ごめんお姉ちゃん用事できた。ちょっと出かけてくる」
彼女は脱ぎ散らかした服に袖を通しながら「10時までに帰ってこなかったら多分友達の家に泊るから心配しないで」と付け加えた。
「あ、うん。わかった」
「じゃあね」
「いってらっしゃい」
気を抜くとさっきまでの真保の体温が戻ってきそうになる。
部屋の中になんとなく漂っている凪の香りのせいもあるかもしれない。
あれが嫌じゃないと言うと
ただ凪とも連絡が取れず、全部中途半端な感じでやめられたと思うと、「全部終わりにしてから出かけてよ」と言いたくなってしまう。
妹にこんなこと言っちゃいけないのはわかっている。
それに凪を裏切っていることも。
けどその
「……シャワー浴びようかな」
同じく部屋中に散らばっていた私の服を集めるけど、なにかいろいろと足りない。
その代わりにさっき真保が着ていた服が何種類か混ざっていて、丁度コーデのようになっていた。
「ってことは」
いくら私でもシャワーを浴びたぐらいでこの火照りが収まるとは思えなかった。
それだったら……。
泊るかもって言ったってことは真保が帰ってくるのはだいぶ後になるだろう。
こんな時に限ってさっき言われた「大丈夫これは浮気じゃない。ただの練習」というセリフが頭をよぎる。
いやだからって駄目なものは駄目でしょ。
頭に浮かんできた最低なイメージをかき消すかのように大きく頭を振る。
ただよほど真保に植え付けられた感覚が強いらしい。
どんなに消そうとしても頭にこびりついたものはどんどんと増殖してくる。
「けど……。これは練習」
誰に言うわけでもなく言い訳のように独りでそう
すぐにさっき真保から漂ってきた香りが私を包み込んだ。
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