#36 【重大発表】

 ビビッドレッドの肉が連なるダンジョン内。

 名も知らぬ花の臭いが立ち込めるそこを一心不乱に進み、ミティアを救うための手立てを探るが。


「……お前」


 肝心の義妹は壁を背にして座り込んでいた。

 だが顔色は悪いし、さっきのラップバトルで受けた言葉のダメージで身体もボロボロだ。


「……この肉壁はフェイクか?」


「やっぱり、分かっちゃうか」


「どれだけオレがダンジョン攻略してきたと思ってんだ」


 思い返せば、ずっと支えてくれたよな。

 最初は直向きで必死だったくせに、いつの間にか冷静にマネージャーを出来るようになって。

 カメラ回ってないけど、オレ今どんな顔してんだろうな。


ボスたおせば、祖国ダンジョンきえるよ」


「……わかってる」


「アリヴァは、国の皆から喝采を浴びるんだよ」


「んなもんもう要らねえよ!!」


 そこにお前も居なきゃ意味がないんだよ。

 ……だけど。


「お前を倒さなきゃ、ミイラになった国民は。そして、ヒンデガルトは」


「そういう、こと……どのみち、私を殺すなら、今しかない」


「ッ……!」


 分かってはいるんだ。

 それでもカットラスを握る腕に力が入らない。


「っ、やっぱり帰ろう。オレ達は」


“アリヴァ”


「ッ……!」


 威厳のある女王の声がオレの背を押した。

 そこに広がる未来を目にしてしまったから。


「やっと、私を終わらせて、くれるんだね」


「……ああ、ダンジョン製作者エム。いま、冥府へ堕としてやる」


 彼女の首を締め上げる。ゆっくり、そして丁寧に命を摘み取るように。

 身体が渇き果てるような感覚を覚えたが、ミイラだからと言い聞かせ続ける。


 オレを愛してくれる者の声を脳に反芻はんすうさせ続けていると、やがて肉壁が塵のように朽ちてゆき、そのまま大地へと還っていった。


〜〜〜〜〜〜


「……」


 温度が無くなった義妹を抱え、機械のように仲間のもとへと戻っていった。

 祝福も呪詛も無く重い空気だけが流れていた。盛り上がっているのは、画面の向こうの人たちだけだ。


「アリヴァ。ミイラ達は、大丈夫だ」


『お、俺は何を……?』


『街がボロボロ……って何だこの服!?』


『腹も減らない、喉も渇かない、何だこれ!』


 どうやら自我を取り戻してくれたようだ。

 先のバトルが呪詩代わりになってくれた、そう信じることにした。


「……ダンジョンは攻略され、ヒンデガルトの国土は元の姿を取り戻しつつあります。ですが」


「失った物は戻ってこない。政治家どもは我先にと逃げ出し、その姿が全国に配信されてしまった」


「ええ。インフラもボロボロ、少なく見積もっても国民の3割は魔物モンスターと化した。国際社会からの孤立は避けられないでしょうね」


「……」


 もう動かなくなった少女に目をやる。

 そして平らな地面に優しく寝かせてやり、ネフェタルに問いかけた。


「カメラ、まだ回っているよな」


「当然。妾とて、配信者の端くれじゃ。姿


「……教えたこと守ってくれて嬉しいよ」


 やっと少し笑えた気がした。

 もう、こうなった以上オレが出来ることはひとつしかない。


「じゃあネフェタル。頼みがある」


「全て理解しておる。その代わり」


「ああ。オレは女王の奴隷だからな」


 浮遊するカメラフォンを此方へと向け、背にミイラを映す。

 そして息を深く吸った。

 これから向けるのは、全世界への重大発表なのだから。


「ご覧の通り、この国を無茶苦茶にしたミティア・リオネクは討伐した。奴に変えられたミイラも、オレ達の呪詩によって制御できる」


“どうした急に”

“タイトルが【重大発表】ってなってる”

“え、何が始まるの?”


「……そしてヒンデガルトは、国としての体裁を失った。だが空いた玉座には誰かが座らなければ、その地に住まう人間が、そしてミイラが迷ってしまう」


 ネフェタルがバズって影響力を持ってくれたんだ。

 だからこれは、オレが思いつき得る最適解。

 混沌をいち早く鎮め、義妹の死を無駄にせず、かつオレ達の大願を叶えるため取れる最良の選択だ!!


「よってここに。人とミイラが共生する国家、メフィストの建国を宣言する!!」


 そして、この日。

 オレとミティアは、世界の在り方を変えてしまった。

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