#35 待たせたな、オレのステージだ!!

「決着? いまの状況わかってるの?」


「ああ。数千、数万のミイラが囲んでやがるな。けどこれ全部対処できるの、分かってんだろ」


「【アリヴァを襲え】」


『グォオオオオ!!』


「〈セット:聖水〉」


『グゥウ……!?』


 ミイラは聖なる力と火、それと水に弱い。

 だから市販の聖水を効力マシマシで円状に振り撒くだけで即席の結界代わりとなる。


「やっぱり通じないか」


「これで舞台ステージは確保したぜ。親母オヤバもしっかり、DJブースに撒いてるみたいだしな」


「もう戦えないけど、戦いを避けることくらいは出来るからネッ」


「アリヴァ! ビートはどうする、オジサンでもわかるようなモンで頼みたいんだけ」


「どけ」


「どぉわっ!?」


 突然、アブドゥールさんが引き摺り下ろされた。

 ミイラにやられたかと少しヒヤっとしたが、魔物モンスターよりも恐ろしい女……カムナがオッサンの代わりに席を占拠していた。


「アリヴァ様の趣向は考えずとも分かるようにしろ。でなければ言葉を交わすことも許さない」


「一介のファンが許すことじゃないでしょ。アブドゥールに乱暴するなら出禁にするわよ」


「お、親母殿!? これは大変な失礼を!」


 ああ、やっぱり親母のことは知ってるのね。


「しかし、ここはカムナめにお任せを。BPM150以上のエレクトリックビート、それもアリヴァ様を完全サポートする形でキメてやります!!」


「勝手なこと言わないでちょうだい!」


「いいや、大丈夫だ! 今はとにかく時間がない、頼む!!」


「はいっ!!」


 返事と共に響くは音速のドラムンベース、メジャーには遠いが刺激大好きな若者にウケる疾走感満載のビート。

 BPMでいえば160はあるだろう。


「っ……」


「ちと速すぎるか? エレクトリックでエスニック、少しでも気を抜けば乗れずに流されちまいそうだろ」


 やっぱカムナ分かってんじゃん。オレはこれくらいヤバくないとキマれないんだ!!


「さあ着いて来れるか!」


「ここは私のダンジョン、再び英雄を手中に……!!」


 ミイラのボルテージも上がってきた。行くぜ!


【お待たせ視聴者、オレ降り立った 最強の配信者がダンジョンを踏破

 製作者気取りのミティアも撃破 裸の王様晒すは無様

 保護者気取りが犯罪者 なら今度はオレが守ってやるぜ義妹様

 さあ刮目しなミイラの皆様 見せてやっからオレの生き様!!】


【生き様? 何様? 貴方様はもう 7年前には死に様晒した

 私が居たからダンジョン潜れた 貴方1人じゃオワコンなってた

 死んでも愛してあげるよ配信者アリヴァ ミイラの国ここに作った、だから

 耳かっぽじって聞いて理解して義兄アリヴァ 貴方は私だけの英雄様!!】


【Heyオレ様はずっと探索者 いま皆様のための配信者

 オレ1人じゃオワコンなってた? ああマジで感謝してるよ視聴者

 ミティアはいつも言ってた 「視聴者を裏切る行為は絶対するな」

 だからオレは裏切らねえみんな けどお前いま何やってんだ?】


【私は昔からダンジョン製作者 だから祖国でダンジョン作った

 別に後でも良かったネフェタルが 全てを私から奪っていくまでは

 だから早めた国滅ぼした! 私復讐者、ぜんぶアイツのせい!

 そもそもお前が勝手に死んで 裏切ったのが――】


 ……もう限界だろ。

 もう辛いだろ。

 もう、同じ屋根の下で過ごした兄妹で言い合いたくないだろ。


 分かるよ。お義兄ちゃんだからな。


【――ゎ、わ――】


 ミティアの手からマイクが滑り落ち、それを追うように膝から崩れる。

 まだ2セットある。けど、もう十分だろう。


「もう、楽になろうぜ。互いに」


 情けないよな。

 裏切らないとかほざいたのに、カメラの前なのに、笑顔を作れないんだからさ。


「……アリヴァ様」


「だめだアリヴァ、ソイツに手を伸ばしちゃ」


「お黙り、だからモテないのよヴァナタ!」


 外野のノイズは、静まり返ったステージには響かなかった。

 今ここに居るのは、意地だけは世界一なただのガキ2人だから。


「帰ってさ、黒パン食べようぜ」


「……ぃゃ」


「――!」


 しかし、伸ばした手をパシッと払われてしまい。

 ダンジョン製作者エムがマイクを握り直し……いや、ナイフを持つように握りしめ。


【全てを、終わらせろ――!!】


「馬鹿、おまえ何を――!!」


 貫いた自らの心臓を中心に、溜めに溜めた負の感情を渦巻かせ。


「させない。絶対に!!」


 みるみるダンジョンへと変わりゆく義妹へ、オレは無我夢中で手を伸ばしていた。

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