#33 呪詩vs祝詞 ガチマッチ

「ラップバトルのルールは知っているわね?」


「何じゃそれは!?」


「貴女の時代には無かったの? 呪詩じゅし使いの戦いは、より強く、よりリズミカルな言葉を放ち、魂を震わせたほうが勝つと解釈しているけど」


「おお、そういうことか。理解したぞ!」


「それがラップバトルよ。ミイラ達のバイブスを上げて、忠誠を誓わせた方の勝ち。時代は違えど魂の本質は変わらない、なら呪詩でも祝詞に勝ち目はあるわ!!」


“より強い言葉をうたったほうがミイラを従わせられるってこと!?”

“あとバイブスも大事っぽい!”

“それさっき言った”

“ワイらも審査員ってことでええんか!?”


「……はぁ。それに私が従う理由も意味もないんだけど。祝詞ギフテクスは呪詩の実質的な進化系であり上位互換、この優位を捨てるわけないでしょ」


「それはどうかしら」


「ん、不死アンデッド共の様子が……?」


『ネフェ……タン……バンザイ……』

『カオガ……イイ……』


「っ!?」


「ミイラにも魂はあるでしょう。そして性癖フェチズムがネフェタル寄りとなったら、祝詞だけでは縛れない」


「……ッ」


“ボスがマイクを投げた!”

女性キャット決闘ファイトの始まりだ!”


「ディムル、携帯用DJセット引っ張り出してきた!!」


「でかしたわ。さあ準備なさい」


「お、おう!」


「……騒がしいようだけど、私が貴女如きに負けるはずがない。徹底的に叩き潰して証明してあげる」


「女王に挑むか。それが蛮勇でなければ良いな?」


「ここは私の造ったダンジョン。支配下にあることを忘れないで」


「はて、此処は元よりメフィスト王国の国土だったはずじゃがな?」


「そこは譲る気なさそうね。ならば先攻ネフェタル・メフィ・アスラー・エヌ・オ。後攻ミティア・リオネク。DJはアブドゥール・マタで8小節よ。ネフェタル、貴女の奴隷を取り戻して来なさい!!」


「お膳立てされた舞台に立たぬは戦士の、そしてメフィの恥。征くぞ!」


 ……暗転した視界と意識に、ザザザッという砂嵐のようなノイズが走る。

 鼓膜を揺らすのは、アブドゥールさんが若い頃に流行ったようなスローテンポのビート。

 対峙する両雌を囲み、腕を上げるミイラ達。


 くっ、ダメだ。今どうなっているのか全くわからない……!


【我が名はネフェタル メフィストの王!

 死者、生者、戦士 全てを統べる!

 我が敵を討つべく英雄の力を メフィの王たる我が受け継ぐ

 さあ覚悟せよ、悪鬼悪魔よ 正義の前にひれ伏すと知れ!】


インオンも知らないお口は最初ハナから 落第アウトってこと知ってますかぁ?

 小節ステップも踏めないボーカルも下手 こりゃ傑作だ舞台ステージに立つな

 「私が敵?」なら私は無敵 雑魚のノイズを受けてもノーダメージ

 ほら国民リスナーを見ろよ炎上してるよ? 「顔から火が出た?」ならここからユア出ていけファイア!!】


【貴様の法など知らぬ存ぜぬ! 我が従うは受け継がれし戒律!

 歴史、伝統、戦争を経た王道! 研磨された金剛石ダイヤの如き財宝!

 王が紡ぐは英雄の讃美歌 メフィの誇りと国土を讃える

 そんな魂魄に刻まれたうたを 小娘如きが理解できるか!】


【数千年もの眠りでボケて 頭が干からびちゃったのかな?

 進化も変化も無かったミイラは 世界の変化が分かってないな?

 メフィスト滅びたヒンデガルト建った ミイラを従えた私が主君だ

 お前の玉座は塵芥になった カビた売女ババアは砂漠に還んな!!】


「ウオオォォォ!!」


 まずっ、声と拳が勝手に天を……!


『ウォオオオオ!!』

『ウオオオオッ!!』


「ぁ、なぁっ……ぐぅううう!?」


“うおおおおお!!”

“やべえ敵のが盛り上がってるwww”

“女王肌がヒビ割れてる、オワタ”

“あまりにも不利マッチw”


 少し頭は回るようになったが、ダメだ。身体も心もミティアに傾いて覆せない!

 ネフェタルの詩は古すぎる、格式や抑揚ばかり重視してコンボ流れリズムを無視しているから現代死人オレらに全く刺さらないんだ。

 対するミティアはヒップホップ、スラム上がりの本場仕込み。絶滅した文化とイマ流をぶつけたら、そりゃ0:10で勝つに決まっている!


「どうしたの? 心も身体も壊れちゃった?」


「言葉に、ここまで、力を乗せる者が居ようとは……!」


「ノリもテンポも壊滅的、韻も全く踏めてない、そんなんじゃ誰も着いてこない、お前はここに立つ資格なんてない」


「……まだ、勝負は、ついて……!」


「いや決まったようなもんだろ! ディムル、どうすんだよこれ!」


「大丈夫。ミティアあの娘は昔っから真面目で徹底的だもの、完全に敵を打ちのめすまで辞めないでしょう。それ故、邪悪な目的を見抜けなかったヴァタシにも責任はある」


「だから、少しでもサポートをってか……?」


「そうよ。呪詩も祝詞も使えないヴァタシ達に出来ることは、ネフェタル女王に有利な展開を作ってあげて、あとは天に任せるしかない」


 ダメだ、ブレイクタイムで、また意識が……


「何がある……まだ、勝ち筋は」


 ……ネフェ、タル……


「……あった。奴が忘れているであろう、最も大切な極意が」


 ……頑張れ、今は、それしか……!

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