#32 上位互換に勝つために

“1コメ”

“さっきの続きだから1コメじゃないぞ”

“どうなってんの!?”


 弾幕をかわすのに精一杯で、コメント欄を見ている余裕なんて無かった。

 銃を乱射するダンジョン製作者、そして周囲から迫り来るミイラ達。


「ミイラ化したとはいえ、意識を操られているだけだよな。なら」


「完全に滅するのは愚策か」


 まだ完全に死んだわけじゃないんだ。

 オレ達だってミイラなのにアイツらを亡骸ごと葬ってしまったら、国土ヒンデガルトを取り戻した後どうするんだ。

 危険な魔物モンスターとして処理されるだけではないか?


「取り巻きを処理しないなんて、私の英雄アリヴァは何処に行ったの」


視聴者リスナーのことも考えろ、いつものお前ならそうしてたろ!!」


 距離を詰めカットラスを振るっても、手癖を完全に読まれて当たらない。

 それどころかミイラ達を殺せないことを理解しているせいで、間に配下を挟んで斬れないようにしてきやがる。


英雄お義兄ちゃんを返せ!!」


「っぶねえな!?」


“兄妹喧嘩かよ”

“国巻き込んでんじゃん”

“というかヒンデガルトこれ大丈夫なん?”


 大丈夫なわけねえだろ、ミティアの対処ですら精一杯だってのに!!


(こんなにアイツが強いなんて思わなかった。オレは何を見ていたんだ、いやずっと隠していたのか?)


 戦闘経験値は遥かにオレのが多い。

 だが、彼女はオレへの対策が完璧だった。おかげでどんどん癖を突かれ、その上を行こうとしても先回りされる。

 紙一重を繰り返し、まだ無傷で済んでいるのが奇跡なほどだ。


『グォウ!』


「っべ!?」


 嫌な予感ほど的中するものだ。

 退路から迫り来る2匹の不死アンデッド、それを避けるには跳ぶか前に出るしかない。

 そして銃口は既に向いている、弾を斬ろうにも体勢が悪い!


【我に従え 亡者ども】


『グゥウウ!?』


「っ、ネフェタル!」


「連中がミイラであらば妾が支配しよう、さあ征け!!」


「サンキュ、今のうちに!」


 渾身の一発を避け、そのまま急発進して距離を詰めた。

 何度目かのチャンスだ、もう逃さない。

 義妹の想定を、ずっと見てきたであろう姿の上を行く!!


「そう、思っているんでしょ」


「えっ」


 だが彼女は余裕の表情で。


【動くな】


「ッ――」


 タタタッ。


“えっ”

“は?”

“撃たれた……”


「アリヴァ! なぜ止まったぁ!!」


「決まってるでしょ。私のタレントスキルを忘れたの……ああ、説明中は操られてたんだっけ」


「っ、まさか呪詩じゅしと同様の」


「そんなカビの生えた技術と祝詞ギフテクスを一緒にしないでよ。死した者たちを操るだけじゃなく、生を与えられるのだから」


「上位、互換……!?」


「何千年も前の風化した技術とやらじゃ、現代の技術スキルには通用しないってこと。進化も進歩もしていない貴女に、敵う術は」


「あるわ」


「貴様は、アリヴァの親母オヤバとやら」


「ディムルだけじゃねえ、アブドゥールも居るぜ!!」


「来たんだ。生かしておいたのに」


「最悪の事態が起きてしまったようね……貴女を保護したヴァタシにも責任はあるわ」


「何でも良い! 敵う術とは何じゃ!!」


「貴女の呪詩スキルよ」


「っ!?」


「はぁ?」


“???”

“どういうことなの……”


「おいディムル、つまり」


よ。アリヴァの、そしてヒンデガルトの命運は、貴女のバイブスに賭かっているわ!!」


「っ!?」


「そんなもので私の支配から逃れられると?」


【……アリヴァ……】


 っ、ネフェタル……。

 頼む、お前が、頼りだ……!

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