#31 お前のための最強じゃない

 用意された玉座、そしてミイラの配下。

 ダンジョン製作者エム改めミティアは、祖国を滅ぼしてまでオレを首領に押し上げようとしていた。


「これを、お前が?」


「そうだよ。アーに教えてもらった方法で、一斉にヒンデガルト国民をミイラ化したんだ」


「そんな理由で裏取引しといて、アブドゥールさんをあんな目に遭わせたのか」


「アレは私にとっても想定外だったし、元々禁止していたことだった。だからフィリカ大陸テリトリーから出禁にしたんだけどね」


「なるほどな」


 ため息しか出ない。

 色々なものに苛立ちすら覚える。


「……応じる気、ないの?」


「オレの気持ちが分かるくせに、こんなことをしたんだ」


「そっか」


 パン、と手の鳴る音がした。

 それに釣られて、意識が飛ぶような感覚に陥ってしまう。


「元は私のミイラだったんだ。この女を介して所有権を奪い返せば、意のままにできるんだよ」


「それでもやらないのは温情、ってか」


「あくまで『自由意志』に任せたいからね」


 なにが自由意志だよ。ほぼ強制じゃねえか。


「物心がついたときから何もかもどうだってよかった。言われるがままダンジョンを作って、本当の故郷まで壊れちゃって。そんな私を、私の運命をぶち壊してくれる英雄……アリヴァに、全て任せたいから」


「お前、無茶苦茶すぎだろ。よくオレや親母に悟られなかったよな」


「それ以外はどうだっていいもの。集中のリソースを全部嘘に割けば簡単」


「どうでも良くねえよ」


 やっと、真っ直ぐな言葉を出せた。

 これだけは真実として、突きつけられる。


「嘘ってのは借金みてえなもんだ。一瞬でも吐いたら一生吐き続けなければいけない、そのくせツケはドンドン膨らんでいきやがる。オレはな」


「っ?」


 セット、黒き次元門の鍵爪カーラ・ストラ


「大切な義妹に、もうそんな負債を背負わせ続けたくない」


 ミティの後ろにある有り難みをひとつも感じられない金ピカな玉座を、一振りで空間ごと両断する。


「お義兄ちゃん……ッ!」


「この神器の効果は知ってるだろ。配信は終わりだ」


 今ごろ映像が乱れに乱れまくっているだろう。

 視聴者たちには申し訳ないが、ここに居るのは配信者ではなく1人の男。


「家族を返してもらうぞ」


「やれるものならッ!!」


 パンッ。

 その音が響くと同時に、エムへ向けていたはずの刃がオレの左腕を飛ばしていた。


「痛く、ねぇな」


「そりゃそうだよね、アリヴァは私のミイラだもん!!」


「お前の心の痛みに比べりゃあなッ!!」


「うるさいッ、私のこと知らないくせに!!」


 右脚が飛んだ。


「知ってるのは、泣き虫だったくせに、凄くしっかりして、頼りになる義妹ミティアの姿だけだ!!」


「やっぱり知らないじゃん!!」


 首が飛んだ。

 意識まで飛びそうだが、なんとか頭を転がすことはできる。

 そして口が動くなら。


「ここに居るのは、ダンジョン製作者じゃなくて。オレの大切な家族だろ」


「ッッ!!」


 これだけは伝えたかった。

 もう頭を貫かれてもいい。やりたいことは全て成したのだから。


 スゥ、と息を吸う音が聞こえる。


【よくぞ現世へ降りられた 現人神たる英雄よ】


 その後には古の詩が続く。

 つられてミイラ達が踊り、狂い。


【彼の名を唱え 祝え 騒げ 永劫までその骨肉を謳い継げ】


「っ、このカビで覆われた歌は……!」


 兵たちは祭壇へ差し出すように俺の生首を、右腕を、左腕を捧げ。

 カットラスを握る身体へと付け直し、聖なる灰が舞い上がる。


「魂に刻まれたビートが、聴こえる……!」


「面妖な術を一身に向けた手柄、褒めて遣わす。さあ復活の時ぞ、アリヴァ!!」


 五体満足で復活だ。頭も冴え渡っているし、干からびたはずのアドレナリンみたいなものが脳に満ち満ちている。


「私の英雄ミイラを返せ……!!」


「妾の偉大なる奴隷ミイラじゃからのう。貴様なぞにくれてやる道理はないわ」


 さて、そうなりゃやることは1つだ。

 次元も戻ったことだし、配信用のカメラフォンを起動する。


「このダンジョンを攻略するぜ、女王様」


「うむ。共に征くぞ、愛しき奴隷アリヴァ!!」


 こっからは未登録ダンジョン配信の時間だ。

 最強かつ最高の方法でクリアしてやる!

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