#29 ヒンデガルトを取り戻す

「アリヴァ様、もうじき目標地点に到着します」


「っ、ああ」


 ヒンデガルトへ帰るまでの1時間が、この世で最も長い時間に思えた。

 その間も目を伏せ深呼吸することしかできなかったため、カムナの報告を耳にした瞬間、身体がビクッと跳ねてしまった。


「……差し出がましいようですが、ご準備を」


「だな。覚悟を、決めなきゃだ」


 気を遣わせてしまっているな。

 だけど目の前にダンジョンが広がっている以上、やるしかない。


「……外観はいかにもって感じの古代建築になってるな。少なくともヒンデガルトや、現代フィリカに使われていたものじゃない」


「石造りですが風化が進んでおりますね。故に着陸ポイントには注意しなければなりません」


「いざとなったら、天馬の蹄靴で空飛びながら突入……なんてことも考えなきゃならないな」


ゴールド箱からしか出ない貴重品ですよ!? 特務課は常備しておりません!」


「なら貸してやっから。カムナちゃんが頼りなんだし」


「フ!!?!?」


 すっごい声出たな。顔もめちゃくちゃ赤くなってるし。


「なななならば私めがお借りさせていただきますぅ!! 宝船に乗った気でいてくださいまし!!」


「宝船……?」


 カムナちゃんの国で使われてる例えスラングだろうか。いまいちピンと来ないが自信満々ってことなのだろう。


「職員カムナビ、着陸可能地点を発見しました」


「了解。応援は?」


「あと15から30分ほどで到着するとのことです。他の着陸ポイントのデータは共有済みで、円形に広がるダンジョン化も抑えられるよう」


「待て、何か来ている!」


 ミサイルや鳥とは異なる黒い影が雲を突き抜け、超スピードで迫っていた。

 ヘリを横切るソレを理解し、カムナが叫ぶ。


不死アンデッド型の魔物モンスター!?」


「まるで砲弾みてえにバカスカ飛んで来やがって!」


 こちらもレーダーに映ったゾンビ砲弾を迎撃こそしているが、数が多すぎた。


「くっ、直撃……!」


「対処しきれません、墜落します!」


「操縦手、セットスキルはどれくらい使える!?」


「このヘリを動かせるくらいには!」


「オーケー、なら緊急避難だ。後で返せよ!」


 天馬の蹄靴は丁度3つ、これが壊れたらおしまいだ。

 この砲弾の中じゃ、パラシュートも役に立たないだろう。

 燃え盛るヘリに別れを告げ、覚悟を決めて空を蹴り、魔物モンスターの群れを見定め、辛うじて安全と言えそうな足場目掛けて身を投げ出す。


「空を走れるコレも万能じゃねえ、Gに負けたらぶっ壊れて冥府行きだぞ!!」


「回避は最小限、訓練で習ってます!」


「ひ、ひぃいい!」


 ダメだ、操縦手はパニックになっていやがる!

 仕方ない、彼を抱えて砲弾を避ける!


「フッ、ハァッ!」


「そんなに動いたら靴が!」


「大丈夫だ、オレのセットスキルなら数十秒くらい持たせられる!!」


 これでも最強で通っているもんでな。

 少し無理な動きだが、耐久性もブチ上げて必ず守ってみせる!


「着陸まであと10秒、ここで踏ん張れば!」


「ああ、それで落下のダメージを減らせ」


 バサッ、と嫌な音が響いた。


(っ、やっぱ無理があったか、オレのが壊れた。でも操縦手のヤツがある!)


 だが変えている暇はない。ならば!


「あと3秒!」


「うわああああっ!」


「すまねえ、足借りるぞ!」


 もともとコレはオレが貸した靴。

 骨折するかもしれねえが、我慢してくれよ!


「〈セット:天馬の蹄靴〉!!」


 錯乱する操縦手の足を掴み、道具扱いにして空気抵抗を限界まで抑える!


「っ、よし生きてるな!」


「ぁ、ぁ……」


「着陸成功……ですが、敵のど真ん中です」


「靴も壊れた、離脱は不可能。ん、着信……ネフェタルから!?」


 ゾンビのような魔物たちを抑えつつ、スマートフォンの情報を共有する。


「場所は……ちょうどダンジョンの中央部辺りです!」


「議事堂の辺りだ。配信してんのか……つまり」


 取り戻したければ、来いってこと。

 ゾンビの群れを後方へと吹っ飛ばし、頼れる味方へと叫ぶ。


「すまん、ここは任せていいか!?」


「当然。どうかご無事で!」


 コイツらはせいぜいS級程度、ならカムナちゃんでも余裕で御せる。

 一刻も無駄にできないため、壊れた蹄靴を踏み締め議事堂の方へと駆け出した。

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