#27 この日、世界が終わりました
アーが敗北を理解すると同時に、コロセウムが朽ちてゆき廃墟と化したロマネスの風景へと戻っていった。
これにて
「この人型ダンジョン、元に戻さなきゃな……!」
ダンジョン製作者がロマネス国民を生贄にして築き上げた、生きた迷宮。
悪意を持ち、また
アブドゥールさんのときも骨が折れたのに、いまの弱体化しているオレが全て片付けるなんざ、とても現実的ではない。
「それでも、やらなきゃだよな」
最強の名を冠する者としての義務だ。未登録ダンジョンは攻略しなければならない。
気合いを入れ直し、ネズミの小槌を取り出して突入しようとした、そのとき。
「大丈夫です、アリヴァ様」
「カムナちゃん……お前、心は大丈夫なのか!?」
「アリヴァ様が原因を排除してくださったおかげです。職員リキも平静を取り戻しました」
どうやらダンジョンとなっていなかった2人は無事だったようだ。
それだけでも一安心だが、そうも言ってられない。
「いえ、ご心配なく。だって」
オレの不安げな表情を見てか、カムナは自信を奥に隠した微笑みを向け、告げる。
「カムナは、アリヴァ様の大ファンですもの」
瞬間、彼女の後ろからスーツを纏った10名のエージェントがバッと飛び出した。
そして目まぐるしい勢いで人型ダンジョンの動きを制してゆく。
「いつの間にこんな……!?」
「影が人型ダンジョンだと発覚した時点で、応援を要請しておりました。アリヴァさんと職員カムナビが
「君たち有能って言われたこと何回ある?」
これが、国際機関お抱えの特殊部隊。
しかも他にも課があるのだ、改めて世界のダンジョンを管轄している組織の力がどれだけ大きいか思い知らされてしまった。
「アリヴァ様の人型ダンジョン攻略RTAは目に焼き付けているな」
「いや、仕事が忙しくて……」
「それな、カムナビじゃないんだし」
「ならばミティア・リオネクから納品された攻略レポートは!」
「それには目を通しております!」
「仕事なんだし、今後にも使えるし!!」
視聴者が少ないのは残念だが、まあ
現に号令を待つ間もなく、各個が作戦を理解し合い陣形を作り始め、そして考え得る限りの最適解で攻略を始めたのだから。
「1箇所にダンジョンを纏めて縛り上げて、1つのダンジョンにつき2人で突撃。それも一気に3、4個の
「よくお分かりで。中には我々が何をしているか分からないが故、批判してくる方もいらっしゃいますから」
「アリヴァ様をそんな愚か者と一緒にするのは失礼だぞ、職員リキ」
「はは、これは失礼」
こう返しながらも、リキは人型ダンジョンのナビゲートを、そしてカムナちゃんは胴と脚が泣き別れとなった少年の調査を行なっていた。
この人たちは英雄と呼ばれたことしかないのではないだろうか。
「照合が取れました。ダンジョン製作者アー、本名アーノルド・バーンシュタイン。一国の代理士の家系に生まれ育った11歳の少年です」
「そうか」
罪悪感はある。コイツが許されない罪を犯したとはいえ、まだ年端もいかない子供を手にかけたのだ。
夢を与える配信者が聞いて呆れる。
「……は、はは」
それでも、腰から下を無くした少年は笑っていた。
どうやら回生したくても、出来ないらしい。先ほど放った一閃は次元を切り裂く、故に二度と回復は出来なくなるのだ。
そんな無様に対する自嘲か、それとも。
「お前は終わりだ。せめてこれ以上苦しまずに逝かせて、両親に遺体を届けてやる」
「構わない……息子をダンジョン製作者に、祀り上げるような親だ。それに」
「それに?」
「僕の役目は、果たした。大物が、こんなにも釣れたのだから」
「お前、なにを言って」
「ヒンデガルトを見てみろ。いま、大変なことになっているぞ」
苦痛と恐悦に顔を歪ませたアー。
齢11のガキとは思えない迫力に気圧されたのか、言われるがままカメラフォンを取り出すと。
“……”
「ネフェ、タル……?」
「僕たちは囮に過ぎない。本命は、エムだ」
エム。名前の響きからして、コイツもダンジョン製作者か。
それよりもカメラの前で項垂れ動かないネフェタルが気になる。ミティもマネージャーとして立っているはず……
いや、待て。
ミティアは、どうした?
「大変です、ヒンデガルト全域にダンジョン化反応。すぐに戻らなければ!」
「……嘘だ、そんな」
理解が追いつかない。いや、理解したくない。
そんなオレの様子を、嘲笑うように。
「祖国がダンジョンとなった今、君の選択を地獄で見届けさせてもらうよ!!」
人を迷宮に変える悪魔は、命の灯火を燃やし切った。
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