#26 くそつよカットラスってことにしといてください

 周囲に目をやると、カムナがいまにも破裂しそうな頭を抑えてながらうずくまっていた。

 なるほど、術中にかかっていたのはオレだけではないようだ。


「待ってください、必ず鑑定エニシングハックは会社の役に立てます、どうか追放クビだけは!」


“ごめんブルー、ずっとゲーム借りたまま返せてなかった……ごめん、本当に!”


 ……逆にどんな幻覚を見てるの?


「ともかく、お前の能力は『後悔にちなんだ幻影を見せる』もの。こう乱れ切ったところを、何らかの手段でダンジョンへと変えるってとこか?」


「ピンポーン。僕のタレントスキルは『回想リメンバー』、なにかを思い出させる能力さ」


「随分と大それた能力じゃねえか」


 そう駄弁っているなかで再び能力を使われたら厄介だ。

 周囲の人型ダンジョンと共に、サソリの麻痺毒を含んだ針を飛ばして足止めを試みる。


『ブフゥゥ!?』


「っ、危ないなぁ!」


「ダンジョンを足止めできりゃ十分だ、それに」


 フードが死角を作ってるぜ。

 おかげで傍を簡単に侵略できた。


「しまっ」


「断罪の時間だッ!!」


 奴がかわすよりも速くカットラスを振り抜き、胴部から真っ二つに切り裂いてみせた。


「……いや、カムナが復活してない」


 やったか、なんて言えない。

 手応えはあったが、決定打ではない。野郎、こんな能力の使い方もしやがるのか。


「思い出したな。姿


「凄いね探索者くん、これで君がつけた傷は無くなったというわけだ!」


 小馬鹿にしたような口調で、アーは手を叩いている。


「そんな君にご褒美だ、情報を与えよう。人をダンジョンへと変えているのも、姿


「……どういうことだ」


「底無しの欲望がダンジョンへと変わる。そして万物を欲する想いが瘴気となり、魔物モンスターを、宝箱を形成する。そうなれば人間という器じゃ、欲望の権化たるダンジョンを縛るには小さすぎる」


 何を言っているんだコイツは。

 フードで日光を遮り続けたせいで頭がイカれたのか?


「ここから説明しなきゃいけないのか……ダンジョンってのは」


「御託はいい」


 ダンジョンの成り立ちについて悠長に聴いている暇などない。

 さっさとコイツを倒して能力を解除させなければ、2人がダンジョンになってしまうから。


「おや、聴かないのかい? せっかく君たちに有益な情報を提供してやろうとしているのに」


「知るか。お前が重ねてきた罪もな。だが1つ言えることは」


「言えることは?」


「テメェは死刑となる。確実にな」


「ハッ!!」


 鼻で笑い飛ばしやがった。

 今際の際かもしれないってのにな。


「無駄だよ、僕の能力タレントスキルを見なかったのかい。君がいくら傷をつけようが回生するだけだ!!」


「そうかよ」


 勝手に盛り上がっている悪童へ向け、ゆっくりと、そして首元を指すように黒いカットラスの切先を向ける。


「普段は使わないようにしているけどな。仕方ない」


「探索者くんがいっつも使っている武器で? それで切っても無駄だってわかったばかりじゃないか!!」


 そりゃそうだ。

 


「1つ、コレを解放したら時空が歪む。おかげで配信が出来なくなってしまうもんで、普段からセットはできない」


「はっ、何を言って」


「2つ、オレはこのを制御し切れない。故に命を奪ってしまうかもだが……さっき言った通り遅かれ早かれだ」


 本当は司法に任せるのが一番なのだが、それだと救える命も救えない。

 だから目の前の罪人へ宣告するように。

 そして今から犯す人としての禁忌の言い訳をするように、1つひとつ淡々と告げる。


「そして3つ。強い感情を持たなきゃ暴走して味方も巻き込んじまう可能性はあるがな」


「っ、ぇ」


 恩人アブドゥールさんを殺されかけてキレないわけがない。

 右手に握る神へ意識を向けつつ、殺意と怒気を爆発させ。


「〈セット:黒き次元門の鍵爪カーラ・ストラ〉ッッ!!」


 カットラスの形をした神器の真名をうたうと同時に、アーの身体が2つに分かれ。

 その背後に聳える闘技場の客席を、またダンジョンの外に建っていたマンションやビルすらも真っ二つに引き裂き。


「ッ……?」


「肉体は弱体化しているもんでな。お前が精神系の能力者で助かったよ」


 世界の崩壊する音が、遅れて右から、また左から反響した。

 そして宇宙よりも深き黒に染まった神器をカットラスへと戻してゆくと同時に。


地獄で逢おうぜアリヴェデルチ


 本場ロマネス流の別れを告げてやると、ダンジョン製作者は自分の完全敗北を悟り顔を歪ませた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る