#25 最強になると誓ったんだ

 人間をダンジョンへと作り変える敵、アー。

 どんなカラクリがあるかはわからないが、このフードの少年がロマネス国の首都を壊滅させたことは事実だ。警戒しなければならない。


「人型ダンジョンは7つか。1つひとつ完全攻略オールクリアするとなると骨が折れるな」


鑑定アナリティクスに引っ掛からなかった影の正体がコレとは……どれだけの人生を我欲で踏み潰したんだ、この悪童クソガキは”


 WDO特務課の2人が罪人に向けて殺意を露わにしている。


「おや、ビックリしちゃった? そうだよ、ヒンデガルトでの実験は失敗しちゃったからね。1人をダンジョンにするんじゃなくて、数十人をギチギチに混ぜて作ることにしたんだ」


「よく分かった。十数年の生涯は楽しかったか?」


「待てカムナ。クールになるんだ」


「アリヴァ様……申し訳ございません、取り乱しました」


「大丈夫だ、戻ってこれたなら」


 だがそれ以上に怒りを、それも冷静に溜めなければならない。

 ケラケラと笑っているアイツの思う壺かもしれないから。


「察しがいいね。流石はヒンデガルトで邪魔してくれた探索者だなぁ」


「なるほどな。心を乱した人をダンジョンへと変える、そんなところか」


「さぁ?」


 子供特有の声に余裕がある。ポーカーフェイスかもしれないが、オレの予想はきっと外れているだろう。


「しかし探索者くん、君はつまらないね。その成熟し切った心で、いつもダンジョンなんてロマン溢れる場所に潜っているのかい?」


「こちとらオレの配信待ってる人も居るんだ。身体が動く限りは最前線に潜り続けてやるだけだよ」


「アリヴァ様……っ」


「そんな君を推してるファンのほうが、僕は面白いと思うけどね?」


「まあ人って好き嫌い分かれるからな」


「だから本当は探索者くんを凄いダンジョンにしたかったけど……代替案でいっか」


「お前、なにを言って」


 そう言いかけたとき。

 突然、視界がグラッと半月を描くように反転した。


「っ」


「うぅっ!?」


“うぐっ!?”


 オレだけじゃない。カムナも、ダンジョンの外でサポートしているはずのリキも呻き声をあげている。


「僕が無駄口を叩いているだけだと思った?」


「テメェ……!」


 何をしたかは、すぐに分かった。

 目の前に立っているのはフードの少年ではなく、ボロボロの服を着た義妹、ミティア。


「お義兄、ちゃん……っ」


 これは幻覚だ。

 いま、オレが見せられているのは7年前の後悔。

 まだ背も小さかったミティが、ずっと目を覚まさなかったオレを抱きしめ泣いている。

 修道院が、まるで葬式のように静まり返っていた。


「お義父さん、もうダンジョン行けないって……お義兄ちゃん、どうしよう……どうしよう」


 その日、オレと親父はダンジョン探索に失敗した。

 凡ミスで罠にかかったところを魔物モンスターに襲われ、未登録ダンジョン探索のライセンスを取ったばかりだったオレは生死の境目を彷徨った。

 そんな役立たずを抱えながら、数多の罠を踏み抜き、親父は逃げおおせたのだ。

 親父ではなく親母となる代償を払ってでも。


「そうだ。全部オレが悪い。あのとき弱かったから、大切なものを失った」


 だから涙と共に、強くなると誓った。


「お義兄ちゃん、ダンジョン、潜ってくれるの……?」


「当たり前だ」


 もう失いたくないから、強くなると誓った。


「いっぺんたりとも忘れたことはない。大切な人たちを守るために、そして親父がオレを守ったことを後悔させないために」


 最強の探索者になると、誓ったんだ。


「っ、戻ってくるの早すぎでしょ……!」


「悪いが心も最強じゃなきゃいけないんでな」


 砕けた幻想の先でクソガキが狼狽している。


「手の内は割れた。お仕置きといこうじゃねえか」


 いまのオレは配信者じゃねえんだ。

 慈悲なんざ期待するなよ。

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