#24 ダンジョン専門の特殊部隊がヤバすぎる

 カムナちゃんは最初から、現地へ先着していた特務課の同僚を目標にしてワープする算段を立てていたようだ。

 ワームホールを潜ると、そこは突然現れたダンジョンによって混沌と化した首都の姿があった。

 マンションやビルからは生活の気配が絶え、ダンジョンの瘴気に当てられたのか風化も始まっていた。


「アリヴァさんですね。話はカムナビから聞いております」


「カムナビ……あぁ」


 カムナちゃんのことか。どうもハンドルネームで慣れてしまっているせいで違和感を持ってしまう。

 一瞬躁鬱な空気が横から流れてきたが、すぐに陽光のような輝きへと変わっていた。表情は変わらないくせに感情は忙しない奴だな。


「リキ、ダンジョンの様子は?」


「幸い、規模の変化はありません。モンスター数、生存者数も同様です。ただ」


「ただ?」


 リキと呼ばれたオールバックのエージェントが、少しぼやかすような口調でスマートフォンの画面を見せる。


「僕のタレントスキル『鑑定アナリティクス』でも分析できない空白地帯があり……それも、肥えた魔物モンスターのような形状をしていて」


「ん、鑑定?」


「はい。特務三課は全員、『鑑定』でカテゴライズが可能な能力者で構成されております!」


「一人ひとりの才能、大雑把すぎない?」


「カムナビ、特務課の内情を口外するのは控えたほうがいい」


「遅かれ早かれ、アリヴァ様なら結論へ辿り着く。ならばさっさと説明したほうが、考察の時間やリソースに無駄がなくて済む、違うか?」


 違うと思うけどなぁ。


「とりあえず整理すると、カムナビさ」


「カムナビ……?」


「か、カムナちゃんは能力や構造の分析、リキさんはダンジョン内部の情報の解析って認識でいいのか?」


「まだまだカムナの力はこんなものではありません! 貴方様への愛で、無限の進化を」


「職員カムナビ、同僚として忠告するが公私混同は控えるように」


「……」


 やーい、怒られてやんの。


「ともかく、突入はカムナちゃんと一緒って認識でいいのか?」


「はい。カムナビは前衛で、リキは後衛でサポート致します。内部情報はリアルタイムでアリヴァさんの端末へ共有されるため、こちらをご確認いただければ探索も容易になるかと」


「手厚いな……常に『怪盗の地図』を使って、内部情報を探れるようなものか」


 未登録ダンジョンを初見で攻略するっていうスタイルには反するが、国の存亡が掛かっているのだ。

 それに主人ネフェたんが居ないせいか、身体の動きが錆びついたように鈍ってしまっている。


「凄く助かるよ。背中は任せてもいいか?」


 こんな状況で突撃したら、間違いなく初見殺しに引っかかって冥府行きだ。ここは好意に甘えよう。


「は、はひぃっ!」


「それが我々の仕事ですので」


 なんか緊張しているプロフェッショナルが1人いる気がするが、見なかったことにした。


 そしてすぐに、この選択は正しかったと思い知らされる。


『ゲコロォロロ』


『ズッ、ズッ!』


“周囲100メートルにSS級魔物を4体確認。うち2体は獣型、もう2体は物質型と特定”


「了解、鑑定完了。〈パッシブ:クリティカルヒットⅨ〉、〈パッシブ:ロックオンⅧ〉、〈セット:太刀斬恋情たちきりれんじょう〉」


 偵察の報告と同時に敵の弱点を解析し、実力差があろうとも一刀に伏してゆく。


「エリアA確保」


“了解。目標までの最適ルート、分析完了。職員カムナビは右翼側を、アリヴァさんは左翼側をお願いします”


「了解」


「宝箱を回収しつつ、魔物モンスターを上限いっぱいでおびき寄せて一気に蹴散らすってことね。オーケー!」


 正直な話、凄いの一言しかなかった。

 全ての動きが最適化されているうえ、オレがどう動くかも計算に入れて制圧作戦を組み、実際に結果を出せている。

 当然、察知したトラップを踏むこともなく突き進み続けられ、ものの数分もしないうちに最奥部へと到着し。


“合流を確認。殲滅してください”


 互いに連れてきた魔物を討ち倒し合い、完全攻略まであと一歩のところまで来れてしまった。


「……マジで凄えな。オレら配信者のやっていることがオママゴトみたいだ」


「カムナたちは、ダンジョン専門の特殊部隊みたいなものですから」


“これもアリヴァさんが我々に合わせてくださったおかげです。もう少しだけ、よろしくお願いします”


「お、おう」


 正直、普段の5分の1ほどしか力を出せていない。

 やはりミイラの身体は不便だ。強まった身体能力も弱体化してしまっては意味がないし、弱点が増えただけ。


“これは杖か。今度こそ年季のある宝物に違いあるまい……ぬ、ただの孫の手、しかもお似合いじゃとぉ!?”


 チラリと動画アプリを覗く。ネフェたんはネフェたんで、宝箱開封配信を頑張っているようだ。

 約束したんだし、さっさと戻らないとな。そうと決まれば気合いを入れ直そうか。


「っし、行くか」


「はい、何処までもお供いたします!!」


“どうか、ご武運を”


 目の前にある鉄格子のような檻を上にあげ、ボス部屋と言わんばかりのコロセウムへと入場した。


『ウォオオオオッッ!!』


 円形闘技場の客席は超満員。しかし、人間ではなく獣の臭いで立ち込めている。

 いまは深夜のはずだが、月の代わりに太陽が天上を支配し、空を血に近い茜色へと染め上げていた。


「なるほどな。コイツがボスか」


「アリヴァ様の配信に出ていたダンジョン製作者クソムシのフード……同一組織の輩と見て間違い無いでしょう」


 コロセウムを支配していたのは、1479ミリメートルの小さな背丈、そして手足を見るに年端も行かない少年だった。


「……ここまで速く攻略されるなんて思わなかったな。君たちは一体何者なんだい?」


「貴様が知る必要は無い。国際機関に少年法が通じると思うな」


「首都は公園じゃないんだぞ。分かったらお家に帰ってDTubeでも観てな」


「随分と舐めてくれるね。僕の名は『アー』、これでもダンジョン製作者の一人なんだけどな」


「耳障りだ!」


「っと!?」


 自己紹介代わりに3発の銃声が鳴った。

 挨拶中の攻撃は失礼極まりないが、このイカれ女には関係ないようだ。

 しかしアーも手練れのようで、を盾にして防いでみせてくる。


「酷いな、君モテたことないでしょ」


「人生は最推しアリヴァ様が居れば十分だ」


「おかげでサプライズが台無しだ」


 そう告げると、銃弾を防いだ肉の塊がその姿を展開する。


「っ!?」


 ブヨブヨとした肥満体に腐乱臭。そして中から出てくる魔物モンスター

 見覚えがありすぎる。まさか、コイツ!


「人型ダンジョンを作った奴か!!」


「へぇえ、アレ完全攻略した探索者か! こりゃ楽しくなってきたね!」


「……ッ」


 言葉が詰まってしまった。

 今回のボスは、必ずこの手で倒さねばならない。

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